1. トップ
  2. すでに名作の予感『最愛』1話。朝ドラのような清冽な物語が一転!

すでに名作の予感『最愛』1話。朝ドラのような清冽な物語が一転!

  • 2021.10.22

10/15からスタートした金曜ドラマ『最愛』(TBS)。若い二人のかわいい恋がある事件によって突然終わりを告げ、15年ぶりに出会ったときには刑事と重要参考人という立場になっていたーー。吉高由里子主演、完全オリジナルのサスペンスラブストーリーの1話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵が振り返ります。

強力タッグによる、満を持してのオリジナルストーリー

人は15年前のことをどれくらい覚えているものだろうか。
『最愛』の主人公・真田梨央(吉高由里子)は18歳の頃大好きだった相手に15年後、「はじめまして」と挨拶をした。

プロデュース・新井順子✕演出・塚原あゆ子✕脚本・奥寺佐渡子の組み合わせは2013年の『夜行観覧車』、2014年『Nのために』、2017年の『リバース』と湊かなえ作品を手掛けてきたタッグ。もうひとり脚本に名を連ねる清水友佳子も奥寺とともに『夜行観覧車』『リバース』を手掛けてきた。『最愛』は、強力な原作をもとに名作ミステリードラマを生み出してきたスタッフ陣が、満を持して手掛けた完全オリジナル作品だ。

映像の美しさ、忍び寄る謎の不穏さ、スリリングな展開、ここぞというところでかかる宇多田ヒカルの主題歌。そしてもちろん俳優陣の演技。どれをとっても渾身の作品であることが伝わってくる。オリジナルで名作ドラマを生み出そうという気概が端々から感じられる。

美しい世界は、ある日突然崩れ去る

梨央は岐阜・白川郷で大学陸上部男子寮の寮夫を務める父(光石研)と弟(柊木陽太)に囲まれて育った18歳の少女として登場する。陸上部のエース・宮崎大輝(松下洸平)と互いに惹かれ合っている。

森に囲まれた田園風景と、合掌造りの家々。その中を自転車で颯爽と駆け抜ける梨央。好きな人の晴れ舞台である陸上の大会を応援するため全速力で走る姿。もうお互い気持ちはわかっているけれどまだ言葉にしていない若い男女の甘酸っぱい関係性。弟を心配して東京の大学へ行くべきか迷う姿でさえ眩しい。事件が起きるまでの梨央の姿は、まるで朝ドラの主人公のようだ。

その美しい世界は、ある日突然崩れ去る。父が不在の寮に渡辺康介(朝井大智)がやってくる。どうやら彼は歓迎されざる客らしい。ちょっかいをかけてくる彼から逃げるように「帰ります」と言ったところで梨央の記憶は途切れ、次に自宅の布団で目を覚ますと腕に覚えのない傷がある。父は泥だらけでどこかから帰り、「お父さんがもう少し早う帰っていれば。ごめんな」と告げる。

翌日、もやもやを抱えながら梨央が東京の大学へ受験に行っている間に、父はクモ膜下出血で亡くなってしまうーー。

15年前の鍵を握る「記憶」

梨央は弁護士・加瀬(井浦新)を通じ、しばらく会っていなかった母・梓(薬師丸ひろ子)を頼ることに決める。それはどうやら、それまでの人生を捨てることになるらしい。大好きだった大輝とも、心配していた弟とももう会えない。梓は「真田ファミリーへようこそ」と梨央を迎える。
そして15年後の2021年。梨央は実業家として「世界を変える100人の30代」に選ばれるほどになっている。梨央が率いる会社の専務(及川光博)は彼女の失脚を狙っている様子。梨央はそんなふうに生き馬の目を抜くビジネスの世界で生きていることになる。

15年前、康介の失踪について聞いて回っていた康介の父・昭(酒向芳)が殺される。刑事になった大輝が昭が生前訪れていた真田ウェルネスの代表を重要参考人として尋ねる。その人こそ、15年ぶりに会う梨央だった。

梨央の弟は公園の遊具からの落下事故の影響で、興奮すると記憶をなくしてしまうという病気をもっていた。梨央自身、康介が来た夜の記憶をなくしている。そして現在の梨央も大輝の存在を忘れているらしき振る舞いをする。

渡辺親子を殺害したのは誰か。真実はいったいどこにあって、梨央と大輝、二人の関係性は一体どうなるのか。オープニングで一瞬流れた、パトカーに乗り込む梨央の手についていた血は一体誰のものか。1話を見た限り、「記憶」が鍵を握っているように見える。

康介から逃げようとした梨央が「帰ります、おやすみなさい」と言った瞬間、その梨央の映像が黒い箱に閉じ込められるようにして『最愛』のタイトルが出る。それはまるで彼女の記憶を閉じ込めたかのようにも見える。

タイトルといえば、WEBなどに使われているピンク色のロゴは、やわらかな字体で『最愛』と書かれているが、よく見ると文字のバランスがおかしい。それぞれのパーツが少しずつずれている。それはまるで、最愛の人を守るためにしたことが、結果お互いの関係をずれさせてしまうこの物語を象徴しているようだ。

『最愛』公式サイト(TBS)

脚本: 奥寺佐渡子、清水友佳子
演出: 塚原あゆ子、山本剛義、村尾嘉昭
出演: 吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉 他
主題歌: 宇多田ヒカル「君に夢中」

『最愛』

元記事で読む
の記事をもっとみる