1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 子どもとのお風呂時間と昔話

子どもとのお風呂時間と昔話

  • 2021.10.15

我が家では、もうずいぶん前から子どもと一緒にお風呂には入っていません。

これはおそらく、長期休暇を利用してフランスとの行き来をしていたためだと思います。向こうでは、大概、いくら子どもが小さくても同じバスタブに浸かることはなく、親は洋服を着たまま傍にいながら、子どもの体を洗ってあげるのが通常です。

息子も、フランスに行けばバスルームには洗い場がないので、小さいうちからバスタブに1人で入っていました。私は脇でシャンプーを泡だてたり、シャワーの温度調整をしたり、背中を流してあげたりという役です。

そして日本に帰ると、今度は日本流に一緒に湯船に入る。

そうこうしているうちに、日本でも早々に、一緒には入らなくなったのです。体を洗ってあげたら、あとは私は脱衣所でタオル片手に待機。

5歳ぐらいでしょうか。まだ保育園では先生方から「お風呂の時間は大切なスキンシップの時間です」「たっぷりと時間をかけるように」と言われている頃でした。

なんとなくお風呂の時間がフランス流になってしまった我が家です。保育士さんの指示通りにはできない代わりに、潔白を証明するかのように、「寝る前には膝に乗せて読み聞かせをしているので、大丈夫です」とアピールしたのを覚えています。スキンシップやコミュニケーションの時間をちゃんと補っていると。果たしてそれが正しかったかどうかは分かりませんが。

もっとも、ドア越しとはいえ全くコミュニケーションがなかったわけでもありません。

湯船に浸かるとリラックスするので、急に心の奥にあったことが出てきて、立板に水のように話すのは子どもあるあるではないでしょうか。

我が家も然りで、私は脱衣所の腰掛けに座り、お風呂場のドアの隙間から、湯気とともに聞こえてくる「ねえ、ママ~」に「なあに?」と答えて、息子がする話に耳を傾けたものでした。

今でも、入浴の手伝いこそしませんが相変わらずドア越しにいろいろな話をしています。

そんな中、ふと私の幼少期のお風呂時間を思い出しました。そういえば母と一緒に湯船に浸かると、必ずと言っていいほど、クラゲが骨を抜かれる話をしてくれたな。決して「語り」が上手い母ではありませんでしたが、その話の温かみや昔話そのものが持つ味わい深さやおかしみが十分伝わったことは印象に残っています。

そこで、早速図書館に言って昔話全集を漁ってみるとありました、ありました!

地方によってはバージョンが異なりますが、『くらげ骨なし』とか『猿の生肝』というタイトルのお話が見つかりました。

竜宮のお姫様が、あるとき病気にかかってしまいます。特効薬として猿の生肝が欲しいと言い、そこで使いのものを陸に向かわせます。猿が竜宮に連れられてくる途中、クラゲがうっかり、「肝を抜かれるため」と訳をバラしてしまいます。猿はもちろん逃げてしまい、クラゲは罰として骨を抜かれるという展開です。この猿の逃げ方がとても知恵があって面白いんです。

どうかな、これをひとつ息子に読んで聞かせてみよう。

というわけで、借りてきた昔話全集を脱衣所で開いてみました。

読んでみるとあっという間でしたが、「ふーん」とドアの向こうで噛み締めている様子。こんなに短いならいくらでもなどと思っていると、「他にもない?」とリクエストが。

そういうわけで、この頃は入浴のたびに「昔話、読んで~」と息子に言われ、毎晩3つ4つ選んで読んで聞かせています。

聞く側のみならず話す側にとっても、昔話は、なんて心を落ち着かせてくれるものでしょう!

その理由は、どうやらこういうことのようです。

「こうした昔話を聞くとき、人は、主人公に自分を重ね、主人公と一緒に成功して幸せになる体験をすることができます。だから、あなたも今のままで大丈夫、と、昔話はいつも、昔話を聞く人を肯定し、祝福してくれます」

『ちゃあちゃんのむかしばなし』(福音館書店)の中で、再話著者の中脇初枝さんがこのように言っています。

もう、読み聞かせの時期は終わったと思っていたのに、まだまだ、まだまだ。

いくつになってもそういう時間があってもいい。人は、肯定され、祝福されることが必要ですから。

というわけで、まずは『ちゃあちゃんの昔話』(中脇初枝:再話、奈路道程:絵/福音館書店)

主に現在の高知県で伝承されてきたお話を集めたものですが、バージョン違いでだれもが知っているようなお話も載っています。『舌切りすずめ』や『かちかち山』はもとより、馴染みのある構成や繰り返しに安堵感を覚える類話や、ときには聞いたこともないような珍しいお話も語られています。1話1話が短く、ものの2~3分で読めてしまうものばかりです。おやすみ前でも、起床時でも、もちろん我が家のようなお風呂のときでも、いつでも、いくつの子相手でも、ほんのちょっとだけ時間を割いて読んでみてはいかがでしょうか。小学校で高学年に昔話を聞かせると、難しい年ごろに差し掛かっているのに、みんなよく聞いてくれます。やはり強い吸引力を感じないではいられません。では数年後、息子が本格的な反抗期になったときはどうなるだろう。ぜひ試してみたい。楽しみにその時を待っています。

絵本では、例えばフレーベル館の『さるかに』

お母さんがにが猿に騙され柿の種とにぎりめしを交換します。ところが柿の種をまいて、せっせと世話をすると、立派な木になり実がわんさか成りました。そこへ猿がやってきて、熟れた実は自分で食ってしまい、青い実はかににたたきつけて殺してしまいます。そこで出てきた子がにたちの復讐劇が始まる、というお馴染みのお話。絵本でもさまざまな描き方があるので、それぞれお好みがあるでしょう。今回は、このフレーベル館のバージョンで。松谷みよ子さんのリズミカルで読みやすい文と、瀬川康男さんの躍動感とおかしみがある和風画は根強いファンも多い筈。なかなか手に入らなければ、ぜひ図書館で一度手にしてみてください。昔話の魅力がいっぱいに広がります。柿が美味しい秋にはやっぱりこれでしょう!(幼児から)。

『したきりすずめ』(石井桃子:再話、赤羽末吉:画/福音館書店)

心優しいおじいさんが怪我をした雀を助けます。おじいさんに懐いた雀は、可愛がってもらうことに。しかしそれを面白く思わないお婆さんは、うっかり糊を食べてしまった雀の舌をちょん切って、逃がしてしまいます。悲しんだお爺さんは雀を探しに山へ入ると……。代表的な昔話ですが、まずはこちらのバージョンがお勧め。美しい日本語とアニメ版にはない味わい深い絵で、昔話の世界にどっぷり浸って(4歳から)。

(Anne)

元記事で読む
の記事をもっとみる