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ワーケーションとは?働き手・自治体・企業それぞれのメリット・デメリットを解説

  • 2021.10.12

テレワーク推進をはじめとする働き方改革の一環として、あるいは新しい旅のスタイルとして注目されている「ワーケーション」。その定義について、さらにワーケーションを実施するに当たってのメリット・デメリットについて、日本航空株式会社でワーケーション推進に取り組む東原氏にヒアリングしつつ、自治体・企業・働き手それぞれの立場からまとめてみた。

新しい働き方「ワーケーション」とは?

ワーケーションとは、観光庁によれば次のように定義される。

ワーケーションとは?
Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語。テレワーク等を活用し、リゾート地や温泉地、国立公園等、普段の職場とは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行うことです。休暇主体と仕事主体の2つのパターンがあります。Harumari Inc.

(参考:「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー

このような定義となっているものの、実態としては多様なワーケーションのケースが生まれており、もう少し詳しく分類して説明しよう。

ワーケーションの具体的な分類

日本におけるワーケーションの具体的な分類は、観光庁による「休暇型」「業務型」の2つに加えて近年は両者を折衷する「日常埋込型」「ブリージャー」も登場するなど、多様化が進む。ここでは、山梨大学生命環境学部地域社会システム学科教授の田中敦氏の作成した分類を参考にしたい。

Ⅰ.「休暇活用型」…休暇の中に仕事を織り込んだスタイル。(従来の【休暇型】)
Ⅱ.「日常埋込型」…仕事と休暇を重ねて織り込んだスタイル(従来の【業務型+休暇型】)
Ⅲ.「ブリージャー」…出張前後にレジャーをつけ足す(従来の【業務型+休暇型】)
Ⅳ.「オフサイトミーティング」…業務としてオフサイトでの会議やグループでの研修を行う(従来の【業務型】)

観光庁の提示する「休暇型」は(福利厚生型)とも表記されており、交通費の全額または一部を会社が支給することや、すべての社員に適応されたりというイメージを持ちがちだが、実際は、あくまで休暇の一環として扱い、旅行に関する費用は社員側が負担することが一般的であり、テレワーク規程などで対象社員が限られるケースの方が多い。企業の担当者や働く人にとって、この点は留意しておく必要があるだろう。

ワーケーションが注目される理由

日本でワーケーションが盛り上がりを見せ始めたのは2017年頃からだとされている。
まず「働き方改革」の流れをうけ、リフレッシュや自己研鑽を兼ねて旅しながら仕事できることなど、「旅×自由な仕事」という観点からその有意義さが着目された。同時に、企業では有給休暇の取得促進といった健康経営という考え方でもワーケーションは有力視されてきた。
そして昨今の新型コロナウイルスの蔓延をうけて人々の生活や働き方が改めて大きく見直されつつある中で「ニューノーマル」なスタイルとして注目されている。
さらに、ワーケーションは「社会課題の解決につながる」という観点からも、その有効性が期待されている。例えば、ワーケーションは労働力が不足する地方において「関係人口」を増やしていくという効果も期待できる。また、働く人にとって「働き方」が所属先選びの重要な指標になる近い将来、ワークシェアや地方滞在といった多様な勤務形態を提供することは「選ばれる側」である企業にとっての採用競争力といった観点での魅力を増加させることも期待されている。
現在こうした事情もあり、観光庁・環境省を始めとした行政からもワーケーションを導入する企業や自治体へ助成金が出るなど、国を揚げてその普及に取り組んでいるところだ。

ワーケーションのメリット・デメリット

結局のところ、ワーケーションは何が良いのか?それは、企業・自治体・働く人、それぞれの立場によって異なったメリット・デメリットを持っているため、その3つの立場で整理してみよう。

ワーケーションを導入する企業側のメリット・デメリット

ワーケーションの導入によって企業に発生するメリットは、まず企業内で「柔軟性のある働き方が推進できること」だ。同時に、休暇が取得しやすくなることで従業員の「時間の質」を高めることにも繋がる。こうした柔軟性や社員の時間意識の変革が労働生産性の向上や、企業成長に繋がると考えられる。
また、社員の「心理的にポジティブな変化」が期待できる点も魅力的である。例えば日本航空で実施されたハワイでのワーケーション実証実験では、実施後にアンケートを行ったところ「今の会社で引き続き働きたいと思うか」という質問に対してポジティブな回答がワーケーション実施後も継続して見られたという。これは社員の帰属意識の高まりという点で効果がありそうな結果だ。

一方、デメリットとして「コスト」と「労務管理の難しさ」だ。これが多くの企業でワーケーション導入足止めの要因となっている。「コスト」ではICT環境やセキュリティ対策の整備等への投資が必要であるのに加えて、ワーケーションを休暇型でなく企業主導である業務型で行う場合、制度の導入方法によっては経費精算が発生する可能性もあり、費用負担の考え方の整理も急務である。「労務管理」では、社員を守る観点からとりわけ業務と休暇の線引きが肝心だが、同じ日に休暇時間と労働時間をどのように線引きするか、といったルールを定める必要が出てくる。また、テレワークが進む中で、会社への申告なく休暇中に旅先で仕事をする「隠れワーケーター」の存在などは、企業側としては避けたいところであり、より推進をしていく上では、制度の明確化が必要となってくる。

ワーケーションを誘致する自治体のメリット・デメリット

ワーケーションを誘致する自治体のメリットとしていわゆる「関係人口」の増加やその企業の誘致を含めた経済効果は、自治体の多くがワーケーション導入に積極的になる最も大きな理由でもある。まずシンプルに、通常の旅行に加えて勤務分の滞在日数が伸びることで現地での観光機会等が増える。また、ワーケーションが普及すれば、ひとり当たりの旅の回数が上がり、これまでは旅先の候補に上がらなかった地域にも目が向く可能性が高い。
更に、今ワーケーション向け長期滞在ツアーの造成や環境づくりをすることは、将来的にインバウンド需要が回復するタイミングで外国人向けにも応用できる。

対するデメリットとしては、その環境整備に時間とコストが掛かる場合があるという点だ。ワーケーションとはいっても、あくまでも旅を伴うバケーションの魅力があってこその話であって、従来の地方創生や観光資源開発といった課題解決と表裏一体である。加えて、IT環境やインフラ整備、さらには企業を誘致するといった新たなコストも発生してくるため実現はそう容易ではない。また「ワーケーション」という言葉に翻弄され、自治体同士や内部の連携・環境整備が追い付いていない実情も地域によってはあるようだ。

働く人のメリット・デメリット

働く人がワーケーションに参加するメリットは、旅行の本質的価値に直結するものが多い。
まずは、旅行を通じて「自身や会社を外から俯瞰できること」。今後のキャリアや今のモチベーションなどをじっくり考えるためには、普段の閉鎖的な環境よりも、生活圏の外にいることで冷静になり、決断や判断ができることもある。
また、旅による非日常の刺激や発見の機会が増やせるのもメリットの一つだ。
さらに、ワーケーションで得られる「人脈」も重要な魅力となる。長期滞在によって地元の人々と触れあう機会も増えるだけでなく、現地のコワーキングスペースなどを利用すれば同じように都心から来ている人たちとの接点も生まれる。後の仕事につながることもあり得る。

一方、デメリットとしては、「仕事と休暇」のメリハリをつけることの難しさだ。旅先であっても仕事をする場合に、集中力やテレワークを通じたコミュニケーション力が問われることになり、無計画に実行してしまうと仕事も遊びも中途半端という結果になりかねない。さらに、所属する企業の制度・風土によってはワーケーションに参加し辛いこと、あるいは家族など同伴者をどうするかといった課題もあり、これらはいずれも企業や自治体のデメリットと深くリンクするものである。

日本のワーケーション普及の課題と解決に向けた動き

企業側の課題解決

ワーケーションを導入する企業の課題は、先で上げた「コスト」「労務管理」の課題はもちろんワーケーションの実施回数を重ね、企業自らその経験を発信していくことで、新たな働き方を導入・活用しやすい風土を創り上げていくことである。度々指摘される「生産性」については、そもそもワーケーションの期間内のみで計測することが妥当であるか疑わしく、それよりも、社員が気持ちよく働ける環境づくりのもたらすポジティブな側面に目を向けながら、ワーケーションについての理解・気づきを繰り返すことで、長期的で包括的な健康経営を目指すことが望ましい。

自治体の課題解決

ワーケーションを誘致する自治体にとっての課題は、「ワーケーション」の言葉に踊らされず、そもそも滞在先としての魅力の強化にある。街づくりや、その土地ならではのワーケーション体験や仕組みを作っていくことである。一例として、ゲストハウスでの現地のことを何でも知っているオーナーのように“ここを訪れれば全てがわかる”スポットやサービスがあると良いかもしれない。また、利用者層を限定したり、一定の対象に限定したりするマーケティングも有意義だ。つまり結局は観光需要の開拓という点に尽きる。

働く人の課題解決

働く人の課題は、企業や自治体などの外部環境の進展をまちつつも、自分自身が「働き方」や「休み方」のマインドを変えていくことである。休暇は、仕事の疲れを癒すためだけの時間ではなく、仕事以外を含めた「自分の時間を充実させるもの」という意識を持って、オンとオフのメリハリをつけ、仕事以外の自分らしさを探求していくことで、ワーケーションがより魅力的に感じられるようになる。

JAL独自の取り組み

最後に日本航空での取り組みを紹介しよう。同社では、かなり早い段階で「休暇活用型」「ブリージャー」を中心としてワーケーションを推進してきている。
近年は「働く」ことを問い直す観点から「地域に行って長めの滞在をする」形でのワーケーションを展開している。当ケースでは、働き方の柔軟性を体感するというよりも、地域住民の望むことや、参加者自らが今後労働力の可能性となるもの(農作業や地域での街づくりの提案など)を体験する。こうした実践を継続し、後々は対価が発生する形も見据え、地域と社員双方が成長していける仕組み創りを目指していくという。この取り組みを通じて、働く人は「働く」ということそのものを考えるきっかけを得られるだろう。
また、一人一人誰しもがゆかりの土地・行きたい土地も異なることから、先の取り組みを初動は4地域でのスタートだが、将来的に47都道府県へと広げ、個人が能動的に参加できるきっかけを増やし、ワーケーション制度を通して、例えばだが日本全体の労働力人口の減少といった社会課題を解決できるようなスキームを創り上げられるようになることを目標としているという。

まとめ

ワーケーションの実施自体がゴールなのではなく「各自の目的や目標に向かうツールとして活用することによって有意義となる」ものだ。今回まとめたようなワーケーションメリットを伸ばしつつワーケーションデメリットや課題と向き合い、企業・自治体・働く人各々が第一歩・第一回を踏み出すことによって、新たな動きが加速する。その先で、現在見えている以上の企業・自治体・働く人にとっての三方良しが見えてくるだろう。

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