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虹色の戯れが教えてくれる、アートを楽しむ心 「ル・パルクの色 遊びと企て」@銀座メゾンエルメス フォーラム

  • 2021.10.2
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【TOP画像】《ロング・ウォーク》ファサード展示風景 | 1974-2021 ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

数寄屋橋交差点から見えるメゾンエルメスの建物。今、そのファサードに巨大な虹色の模様があしらわれている。この作品は、アーティスト ジュリオ・ル・パルクによるもの。フランスを拠点に活動する、御年92歳の巨匠だ。現在銀座メゾンエルメス フォーラムでは、彼の日本初となる個展が開催されている。

展示風景 筆者撮影

1928年、アルゼンチンに生まれたル・パルクは、1958年にフランスへの移住以降、同地を拠点に制作を続けている。ピート・モンドリアンや、ロシア構成主義に大きな影響を受け、幾何学的な抽象画の制作を始め、1960年代には、ヴィクトル・ヴァザルリ(1906-1997)の作品への共鳴や、視覚芸術探求グループ(GRAV)をオラシオ・ガルシア = ロッシ、フランソワ・モルレ、フランシスコ・ソブリノ、ジョエル・スタイン、イヴァラルとともに結成するなど、アーティスト同士の協働による活動も並行して推進した。


展示風景 ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

ル・パルクの作品の特徴はなんといっても「色」にある。黒と白、そのグラデーションを出発点に、1959年以降は、自ら構想した14色のみを用いた作品を展開している。展示では、綿密に検討を重ねているスケッチなども見ることができる。


カラープロジェクト no.14 | 1959 ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

作品の色の並びに目を向けると、だんだんと錯覚が起きてくる。物質的には何も変わらないのに、ピントの合わせ方や眼球の動きによって急に無限の奥行が生まれたり、目の前に飛び出してくるような感じがしたりして、楽しい。

シリーズ 14-14 置換 | 1970-2020 ©Atelier Le Parc

ル・パルクは、色を色彩論のように解析するのではなく、色を幾何学的なフォルム、あるいは可変性のメタファーとしてとらえているという。オリジナルの14色も、シリーズごとに色の配列を設定し、回転や反復、分割などのヴァリエーションを探究することで生まれた。


展示風景 ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

色の諧調や変容のメカニズムを見極めながらも自在に扱うことは、ル・パルクにとって色の可能性を要約する試みであり、継続する重要なシリーズとなった。今回の展示においても、60,70年代の作品群を通して、このシリーズの取り組みが見られる。


シリーズ 29より | 1972 筆者撮影

特に、9階の廊下に並んだ小品たちは、奇しくも額のガラスに建物のガラスブロックが映り、ますます複雑化している。レイヤーが異なる四角が並び、その中に自分の像も映りこむので、目でどこを見ればよいのかわからず、バグのような不思議な現象が起きた。これはたまたまの出来事だとしても、展示には他に、ますます見る人自身の動きや見方に連動するような作品がいくつもある。中でも、天井から下げられた巨大なモビールは圧巻だ。

モビール | 2021 筆者撮影 Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

モビール 14色 | 2021 ©Nacása & Partners Inc.

片方の部屋にカラフルな色の板を用いたバージョン、もう片方には鏡のように反射するスチール板を用いたバージョンがある。外の光をキラキラと反射し、自らが動くと万華鏡のように変化するモビールは、平面作品で体験した色の動きの延長であり、作品と鑑賞者の相互の関係がより実感できる作品だ。

反射ブレード(刃板) | 1966-2005 | 筆者撮影


GRAV、街の一日、パリ | 1966 ©Atelier Le Parc

子供のころ感じたような純粋な「楽しさ」をもたらしてくれる、色と戯れる体験。この鑑賞者とアートの関係性もまた、ル・パルクが長年試みてきたことだ。

60年代、彼も参加したGRAVは、視覚的錯覚あるいは動力を用いたキネティック・アートや公共の場における観客参加を促す作品を通じて、従来の美術作品の枠組みや鑑賞方法を覆すような体験を社会に提案した。そしてル・パルクもまた、芸術が限られた人々のみに享受されることや鑑賞者が受動的な立場にとどまることに疑問を投げかけ、誰もが平等に芸術に参加してほしいという願望を形にしていった。そのひとつの要素が、視覚的遊びやゲームなのだ。


連続するライトボックス no.3 | 1959-1965 筆者撮影

街中にいくつもの仕掛けをつくることで都市の体験を変容させ、出会った人々に発見と彩りを与えるル・パルクの遊び心。それは今回の展示にも発揮されていて、建物ファサードの展示はもちろん、1階のウィンドウ・ディスプレイ、エレベーターにもおよんでいる。まるで、展示室の中から銀座の街へと、ル・パルクの世界が滲みだしていくようだ。彼の作品を巡る体験は、アートをピュアに楽しむ原点回帰のような気分と共に、新しいアートの楽しみ方を教えてくれるだろう。


1階のウィンドウ・ディスプレイ 筆者撮影

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