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PTAにモヤモヤしたら読む本。あの組織はなぜ「変わらない」のか?

  • 2021.9.28
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「入退会自由のはずがそうでない」問題から、役員決め、「会費の行方」問題、そして「大きくて深い」問題まで――。

本書『PTA モヤモヤの正体――役員決めから会費、「親も知らない問題」まで』(筑摩選書)は、朝日新聞記者・堀内京子さんがPTAの「?」にぐぐっと迫る、保護者も学校関係者も必読の1冊。

2011年から21年にかけて行った取材メモ、朝日新聞や『論座』などに書いた記事をもとに、新たな取材を加えて書き下ろしている。

「あなたは、PTAの会員になって初めて問題を実感する。そして少しでも改善させようと動いてみたものの、気力も体力も消耗する。(中略)こうして問題はまた先送りされる......」

ピラミッド型の組織

本書の概要は以下のとおり。

子どものいる親の多くが経験するPTA。保護者間の交流などプラス面もある一方で、「?」なことも少なくない。

「入退会は自由」が原則なのに、そうなっていないPTAが大半だ。個別の事情が考慮されないまま、「一人一役」などの仕組みで決められる係。そして上部団体へとその一部が「上納」されるPTA会費。各地のPTAやその上部団体で使途不明金が見つかったこともある。

学校単位のPTAから、それらを束ねる「日P」まで、PTAの「モヤモヤ」に多角的に迫った渾身のドキュメント。

「日P」とは、PTAの全国組織「日本PTA全国協議会」のこと。日本のPTAはピラミッド型の組織になっていて、「日P」はその頂点に位置する。

本書では、2つのPTA――1つは学校ごとにある「小さなPTA」(単P)、もう1つは「小さなPTA」を束ねた市区レベルの連合体、それをまとめた都道府県レベルの上部団体、さらにそれを統括する「日P」という「大きなPTA」――があることを前提に話が進んでいく。

■目次

第1章 まだまだおかしいPTA
初のPTA活動、1年目で挫折
親をモヤモヤさせるのは......
PTAを「変える」ことの難しさ
第2章 これだけは知っておきたいPTA
PTAの仕組みの基本
PTAはどのように始まったのか?
第3章 親も知らないPTAの世界
「大きなPTA」の解剖――「P連」の世界
PTA組織の頂点、「日P」とは?
第4章 「大きなPTA」はどこへ行く?
「親学」とPTAと現実政治と
PTAと日本青年会議所(JC)
第5章 これからのPTAのために
特別編 不合理なことは不合理だと声を出す......前川喜平氏インタビュー

どこへ向かう「日本PTA丸」

「PTAは入退会が自由で、参加は強制ではない」――。え、そうだったの? という感じである。

著者は取材を始めたころ、「その原則が多くの人に知られればPTA会員も減って、会費や行事、ローカルルールが見直され、時間とともに問題は解決する」と想像していた。

しかし、その原則を「知らせたくない」という力が働く上に、少しの会員減少やルール変更では、PTAのピラミッド構造はびくともしなかったという。そこで、全国組織のPTAをわかりやすく「巨大な船」にたとえている。

「日本PTA丸」は公称で800万の乗客を乗せているが、操舵室に入れるのは64人(47都道府県、16の政令都市のPTA連合会長)のみ。メンバーの顔ぶれは毎年変わり、右にも左にも針路がふれる。

「PTA会費を払っている会員の多くは、そんな巨大船に乗せられていることに気づいていないし、どこへ向かっているのかも知らない」

私も当事者になったら

著者は7年前、子どもが入学する区立小の学校説明会に出席していた。「あの......確認なんですけれど、ここのPTAは入退会自由ですよね?」。こう質問したところ、会場が一瞬、静まりかえった。

そのころ、PTAの取材は3年目に入っていた。PTAを変えようと奮闘する保護者を取材するうちに、「安全地帯で笛を吹くみたいに記事を書いているだけでなく、私も当事者になったら、PTAについては筋を通そう」と決めていたというが......。

「けれど、声を上げたからといってうまくいくとは限らない。まずは、PTAに入って1年目でぽきりと心が折れたというケースを紹介したい。私です」

著者は新聞記者としてPTAの「モヤモヤ」に鋭く迫りつつ、このように一保護者として体験談を盛り込んで書いている。著者の当事者目線と勇気ある言動に、親近感をもった。

まさに今モヤモヤしている人、来年度のことを心配している人にとって、本書は頼もしい存在にちがいない。

■堀内京子さんプロフィール

1997年より朝日新聞記者。経済部、文化くらし報道部、特別報道部など。執筆陣の一人として『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)、『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社)、『ルポ 税金地獄』(文春新書)に参加。

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