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男はそれをガマンできない【彼氏の顔が覚えられません 第36話】

  • 2015.7.16
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いつか、ネットのニュースで読んだことがある。男性何名かにアンケートを取って、「ガリ痩せの女性」と「ポッチャリだけど巨乳の女性」のどっちがいいか答えてもらったところ、7~8割くらいが「ポッチャリ」を選んだそうだ。

思うに、これは聞き方に問題があるように思えてならない。「スレンダーで美乳の女性」と「デブな女性」だったら、似たような選択肢ではあるけれど、結果は完全に逆転していたことだろう。

「ガリ」と「スレンダー」、「デブ」と「ポッチャリ」というワードの違いもあるが、要は「乳」だ。このアンケートからわかるのは、男は女の乳しか見てないと、そういうことなのだ。

――なんてことを、自分自身で痛感したのが2月14日。渋谷のせまいスタジオでシノザキと二人きりになったとき。イズミという愛しい恋人がいながら、俺は別の女の、ぴったりしたTシャツによって強調されたふくよかな胸に、男の性ゆえの妙な興奮を覚えていた。

「ほら、やっぱりタニムラ君も暑いのよ。顔真っ赤。上着脱いだら?」

なんて、少し前屈みの姿勢で上目遣いになりながら話しかけてくる。Tシャツの胸元から谷間が覗いている。冷静に考えたら、ただの脂肪。なんでこんなものに、ついつい見入ってしまうのだろう。

諸説聞いたことがある。男はマザコンだから、母親の乳を吸った幼少期の記憶が忘れられないからだと。だがそれを言うなら、女だって母乳で育つ。なぜ女はマザコンにならないのかの説明ができない。

今のところ俺の中で納得いっているのは、動物学的なセックスシンボルだからだという答えだ。雄のゴリラが、雌の大きな尻を見て興奮するようなもの。2足歩行の人間の場合は、なかなか尻まで目が届かない。その代わりとして、尻より目が届きやすい胸が大きく発達したと。

…だからといって、恋人でもない女の胸をジロジロ見ることの言い訳にはならないな。人間は社会的動物なのだ。理性でもって、なんとか抑えなきゃいけない。

「ちょっとトイレ行ってくる」

そう言ってギターを置いて立ち上がる。一度シノザキから離れて冷静になる必要がある。やつは「はーい、いっトイレー」なんてくだらないことを言いながら、ギターの練習に戻る。

用を足しながら、改めて考えてみる。シノザキの目的は何なのか。最初に近づいてきたときは確かに、「ギターを教えてほしい」だった。「それなら軽音部に入部すりゃあいいじゃないか」と言えば、

「部活はもう、高校のスイ部(吹奏楽部)で懲りたからさー。人間関係とかメンドくさいし」

と。理屈はわからんでもない。しかし、なぜ俺なのか。昔からの知り合いで声がかけやすかった? 俺の方は、高校時代からそんなに仲良くした覚えはないが。体型はともかく、名前すら忘れるくらいだ。

やつの方も、自分からは話しかけてこなかった。練習中に声をかけても、返事すらないことが多々あった。ぶっきらぼうなやつだなと思っていたが…。

結局、答えがでないままスタジオに戻る。ふと椅子の上に、プレゼントみたいな包みが置いてある。

「え…何これ…」

訊くと、

「何って…チョコレートだけど」

あっけらかんと、シノザキは答える。

え、えぇー…。

丁寧に、リボンまで巻かれて。どう見ても、「本命」と言うべき代物だった。

(つづく)

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(平原 学)

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