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"シニア向け"商品をヒットさせるために絶対やってはいけないこと

  • 2021.9.23
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人口の多いシニア層の取り込みを狙う企業は増えています。マーケターの桶谷功さんは「『シニアご用達』のイメージがつくと、若い世代が離れていきますし、当のシニア層も「シニア向け」というイメージが強すぎるものを敬遠します。若いイメージを保ちつつ、シニアを開拓していく工夫が欠かせません」といいます――。

これまでのアパレルにはない発想

こんにちは、桶谷功です。

ユニクロ、メルカリ、そしてソニーのロボット犬「aibo(アイボ)」……。

一見バラバラで脈絡のないこの3つですが、マーケティングという観点から見ると、実は非常にはっきりした共通点があることにお気づきでしょうか。

その共通点とは、従来とは違う新たな顧客層の開拓に成功したこと。ユニクロもメルカリもaiboも、最近の動きを見ていると、その背後に「この層を取りにいくぞ」という明確な意思に基づいた戦略があることを感じるのです。

GU babyのセパオール
GU babyのセパオール(写真提供=GU)

まずはユニクロから説明しましょう。

いま、ユニクロやその傘下にあるGUは、子ども服やベビー服に注力しています。衣服にかける世帯消費支出が下がり、みんなあまり服を買わなくなったなかでも、子ども・赤ちゃん服は非常に堅調。成長に合わせて買い替えるため、常に一定の需要が見込める分野ですから、ここを開拓する意義は大きい。

私が素晴らしいと思ったのは、子ども服を強化するにあたり、ユニクロやGUがいままでのアパレルにない発想をしていることです。

季節の先取りをしない

たとえばGU初のベビー服「GU Baby」では、「セパオール」というものを発表しました。これは一見、上下分かれたセパレートのように見えるけれど、実際はつながっていて脱ぎ着がラクというもの。ベビー用といえばオーバーオールという固定観念をくつがえしました。

またいままでのアパレルは、まだ暑くても店頭には秋物を並べたりして季節を先取りするのが常でした。でも子ども服はいざ着せようとすると、「あっ、去年の服が小さくなっていた、入らない」となることが多い。そんなとき季節を先取りされていると非常に困ることになります。しかしユニクロやGUに行けば、いますぐ着られるものが並んでいる。

「トレンドをつくる」から「顧客の声を聞く」へ

いままでのアパレルは「自分たちがトレンドをつくるのだ」という発信の姿勢が目立ちましたが、ユニクロやGUはユーザーにインタビューをしたりして、顧客の声をよく聞いています。それが商品づくりと店舗展開に生かされている。

また、子ども服ではありませんが、ユニクロのワイヤレスブラも新たな顧客を創造した例です。アンダーにワイヤーを入れない代わり、つけ心地のラクなワイヤレスブラは、胸を寄せて上げたい世代よりは、もう少し上の世代に愛用されるアイテムでした。しかしユニクロはブラトップで培った立体カップの技術を生かし、ワイヤーなしでもホールド力のあるワイヤレスブラの開発に成功。若い世代はブラトップに慣れていますから、その延長上にあるワイヤレスブラを抵抗なく受け入れている。本当によく考えられていると思います。

「シニアの断捨離」を狙うメルカリ

フリマアプリのメルカリも新しいユーザーを開拓しようとしています。いままでメルカリに限らずフリマアプリの主なユーザーは20~30代の女性でした。しかしその層にすでにフリマアプリがいきわたった今、成長が鈍化したメルカリは、新たな顧客を開拓する必要に迫られていました。そこでターゲットに設定したのがシニア層です。

スマホを操作する高齢者
※写真はイメージです

この世代の人たちは家にいる時間が長く、まだ「終活」には早いとしても、「断捨離をして家のなかを片付けようかな」と思っています。だからいったんユーザーになると、出品数が20代のユーザーよりはるかに多い。さらには高額なお宝を放出してくれるので、取引金額も上がる。

ただしメルカリを利用したことがない人にとって、買うほうはまだ簡単ですが、出品するほうは手続きが大変。断捨離をしたい60代は出品することのほうが多いのに、この出品の敷居が高いのです。

“若さ”を保ちながら、シニア層を開拓する

実は私もメルカリが話題になったばかりのころ、「これは職業上、体験してみなければなるまい」と思い、汗をかきながら出品に挑戦したことがあります。商品を梱包し、コンビニまで持っていき、レジでスマホの画面を見せる。これら一連の作業は本当に一苦労でした。

そこでメルカリが考えたのがドコモなどの携帯ショップや郵便局と提携して、「中高年向けのメルカリの使い方教室」を開くこと。「メルカリ教室、どこそこで開催!」という新聞チラシも盛んに撒いているし、テレビコマーシャルも打っている。最先端のアプリであるにもかかわらず、対面式の教室というアナログな手法を用いたり、広告媒体に新聞やテレビを選んだりしている段階で、シニアを狙っているのは明らかです。

ただし、もともとのユーザーである若い層にまで、メルカリが「シニア御用達アプリ」という印象が伝わるのは避けたい。そこで新聞チラシなど、若い人たちが目にする機会が少ない媒体でのアピールに特化しているのではないでしょうか。

年齢が上の人たちにとっても、「シニア向け」というイメージが強すぎるものは敬遠されます。若いイメージを保ちつつ、シニアを開拓していく工夫が欠かせません。

「aibo」はおもちゃからシニアのパートナーへ

ソニーのロボット犬「aibo」も、シニア向けへと舵を切っています。1999年に発売された初代AIBOは、「子どもが犬をほしがっているが、うちでは飼えない」という家庭を想定した、子ども向けのおもちゃというポジショニングでした。しかし、おもちゃにしては値段が高すぎた。

ソニーのロボット犬「aibo」
ソニーのロボット犬「aibo」(写真提供=ソニーグループ)

2018年に再登場したaiboは、旧モデルのロボットっぽさが薄れて、かなりかわいくなりました。片足を上げておしっこをするしぐさをしたり、耳の裏を後ろ肢で掻いたりするしぐさは本物の犬さながら。センサーで「飼い主」を認識し、名前を呼ぶ回数が最も多い人にいちばんなついて、撫でれば撫でるほど絆が深まっていくようプログラミングされています。

餌というか、バッテリーが切れそうになると自分からチャージの場所にいって充電するから、うっかり世話を忘れても動かなくならないし、もちろんペットロスもない。ペットロスがないのは、老親の子どもにすれば安心ですから、プレゼントにも最適。このようなパートナーを必要とするのは、子どもよりお年寄りだったのです。

「これは○○向け」という固定観念にとらわれずに、「これを本当に必要としているのは誰か」という視点でとらえなおすことで、まだまだいろいろなものがブレイクスルーする可能性を秘めているはず。

ただ、ユーザーを広げる場合は、元々のユーザーにそっぽを向かれないようにするのが大事です。例えば、かつて爆発的ヒットを記録したスマホゲームの「ポケモンGO」は、健康増進や仲間づくりの効用もあってシニアにまで広がったが、元々の若いゲームユーザーはあっという間に離れていった。ユニクロも、かつてシニア層が目立ちすぎて、若い層が離れていった時期があったが、若い層を呼び戻す新商品や施策で、年齢や性別を問わないユニバーサルなブランドになった。このように、ユーザーイメージをうまくコントロールしながら、新たなユーザー層を開拓することが、成長やブレイクスルーにつながるのです。

桶谷 功(おけたに・いさお)
インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ

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