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建築家・永山祐子の大切なもの「マルニのコート」

  • 2021.9.22

クローゼットにひそむ、どうしても手放せないものはありますか?かけがえのない“記憶”が刻まれた物語を紹介します。

甘くなりすぎないピンク色に
これからも惹かれ続けると思う

「独立する前は幼く見られがちだったので、仕事では黒系パンツスタイルで少しでも大人っぽく見えるようにと思っていました。そんな時突然甘い刺激を受けて、ぐっときちゃったんです」と振り返るのは、建築家の永山祐子さん。

それは2001年のミラノサローネ(国際家具見本市)を訪れた時のこと。大好きな建築ユニット、フューチャーシステムズの新作を見に行ったら、それが〈マルニ〉の路面店だった。建物を見に出かけたのに、洋服の可愛さにくぎづけ。中でもハートを射抜かれたのは優しいピンクのスプリングコートだ。

「襟のテープ飾りやざくざくしたステッチなど、クラフト感の取り入れ方が素敵。紺をピリッと効かせてあって、色の加減もちょうどいいんです。ミラノでは迷ってあきらめて、でも忘れられなくて。結局日本に戻ってから、なけなしのお金で買いました。着てみたら結構タイトでコンパクト。黒い服の上に羽織ると、全身シュッとして見えるのも好き」

洋服のデザインは人の体や動きに委ねる部分が大きい。そこに憧れると永山さんは言う。

「建築には堅牢でソリッドであることが求められるけれど、洋服は動くことがベースにある。いわば重力とともに変化するデザインです。その自由さや軽やかさや浮遊感に近づけないかなあと、考えることがよくあります」

コートを買った翌年に独立し、それから20年近くたった今も、春になるたび袖を通す。

「マルニには、流行からは離れた独自のスタイルを感じます。変わらないマルニの哲学みたいなものがあって、だから着続けられるんでしょうね。こういうピンク色は年齢を重ねても意外と似合う気がするし、いずれ娘と共有してもいいのかな、なんて思っています」

GINZA2021年6月号掲載

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