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「人生このままでいいのか」悩む30・40代に教える「極意」。

  • 2021.9.15
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「さよなら努力。このくらいでいいかは、最良の人生戦略である」――。

森博嗣さんの著書『諦めの価値』(朝日新書)は、「人生このままでいいのか」と思っているあなたへ最大限の成功(周囲からの評価ではなく、あなた自身の満足)をもたらす「諦め方」を伝授する1冊。

仕事、人間関係、日々の雑事に見切りをつけ、夢をかなえた著者が「諦め」にかんする持論を展開していく。

「夢を実現するためには、ある程度の『諦め』が必要だが、どうしても譲れないものも、たしかにある。その見極めができることが、非常に重要であり、これが『諦めの極意』になる」

研究者も小説家も「諦めた」

本書は、編集者から「森先生は、どのように諦めるのか、その気持ちの切り替え方のようなアドバイスを書いてほしい」と提案された著者が「しかたなく(もしかして諦めて)書いたもの」。

編集者によれば、男女問わず30、40代にもなると「自分はこのままで良いのだろうか」と、精神的な葛藤を抱えるという。たしかに、こうした挫折感や焦燥感と無縁の人はごく稀だろう。

著者は30代前半の頃、仕事も家庭も順調だった。ただ、「自分で鉄道の線路を敷いて、自分で作った模型の機関車に乗って運転してみたい」という夢は封印されていた。

そこで、夢のために資金を稼ぐ方法を考えた。1度も書いたことのなかった小説を夜中に書き、作品を出版社に送った結果、小説家に。印税で土地を購入し、20年以上も1人で工事を続け、庭園鉄道を実現した。

「夢を実現させる」過程で、著者が諦めたものは「日常」だった。生活のリズムが乱れ、体調を崩した。大学教官の何十倍もの収入を得ることになったが、10年ほど両立した後にどちらも引退した。

「研究者も小説家も僕は諦めた、といえるだろう。最初から目標にもしていなかったし、夢でもなかったから、『諦める』といえるほどの決断はしていない。(中略)子供時代の夢については、何一つ諦めていない、といえるだろう」

考えながら、書いていく

著者が書くものは、たいてい「方法」ではなく、抽象的な「概念」や「方針」、あるいは「心構え」であり、そもそも具体的な「方法」など存在しないという。

「考えながら、書いていく。僕はこう思う、ということをつらつらと文章に落としていく。その過程で、思いつくことがわりとあって、それが自分でも面白い、と思える点である」

これを読んで納得した。本書はたしかに、明快な答えがパッと手に入るというより、痛快な書きっぷりにスカッとしながら「諦めの価値」がだんだんわかってくる、というものだった。

■目次
まえがき
第1章 諦めなければ夢は叶うか?
第2章 諦められないという悩み
第3章 何を諦めるべきか?
第4章 諦めが価値を持つとき
第5章 諦めの作法
第6章 生きるとは諦めること
第7章 変化を選択する道について
第8章 他者に期待しない生き方
あとがき

おそらく突っ慳貪な印象

そういうわけで、どの部分を紹介しようか悩むが、ここで第2章に出てくる「人生相談」から1つ。

Q 夢を妥協するタイミングとは?
(前略)時間もお金も限られている中で、(中略)どこまで自分の欲望を追求すべきで、どのタイミングが諦めどきなのでしょう?

その夢を実現させるために、今まで何をお試しになりましたか? (中略)実際になにかを実行することで、その夢に近づけるはずです。(中略)夢に近づいている人たちは、このような質問をしないと思います。

「正直いって、全然わかりません」という具合に、質問者の悩みをバサバサ斬っていく。

「おそらく突っ慳貪(つっけんどん)な印象を持たれ、好感度ダウンとなること必至だろう。だが、好感度を上げたいという欲求は僕には皆無なので、まったく影響を受けずに書いた」

「諦め」の汚名返上

普通は「諦めてはいけない」だろう。しかし、「諦めることは、ときに非常に有益な決断」というから新鮮だ。「『諦め』の汚名返上」である。

「精神論を、まず捨て去って、事実を正確に観察し、自分にとって何が有益で、何が無駄か、と考えること。この客観的評価だけが、あなたを正しい『諦め』へ導き、あなたにとって最大限の成功をもたらすだろう」

「夢」「成功」「諦め」というものは、思っていたほど単純ではなく、もっと考えなさい、行動しなさい、と教わった。スカッとするのにじっくり考えさせられる、そのバランスが絶妙だ。

■森博嗣さんプロフィール

1957年愛知県生まれ。作家。工学博士。某国立大学工学部助教授として勤務するかたわら、96年に『すべてがFになる』(講談社ノベルス)で第1回メフィスト賞を受賞し、作家としてデビュー。小説からエッセィまで、300冊以上の著書が出版されているが、仕事量は1日1時間以内と決めている。著書に『「やりがいのある仕事」という幻想』(朝日新書)など。

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