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【鏡リュウジさんインタビュー】当たる、だけじゃない。心を整える占い活用術

  • 2021.9.10

占いは、うまく付き合えば、心を前向きに、人生を豊かにしてくれるのではないだろうか?そう考えた私たちは、西洋占星術研究の第一人者である鏡リュウジさんに、占いとの付き合い方、占いを自分の人生に生かす方法を聞いてきた。

毎朝テレビのワイドショーで「今日のラッキーアイテム」をチェックしたり、雑誌の巻末に載っている星占いに一喜一憂したり、初詣でおみくじを引いたりと、占いはいつも私たちの身近にある。一方で、「占いなんて根拠がない」とか「ちょっと怪しいもの」という捉え方をする人も少なくない。果たして占いは「当たる」のか「当たらない」のか。

「占いは統計学」などと聞くけど、占いに科学的根拠はある?

「占いには科学的根拠が無いから信じられない」という人がいる。一方「占いは統計学的に証明できるのでは?」と考える人もいる。このように現代社会に暮らす私たちは、何事にも科学的根拠を求める傾向があるが、実際占いは科学で証明できるものなのだろうか。

「占いを『統計学だ』あるいは『データ』だという占い師さんは結構いるのですが、実態は全然違います。占い師さんが『統計だ』とおっしゃっているときには、近代的な統計学による検証ではなく、せいぜい『自分の経験した範囲では』程度の意味だと思う方がいいでしょう。残念ながら統計学を操れるような訓練を受けている占い師さんはほとんどいません。そもそも占いの発生は近代的な統計学の誕生より古いのですから。
ただ、統計的な研究がないというのではありません。西洋占星術の場合はとくに統計的研究には力を入れていて20世紀後半から地道な調査を続けていて専門の学術誌も存在します。ごく一部に統計的有意性がみられることもあるようなのですが(それは大変なことなのですが)、逆にいうと一般的に行われている占いの言説には統計的エビデンスはないということですし、またわずかな有意性をもとに実用的なアドバイスをすることには無理がありますよね。だから僕は占いは統計ではないと言い続けています」

とはいえ、統計的エビデンスがないから占いに意味がないかといえばそんなことはないと鏡さん。

「僕の好きなユングの言葉なんですが、統計は平均的な像を示すけれど、平均ぴったりの人間は存在しない。海岸の小石の『平均的な大きさと形』は出せるだろうが、それにぴったり当てはまる石は存在しない。一度しかない人生の個別性を語るには、科学とは異なる詩的な言葉が必要で、その一つが占いだと僕は考えています」

また、どんなものにでも科学的な根拠を求めたり、科学的なもののほうが上に見られる傾向は近代的な発想だと鏡さんは語ります。

「ローマの哲人キケロが詳しく論じていますが、西洋においては昔から占いを、神々のお告げを直接的に受け取るインスパイアード・ディヴィネーションと、何らかの兆しを人間が読み解くアーティフィシャル・ディヴィネーションの2種類に分類してきました。ざっくりいえば、占星術のような体系的で『論理的』に思える占いは後者に属します。今ではなんとなく「ガクモン」ぽい後者の方が立派だと思われがちでしょうが、古代においてはインスパイアード・ディヴィネーションのほうが精確だと考えられていました。神々の直接の言葉だからです。このあたりにも古代的な世界観と近代的な世界観の違いが浮き彫りになっていますね」

当たる、当たらないは相性の問題。よく当たる占い師と、どうしたら出会える?

占いに科学的根拠がないとはいえ、よく当たる占い師がいるということもまた事実。では、「よく当たる」とはどういうことなのだろうか。

「僕はかなり合理的な人間だと思っていますが、不思議な占いの的中が時々起こることは知っています。ユングなら共時的現象というでしょうね。ただ、そんな劇的なところまでいかなくても占いは多くの場合当たる、いや“思い当たる”のですよ。占いの結果という象徴的でイメージを喚起する言葉は、人の想像力を掻き立てます。そのことによっていまだ意識に上ってきていない心の中の問題に光が当てられて行く。占いは占い師だけが行うのではなく、占い師や占いのメッセージと占ってもらう側の共同作業だと私は考えています」

つまり、占いの結果は、占い師とクライアント側のコミュニケーションから生まれるということなのだ。ただ黙って座っていたのでは、有益な結果を導き出すことはできない。

「こう考えると占い師との相性は案外大きな問題です。そもそも人生観の全く異なる占い師さんの言葉は単なる説教やお節介でしかないでしょう。相性のいい占い師を探すためには、まずは自分が何か大きな悩みを抱えていないとき、心身ともに元気なときに占ってもらって見極めるのがいいでしょう。弱っているときに占いにすがりたい気持ちで飛び込むのは、あまりいい出会いにならないことが多いと思います。といってもそれはなかなか難しいから占い師を選ぶ際、信頼できる友達から紹介してもらうといい出会いにつながる可能性は高いと思います」

相性のいい占い師を見つけたら、定期的に占ってもらうようにすると、本当に困ったときに、いいアドバイスを導き出せると鏡さん。その点はカウンセリングを受けたときのような心理効果と似ているようにも感じられる。

「カウンセリングといってもいろいろありますしね。ただ、心理学的な訓練を受けた占星術家も少しづつ増えてきているのは確かです。まあ、テレビの占い番組で演出されているようなズバリ的なものばかりが占いではありません。」

占いの結果は、受け手側の解釈によってより有益なものになる

占いで、もしあまりよくない結果が出たとして、それに振り回されすぎるのも健全ではないだろう。私たちは占いの結果をどう理解し、どう生かしていくのがいいのだろうか。

「すごくベタにいうと占いの結果には2つの役割が考えられます。1つは、心の中のモヤモヤしたものに対して『あれはそういうことだったのか』と納得させて気持ちの整理をつけてくれる役割。もう1つは、アクションを起こすための背中を押してくれる役割です。ただし、占いの結果は、こちらが考えているのとはまったく違った方向に現れることが多いということも、心得ておいたほうがいいでしょう。占いはすぐに役立つセルフヘルプや人生のライフハックではありません」

まったく違った方向に占いの結果が現れた例として、鏡さんが話してくれたのが中国人留学生のエピソードだ。

「これは、あの心理学者の河合隼雄先生のご著書で紹介されていた話です。とある中国人留学生が、帰国を前にして占ってもらったら『高いところから落ちる』という結果が出ました。彼は帰国の際に飛行機が落ちるのではないかと、国に帰ることが怖くてたまらなくなったそうです。そのことを河合先生に相談していたところ、話をしていくうちに親族の期待や自分のポジションを高く考えすぎていたことに気づき、自分の身の丈に合った振る舞いをすればいいんだと理解したことで、帰国することも怖くなくなり、占い結果も気にならなくなりました。つまり『高いところ』というのは、周囲の期待の高さや自信過剰だった自分の心を現していたということなのです」

このエピソードでは、占いは「当たった」ということになる。ただそれはこの留学生にとっての解釈の問題で、それよりも重要なのは、占いをきっかけにして、自分の心の中を見つめ直し、メンタリティーを安定させることによって、自分が進むべき方向を決めることができたということなのだろう。

占いを介して自分自身の気持ちを冷静に見つめられるように

このように、占いの結果を聞いて、その言葉を表面的に捉えるだけでなく、受け取る側にも自己分析が必要になってくる。そういった意味でも、占いは弱っているときではなく、元気なときに行くことをおすすめすると鏡さん。

「占い結果を聞いて、自分なりに冷静にそれを考えられるときに受けておくほうがいいんです。そうすれば、占いを介して自分の内面を見つめなおす機会になります。カウンセリングも占いも、自分の内面をさらけ出すという意味では同じなのですが、占い師のほうが、一般人とは別次元にいる人というイメージがありますから、カウンセラーよりも占い師相手のほうがかえって話しやすいという人もいるかもしれません。もっとも、だからこそ占いは『アブナイ』のですが。依存してしまう関係が生じやすい点には注意。逆に占い師もほうも『こんなに相手を助けている自分』に酔う危険もあります」

注意して占いをうまく活用すれば、必要な時に自分の心を整えることができるというわけだ。またカウンセリングと同じように、繰り返し受けることでより自分に有益な結果を聞けるようになるかもしれないと鏡さんは言う。

「僕の知っている英国の本格的な占星術家などは定期的に同じクライアントさんとセッションをしています。日本でもそういう人は多いでしょう。その場合は深く相手と関わっていける。ただ、一般的に占いは一期一会、1回限りということが少なくないです。街の占いのブースなどでやってもらうことも多いでしょう?その点で、日本の占い師さんたちは相手に有益な結果を伝えるのが難しいのではないかと思います。ぜひ相性のいい占い師さんを見つけたら、年に1回でもいいので定期的に占ってもらい、信頼関係を築いておくと、より深いセッションになっていくと思います。もっとも現代の占いは基本、エンタメでという面も強いのですから、まずは楽しむことが大事です。シリアスになりすぎる必要はありません。」

雑誌やネットでの占いも生活に活かせる?

私たちが今、もっとも身近な占いと言えば、雑誌やネットなどに掲載されている占いだろう。万人に当てはまるように書かれているのではないかと考えてしまうが、これらをうまく活用する方法はあるのだろうか。

「雑誌やネットの占い、あるいはおみくじなどは、基本は『当たった! 当たってない!』と楽しむということでいいと思います。ただ、ここで裏技的な使い方を一つ。それは、その占いを読んだときに『こんなの全然当たってない!』と強い拒否反応が出たときにあえてそれを使ってみるということ。それは自分の中に認めたくない何かがあるということなのです。嫌悪感を抱いたときにこそ、冷静に自分を分析してみることが大切です」

占いをどう捉えるかを鏡さんに聞きつつ考えてきたが、科学的に証明できるかどうかは占いにおいてはあまり重要ではないのだろうと改めて感じた。
まずは「当たってる!」とワクワクしたり、今の自分の状況にピタリと合致することを言われたときの高揚感を感じたりしながら楽しむこと。また、占いをきっかけとして、自分自身の内面を見つめなおしたり、新たな自分を発見したり、あるいは悩みや不安があるときに、そういうことが起こった意味を占い結果から分析して気持ちを落ち着かせるなど、占いが私たちの心を整えてくれる価値は多岐にわたる。または、信頼できる占い師との対話の中で気持ちが整理されるという効果もあるかもしれない。

そのようなポジティブな気持ちで占いを取り入れると、ストレスの多い現代社会の中で、うまく自分の心を安定させるツールになり得るのではないだろか。

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