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【ピン芸人・吉住】立ち止まったコロナ禍。そして、『THE W』優勝までの道のり

  • 2021.9.10

考えすぎて失敗することが多い

――去年『THE W』で優勝してから、何か変化はありましたか?

「初めてやるようなお仕事もあったので、混乱したり、落ち込んだりすることもありました。最初は『やれないことをやれるようにならないと』という苦しみでもがいてた感じだったんですけど、今は『ちょっと肩の力を抜いて頑張ろう』という感じになってきたと思います」

――初めてっていうとどんな仕事があったんですか?

「それまではテレビに出るといっても、ほぼネタ番組だったんですけど、食レポとか、クイズとかスタジオでコメントをするという内容のものです」

――食レポで失敗したというエピソードをテレビで語られていましたね。

「笑いで落とさなきゃ、という一方で、作ってくれた方が隣で聞いてるので、その方の思いを無下にしたら申し訳ないというのがあって、なんて言っていいかわからなくなるんです。色々考えすぎてしまって。もし『酸っぱい』と言って、お店の方がそんなつもりで作ってなかった場合、『腐ってる』と捉えられてしまうんじゃないか、とか。で、思考が迷子になった結果、大きくてごつい見た目の唐揚げのことを『人間の手食ってるみたい』って言ってしまって酷い空気にしてしまいました……」

――考えすぎてしまうんですね。

「唐揚げの衣になにかピーナッツみたいなものが混ざってて、それを言いたかっただけだったんですけど。間違ってたらいけないと考えすぎて、『人間の手みたい』って言葉が出てきてしまって。勝手ながら、自分も作り手としての意識があるので、自分の笑いを優先して作り手の方の意図ではないことを言ってしまったら、申し訳ないなと思って。そうなるとなんにも言葉が出てこなくなってしまう。お店の方のキャラが強くて、それをいじったりしても、その人の気持ちは置いていってる気がしてしまって。こちらは取材させてもらう側なのにって。でも、最近やっと気づいたんですけど、けっこう皆さん、器が大きいので、少しくらいのボケなら許容してくれるんだなって」

――さっき、自分も作り手だと言ってましたが、吉住さんがいろいろ言われることもありますよね。

「私は、将来的にコントライブをずっとやっていけたらいいなと思ってるんです。でも、そこに来てくれるのって、私を知ってくれてる人の中でもほんの一部だと思うんですよ。今って“嫌い”って声をあげやすいと思うけど、そういう声とも折り合いをつけつつ、私のライブを見たいと思ってくれる人を見つけていく作業が必要なのかなって。ただ、私も飲食店の口コミをよく見るんですけど、飲食店のほうが、簡単に悪い評価つけられたりしてないですか? お笑いって、わりと流行り廃(すた)りがあって、『この人が今イケてますよ』という流れの中で評価されたりするけど、料理って一対一で向き合うから、かなり辛辣に評価されやすいのかなって。そう考えると、どんな業種の方もみんな意外と晒されているんだな、と」

考えすぎて失敗することが多い

「皆ができていることがなぜできないのか」という戸惑い

――「一対一」って確かにそうですね。吉住さんは、学生時代とかのコミュニケーションはいかがでしたか?

「学生時代は優しい友達が多くて、ひとりでいたかったら放っておいてくれるし、話したかったら輪に入れてくれて。周りに恵まれていたな、と思います。芸人の世界は横のつながりがあるほうがエピソードも出し合えていいんだろうけど、自分にはなかなか難しいと感じます。芸人さんとご飯に行くことも多いけど、そこまで深く付き合えてるかといえば、そうでもないと思いますし。今は、結局、私という人間は孤独のまま、人と向き合うことができずに生きていくのだろうという壁にぶちあたってるところです」

――コロナ禍になってからはどうでしたか? わりとひとりで過ごすことがぜんぜん気にならなかった、みたいな人もいたりして。

「これも、言い方が間違っていたら申し訳ないんですけれど、私は自粛期間は楽しかったんです。『ずっとひとりでいていいよ』って大義名分をもらった気がして。もともとマイペースに好きなことをやるのが好きだから、気が付いたら一か月経ってました。でも、そう思いつつも、学生時代は周りのみんなと同じ歩幅で進んでいたのに、大人になって選択肢が増えていく中で、みんなができていることが自分には何故できていないんだろうという気持ちも強くなってきて……。それを苦しいとは思ってないんですけど、良いとも思えてなくて、人生を歩んでいく上で『この道で合っているのか?』という感覚があります」

――あっという間の一か月の間には、どんなことをして過ごしてたんですか?

「有名だけどまだ観ていない映画を観たりとか、料理をしたりとか、掃除とか、本当に些細なことですね。生活をしていく上で、スキルが必要なことをおろそかにしてきたので、そういうことにきちんと向き合おうとしてたら、あっという間に過ぎてました」

「皆ができていることがなぜできないのか」という戸惑い

コロナ禍、進み続けようとしても進めないような感覚の中で

――笑いに関しては何かしていましたか?

「コロナ禍に入った頃は『THE W』で優勝する前で、自分としては壁にぶちあたってたんです。だから、一旦休んでみようと思って。その頃、配信を始める芸人も増えて、みんな発信してたけど、それを見るのもきつかった。自分が頑張れてないことに向き合うのが嫌で、あんまりSNSも見ないようにしていました。進み続けようとしても、進めないような感覚がきつかったんです」

――そこから、どう復活したんですか?

「逆に立ち止まったほうが、簡潔に思考が働いて、『こうすればいい』ということがクリアに見えてきたんです。映画を観始めたときは、ネタ作りを休もうと思ってたんですけど、だんだん、これ見たらヒントがあるかなと思うようになったり、ここを片付けたらネタ作りの作業がしやすいなって思ったり、『結局、私はネタを作りたいんだな』って」

コロナ禍、進み続けようとしても進めないような感覚の中で

――『THE W』の決勝でやったネタは、いつ頃考えたんですか?

「銀行強盗のネタは、以前からやってたんですけど、女審判のネタは自粛期間の終わりくらいに作りました。自粛期間の最初のほうって、単独ライブとか自主ライブとかをやろうとしても全部できなくなっちゃっていて。『何を目標にして進んでいけばいいんだ?』ってなって、ネタ作りをする気持ちがなくなってしまっていたんですけど、ちょっとだけ出口に向かって光が見え始めたときに、ヒコロヒーさんとツーマンライブをやることになったんです。そうやって自粛終わりに動き出したときに作ったのが女審判のネタだったんです」

――ヒコロヒーさんと一緒にライブやってみてどうでしたか?

「ピン芸人はいつもひとりだから、自分がさぼってても叱咤激励されることがまったくないんです。いつも自分の気持ちのみで、自分を奮い立たせないといけない。それを当たり前のように自分に思い込ませて、こなしてきたんです。ヒコロヒーさんとのツーマンライブは、ネタも別々に作るから、お互いにひとりでネタ作りに向き合わないといけないんだけど、それでも、『今、ヒコロヒーさんも頑張ってるんだから自分も頑張ろう』と思えたし、心の支えになってくださってたんだなと思います」

――並走している人がいるっていいですよね。

「なんとなくひとりでずっと真っ暗なところを歩いていたけれど、何か気配だけは感じられる状態になって。このライブは私の他にも闘ってる人がいるんだぞって思えるのは心強かったですね」

吉住第4回単独公演「生意気なトルコ土産」

吉住第4回単独公演「生意気なトルコ土産」
日時:9月24日(金)18:30開演
9月25日(土)13:30開演 / 17:30開演
※夜公演のみ生配信あり
会場:東京・中央区立日本橋公会堂

吉住

吉住
Profile
1989年生まれ。ピン芸人。『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』で優勝。『R-1グランプリ2021』決勝進出。初のベストネタDVD『せっかくだもの。』好評発売中。
◆Twitter:@YOSHIZUMI_2015
◆Instgram:@yoshizumiii
◆YouTube:吉住 official channel

取材・文/西森路代 撮影/山本佳代子

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