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免許更新の次の切り札?文科省要求「教員の研修履歴管理システム」とは何か

  • 2021.9.9
中教審の渡辺光一郎会長(右)に教員免許更新制に関する諮問文を手渡す萩生田光一文科相(2021年3月、時事)
中教審の渡辺光一郎会長(右)に教員免許更新制に関する諮問文を手渡す萩生田光一文科相(2021年3月、時事)

文部科学省は8月末で締め切られた2022年度概算要求に「教員の研修履歴管理システム」構築の調査研究費を盛り込みました。これは同23日、中央教育審議会(中教審、文部科学相の諮問機関)の小委員会に示された審議まとめ案で「教員免許更新制」の「発展的解消」策として初めて打ち出されたものでしたが、その約1週間後という手際のよさです。

教員免許更新制は「多忙な学校現場の負担になっている」「教員不足に拍車を掛けている」といった批判を浴び、廃止も視野に入れた抜本的見直しが進んでいました。では、更新制に代わる制度と目される「研修履歴管理システム」とは、どういうシステムなのでしょうか。

「受講の奨励」に従わなければ処分?

審議まとめ案によると、同システム(案文では「研修受講履歴管理システム」)は教師が自ら、研修で学んだ学習コンテンツの種類や成績はもとより、学びを通して得た気付きなども受講の都度、タイムリーに入力できるというものです。政府全体でデジタル化を進めている流れを踏まえ、デジタル技術を積極的に活用するとしています。対面型の研修だけでなく、独立行政法人教職員支援機構のオンライン研修なども強化することで「いつでもどこでも学べる」ようにすることを目指しているといいます。

同システムは単に、教師が個人の成長を振り返るためだけのものではありません。公立学校の教師に関しては任命権者(都道府県教育委員会など)や服務監督者(市町村教委等)、学校管理職(校長、副校長、教頭等)も把握できるようにし、可視化された研修成果を基に教師との「対話」を行い、受講を奨励するよう義務付けることを求めています。

受講を促す研修の目安としては、既に2016年の教育公務員特例法改正で都道府県教委などに「教員育成指標」や「教員研修計画」の策定が義務付けられています。初任者、若手、中堅、ベテランといったキャリアステージや職種の別に成長段階の指標と研修計画を定めるものです。

これらに照らして、教委などが期待する水準の研修を受けているとは到底認められない場合、職務命令で研修を受講させることが必要になることもあり得るとしています。それでも研修を受けないような「必ずしも主体性を有しない教師」は懲戒処分の要件にも当たり得るとの考えさえ示しました。

「廃止」でなく「発展的解消」の姿として

教員免許更新制を巡っては、審議まとめ案では「廃止」という言葉を使っていません。あくまで「発展的解消」であり、更新制が「発展」した形が研修履歴管理システムだというわけです。

審議まとめ案の構成を見ても、まず、社会が「非連続」的に変化していることから、更新制が導入されたときとは違う「新たな教師の学びの姿」が求められているとの認識を示しました。時代の変化が大きくなる中で、教師は常に主体的に学び続けなければならず、しかも、その学びは「散漫」であってはならず、体系的・計画的に行われる必要があるとしています。10年に1度の更新制は、そんな「新たな教師の学びの姿」の阻害要因になるから発展的解消が必要だという論理です。

もともと、教師は教育公務員特例法に「絶えず研究と修養に努めなければならない」と規定されるなど、主体的な研修(研究と修養)が求められてきました。全国各地で行われている校内外での「授業研究」は国際的にも高く評価されています。また、戦後、継続的に開かれてきた自主的な研究会や勉強会の活動も盛んで、夏休み等に絶え間なく、全国大会が開かれるなどしてきました。しかし、近年は教師や学校現場が多忙化した影響で、会員や参加者の減少に悩む団体も少なくありません。

審議まとめ案では、教師にも「個別最適な学び」が必要だと強調しています。子どもの「個別最適な学び」を巡っては、AI(人工知能)ドリルに任せておけば、学力が着実に上げられるという「誤解」もありますが、教師の場合も、ややもすると多忙な状態が解消されないまま、育成指標を基にAIが次々と提案してくる15~30分程度のオンライン研修を隙間時間に受講することを「奨励」される事態もありそうです。

そして、AIから受講奨励されても余裕がなく、放っておいたら、管理職から注意を受けるなどという「発展的解消後の教師の姿」を想像してしまうのは心配し過ぎでしょうか。新たな制度の下で、教師が子どもたちと向き合う時間が増えるのか、はなはだ不安です。

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

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