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「言葉の発達に遅れ」最新の研究が明かす、パンデミックが子どもに与える深刻な影響

  • 2021.9.6
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コロナ禍に生まれた赤ちゃんは、それ以前に生まれた赤ちゃんより認知機能の発達に遅れが見られる――。最近の研究で衝撃的な内容が明らかになりました。その原因と親にできることとは――。

リビングルームに座る幼児
※写真はイメージです
子どものIQ低下の報道は本当か

8月中旬、英ガーディアンが、ブラウン大学の研究結果を引用し、「パンデミック以前に生まれた3カ月~3歳の幼児の平均IQは100前後だった一方、パンデミック期間に生まれた幼児の平均IQは78だった」と報じました。日本でもその記事が翻訳された形で報道されました。これは衝撃的な内容です。

なぜなら、IQは通常、100が中央値で、約7割の人が85~115程度の中にいますし、100に近いほど、その人数は増えていきます。IQを測る方法によっても多少異なってきますが、70程度以下から、知的障害として評価されます。

つまり、「IQ78」という数字だけ見ると、標準的なIQよりもかなり低い、ということになります。そんなことが本当に起こっているのでしょうか?

コロナ禍に生まれた赤ちゃんは認知機能のスコアが低い

結論から言えば、「パンデミック期間に生まれた子どものIQが78と低くなっている」という科学的根拠に基づいた証拠は一切ありません。そもそもブラウン大学のこの研究では、IQは計測していないのです。

一方、認知機能の発達度合いの計測をしています。例えば、言語の発達を見るような項目では「お名前は?」「手は何で洗う?」というような質問をしますし、言葉の発達に関係ない(非言語性の)視覚的な要素を測る問題では、隠されたおもちゃを見つけたり、ブロックやスプーンを種類ごとに分けたりします。

このようなテスト(the early learning composite, verbal development quotient, non-verbal development quotient) のスコアを、2010年からずっと計測し続けていたところ、2010~2019年までは、スコアが98.5~107.3で(中央値が100)、スコアのばらつきも従来想定されていたばらつき程度(標準偏差は15、以下標準偏差を±と表記)だったのですが、2020年、2021年は、それぞれスコアが86.3±17.9と78.9±21.6、になっていた、という結果が示されています。

母親の教育歴が高いと影響は小さくなる

確かにここでは、「コロナ禍(2020年)から、スコアが下がっていて、2021年になってさらに下がっている」ことが示されています。

コロナウイルス細胞
※写真はイメージです

さらにこの論文では、コロナ直前に生まれた39名の発達状態を18カ月間観察しているのですが、その子たちには低下が見られていません。

そのため彼らは、コロナ禍に生まれたことが、テストのスコア(発達状態)に影響していると主張しています。さらに、男児の方が女児よりこの影響を強く受けていること、この影響は、母親の教育歴が高いほど少ないことを示しています。

(注:この論文は、プレプリントといわれ、その他の研究者による査読を受ける前に世の中に公表されたもので、現時点では妥当性が担保されていません。今後審査を受けて修正などののち正式に査読付き雑誌掲載論文として公表される予定)

経済状況が悪いほど、コロナの影響を強く受ける

確かにコロナ禍から、発達状態を示すスコアが下がっていますが、ここで気をつけなければいけないのが、スコアのばらつきもとても大きくなっていることです。このテストでは、通常ばらつきを示す標準偏差は15程度とされているのですが、2021年には、±21.6まで大きくなっています。つまり、このスコアの低下ぶりには、個人差が大きいということです。

この個人差を生む要因はなんでしょうか?

その原因の一つに、「経済状況」があります。つまり、もともとの経済状況が悪いほど、コロナの影響を受けやすく、さらにそれが子どもの発達などに影響している、ということです。

実際、多くの研究が、健康面および経済面両方でコロナの影響をより受けたのは、貧困層および、教育歴が低い人たち(大人)であると結論づけています。そして、コロナによる影響を経済的にも心身の健康にも受けた大人を通じて、その子どもたちにも影響が出ていると考えられています。海外からの報告では、経済状況の悪い家庭の児童・青年の方が、メンタルヘルスの低下、成績の低下、学校教育からのドロップアウト率といったものが高くなっていることが示されています。

相手の気持ちを理解する能力にも影響

相手の気持ちを理解し共感することで、自分よりも相手を優先させようとする心情や行動を、向社会性と言います。一般的には、思いやりを持った行動とか、協調性といわれるようなことです。

思いやりを持った行動をするには、相手のためになるように自分の欲求を抑える自己抑制的な側面と、相手の要求を優先させて相手がメリットを得るように、自分が積極的に行動しようとする自己主張的な側面とが必要です。

この2つの面は、いずれも無意識的なものではなく、幼少期から鍛えられ発達させることで、自分で意識的に行うことができるようになる行動です。

そしてこのような行動が取れるかどうかは、個人差がとても大きく、成人になってからは、労働・経済市場で成功するかどうかにも関わってきてることがわかっています。つまり、思いやり行動や協調性等(向社会性)を身につけられた人の方が社会的に成功するということです。

この非認知能力の一つでもある思いやり行動や協調性等(向社会性)の発達には、親の経済力と教育歴が影響します。

経済力・教育歴が低い家庭に育った子どもは、そうでない家庭で育った子どもに比べ、利他的な振る舞いが少なく、より自己的な振る舞いをし、協力行動や他者への信頼感が少なくなることが示されています。

コロナの影響が親を通じて子に伝わる

この子どもの向社会性が、コロナの影響を受けていることが最近になって示されました。上述したように、コロナ以前から、親の経済力・教育歴の高低によって、子どもの向社会性に差があることが示されていましたが、コロナによって、この差がさらに大きくなったのです。特に、親の経済力・教育歴が低い家庭に感染者が出た場合に、この差が大きくなっていることもわかりました。

低い経済力・教育歴の親は、子どもへの語りかけが少なく、子どもの思考を引き出したり、育むことが少ないことがわかっています。親の子どもへの姿勢や対応が、子どもの利他性や思いやりを持った行動を発達させる重要な要因だということです。

コロナ禍において、大人(親)も様々なことに制限を受け、苦しみ、ストレスのコントロールがうまくできないことも多いです。しかし、ストレスによる余裕のなさなども含めたコロナに端を発する様々な親が受けた影響が、子どもの発達にまで影響してしまうのです。

親が受けた影響がなるべく子どもにまで影響しないように、私たち親は可能な範囲で何ができるのか考えながら日々子どもと接していくことが、コロナ禍の子育てには求められているのでしょう。

<参考文献>
• Sean CL Deoni1,2,3, Jennifer Beauchemin1, et al, Impact of the COVID-19 Pandemic on Early Child Cognitive Development: Initial Findings in a Longitudinal Observational Study of Child Health, medRxiv preprint doi: this version posted August 11, 2021.
• Aucejo, E. M., French, J., Araya, M. P. U., Zafar, B. (2020). The impact of COVID-19 on student experiences and expectations: Evidence from a survey. Journal of Public Economics 191, 104271 9.
• Santibanez, L., Guarino, C. (2021). The effects of absenteeism on cognitive and socialemotional outcomes: lessons for COVID-19. Educational Researcher 20, in print.
• Sama, B. K., Kaur, P., Thind, P. S., Verma, M. K., Kaur, M., Singh, D. D. (2021). Implications of COVID-19-induced nationwide lockdown on children’s behaviour in Punjab, India. Child: Care, Health and Development 47(1), 128-135.
• Camille Terriera , Daniel L. Chenb, Matthias Sutter. “COVID-19 within families amplifies the prosociality gap between adolescents of high and low socioeconomic status” Revision requested, Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS): Latest version (May 2021).

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
博士(医学)
帝京大学先端総合研究機構内にて細田研究室を主催。東京大学大学院総合文化研究科研究員兼任。細田研究室では、素質個人差や、やり抜く力などの個人特性を脳特徴量から定量化し、BRAIN x IOT インタラクションによる、新しいオーダーメイド生涯目標達成支援法の開発とその元となる基礎研究を実施。企業等との産学連携研究も多数実施。内閣補正予算により決定され2021年度から開始された、日本の破壊的なイノベーションに繋がる研究成果を生み出すための「創発的研究支援事業」において全国から採択された約250名の研究者のうちの一人。

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