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同時に複数人と合意して付き合う。ポリアモリーから見えてくる多様性のカタチ[結婚の先輩に聞け!]

  • 2021.8.27
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時代やライフスタイルが刻々と変化するなか、結婚のカタチもそれに合わせて多様化している。今回は、複数の人と合意のうえで恋愛をするポリアモリーのきのコさんに話を聞いた。誤解が生じやすいからこそ、一人ひとりとのコミュニケーションを丁寧に行う必要がある。それはポリアモリーでなくても本来、とても大切なこと。自分に素直に生きるためには、対人関係を丁寧にデザインするという本質的なことが求められる。

好きな人をひとりに決められないのはおかしいこと?

SNSが普及したいまだからこそ、恋愛や結婚の多様な価値観が広まり、それを認め合える世の中に変わってきている。しかし10年前は人と異なる価値観を持つ場合、その“違和感”を自分のなかに留めてひたすら向き合うことしかなかった。同時に複数人と合意して付き合う「ポリアモリー」と公言してから10年目のきのコさんは、小学校のころそんな“違和感”を持っていたひとり。その後、大学で「ポリアモリー」という言葉を知るまで、ずっと自分自身の恋愛観に疑問を抱いていたという。

「小学校のときから何人も好きな人がいることが普通だったんです。それでも、小学生のときは周りから何かいわれることはなかったので特に意識していなかったのですが、疑問に思い始めたのは中学生になってから。友達と好きな人の話をするときに、ひとりの人だけを好きになることを不思議に思ったんです」

恋愛映画では必ず男女が1対1で恋に落ちるという設定や、恋愛の三角関係のなかに“3人で付き合う”という選択肢が絶対にないことにも違和感を抱くようになったという。そんなとき、大学で文化人類学を専攻し、「ポリガミー(一夫多妻)」「ポリアモリー」という概念に出会う。そこで、はじめて自分の恋愛観がこれに似ていると腑に落ちた。

「リアルな生活はもちろんフィクションの世界でも、これまで生きてきた中で、自分と同じ恋愛観を持つ人に出会えなかったけれど、やっと見つけたと思いました。同時に自分を初めて肯定できたとも思っています」

理解されない。自己否定を続ける10年間

「最初は一般的な恋愛のルール通りに、それでも最初は1対1のお付き合いをしていました。でも気づいたら、いわゆる “3股”状態になってしまい、相手の方と揉めてしまいました」

そんな恋愛を繰り返すうちに、どんどん罪悪感が膨らんでいくきのコさん。彼女がやっていることは、世間的には浮気と一緒。その自分のクセに終止符を打つべく、27歳のときに結婚を決意した。法的に自分を縛ってくれる結婚なら、自分のクセを矯正してくれると思ったからである。しかし、それもうまく行かず、1年後に離婚。それが、きのコさんのターニングポイントとなったと話す。

「結婚生活も含めてこれまでの28年が本当に辛かったので、大学生のときに知ったポリアモリーとして生きていくしかないと思いました。浮気や不倫は自分もしんどいし、好きな人のことも傷つける。追い込まれて半ば消去法的に、ポリアモリーという生き方を選びました」

ポリアモリーとして生きる10年間

「嘘をついて情報を与えないというのは、相手をコントロールすること。自分がポリアモリーだと伝えることは、相手に選択肢を提示するということですよね。嘘や秘密がなくて、関係者全員の合意が取れている状態で、付き合いを続けていきたいと思っています。これを徹底してやるだけで、精神的にもかなり楽になりました」

相手の意思を尊重するために自分を伝える

きのコさん曰く、ポリアモリーの人たちは自分のことや相手のことを日常のなかでより深く考えて行動しているという。同時に何人とも付き合いをしているから、自分に素直になり、一人ひとりと丁寧に向き合っていくことが大切だと述べる。1対1で人と付き合うのも大変なのに、これだと疲れることはないのだろうか。

「お手本がないことをやっているので、自分で考えてルールを作っていくしかないんです。たとえば、ネガティブなことはひとつ溜めれば大きくなっていく。だから感じたらすぐ言うようにしたりします。あとは、自分の意見を伝えたら必ず相手の意見を聞くことも大事にしています。一つひとつのことに丁寧に対処しているので、ストレスは溜まりません」

きのコさんが話す人との付き合い方は、ポリアモリーに該当しない人でも見習うべき姿勢だ。彼女が大切にしているポイントは、包み隠さず打ち明けたうえで、相手の合意をとること。つまり、誰も傷つけないこと。それを丁寧に確かめながら、それぞれとの付き合いを続けているという。理解できない人を無理やり巻き込み、論破しようとしないということが、お互いの意思を尊重するということだろう。

ポリアモリーが考える結婚、そして多様性とは

「基本的に、結婚は、籍を入れることで得られる利益のためにするものだと思っています。しかも日本の結婚は、携帯のプランでいう、“オプション全部付き”で、戸籍とか名字のことも含めて、いらないオプションが外せなかったりしますよね。もちろん、結婚制度のなかには欲しい要素はいくつかあるけれど、そのいくつかのために全部の要素まではいらない。制度にとらわれずに、自分が好きな人たちと一緒に暮らしていくことの方に興味があります」

確かに結婚は制度の話。きのコさんが考える理想の家庭はすごくフラットなものだった。

「やっぱり、ゆくゆくは誰かと一緒に暮らしたい。特に、50歳を超えたらひとり暮らしはきついなと思っています。理想は、自分のパートナーやそのパートナーの相手が同じ屋根の下に暮らすこと。そこには自分の子供の他に、他のパートナーの子供が住んでいたりして、みんなで育てていきたい」

自分の信じるものや価値観は人それぞれ。きのコさんの価値観は確かに少数派かもしれない。誰かに理解される、されないという軸で物事を捉えると苦しい。だが“共感はできないがいろんな価値観がある”という軸で世界を見ると少し生きやすくなる。それこそが多様化との真の向き合い方だといえるだろう。

1983年福岡県生まれ。九州大学大学院人文科学府卒、メーカー勤務の会社員。2011年にポリアモリーをカミングアウト。18年5月『わたし、恋人が2人います。』(wave出版)を出版。Harumari Inc.

取材協力:きのコ
撮影:浦将志

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