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友達以上恋人未満の関係が心地よい。新しい結婚のカタチ「共生婚」[結婚の先輩に聞け!]

  • 2021.8.25
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時代やライフスタイルが刻々と変化するなか、結婚のカタチもそれに合わせて多様化している。近年注目されているのが、結婚していても部屋も食事もお財布も別々で生活する結婚スタイル「共生婚」だ。晩婚化や働き方の多様化など、社会背景の変化が大きく影響して生まれてきた新しいスタイル。自分の“心地よい生き方”にあわせてどう結婚するかを選べる時代になってきたのだといえるだろう。

「従来の結婚」に感じた息苦しさ

結婚するためには恋愛が不可欠。そんな固定観念が長年の常識だったなかで、近年、新しい結婚の選択肢が広がりつつある。そんな時流は、2016年のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のヒットからも見ることができる。このドラマの主人公2人は結婚するまで恋愛関係ではなかった。このことが、男女が必ずしも恋愛の相手ではなく、共同生活のパートナーでもいいということを提示している。(結果としてこの2人は恋愛に発展した結末だったが)

このような男女の共同生活をベースにした結婚生活を「共生婚」こと“共同生活婚”と名付けたのが恋愛専門ライターの亀山早苗さんだ。彼女は、独身同士の恋愛や結婚、婚外恋愛をはじめ、さまざまな立場の男女に取材を重ねてきた人物。長年、男女の恋愛や結婚の変遷を見てきた亀山さんいわく、いまは結婚のスタイルの過渡期。まさに “逃げ恥”が提示したような結婚スタイルをはじめ、さまざまな選択肢が増えているというのだ。

「1950年代の終わりごろからずっと、選択的夫婦別姓について議論されてきました。しかし、働き方やライフスタイルが大きく変わるなかでも、制度は結局変わらないまま。夫婦同氏が決められたのは明治時代。それによって、私たちは生きづらさを感じてきた。だから事実婚や別居婚のような新しい結婚スタイルを選択するようになってきています」

ひとり時間を大事にしたい男女の急増が要因

「30代後半くらいで結婚する人は特に、それまでのひとり暮らしが長かったこともあり、『ひとりの時間』を大切にする方が多い傾向があります。結婚してからも、『ひとり時間』の確保が欠かせなくなっている。だから、『忙しいときは会わなくていいよね』というようなライトな関係で結婚生活を続けている人が増えている気がします」

厚生労働省の「初婚年齢」の調査を見ると、現在の平均初婚年齢は男性31.2歳で、女性は29.6歳。男性31.1歳、女性29.4歳だったものが6年ぶりに上昇した。この背景には、女性の社会進出などさまざまな要因があるが、ひとり暮らしにせよ、親元で暮らしているにせよ、自分ひとりの時間を優先させることに慣れた人たちは、それまでのライフスタイルを維持したいという思いが大きい。

さらに、働き方の多様化によって日々の時間の過ごし方も多様化している。9時17時で出社して仕事するといういわゆる“サラリーマン”的な生活を送らないで働く人も増えたため、生活リズムは個々で大きく異なる。そんな世の中の変化がダイレクトに結婚スタイルに反映されているようだ。個人が培ってきた生活リズムを、結婚によって大きく変えるのには抵抗が大きいだろう。

さらに、“新しい結婚”を選択している人たちは、こどものころ見ていた親の結婚生活にも影響されていると亀山さんは話す。

「父親の書斎はあっても母親の部屋がある家なんてめったにない。母親はキッチンのテーブルの片隅で作業しているみたいな。そういった両親の姿を見て、夫婦の力関係を感じて育ち、いわゆる『結婚』に対してネガティブなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか」

育った環境はそれぞれだし、それをどう思うかに個人差はあるが、両親を見て「結婚ってあまりいいものではなさそうだ」と感じる人も増えている。

相手に干渉せず、期待もしない共生婚

事実婚や別居婚など、結婚の選択肢が増えたことはわかったが、これらはあくまで恋愛の延長線上にそのような選択肢があるという話。亀山さんがいう、あくまで共同生活の相手として男女が意気投合して結婚をする共生婚の場合、基本的に恋愛感情がないのが特徴だ。

「ある日、私の女友だちが突然、結婚したんです。周りは誰もつきあっていたことを知らなかったけど、実は長年の友人関係であった人といきなり結婚した。結婚後もあくまで友人という関係で、ベッドや部屋ももちろん別々。財布を一緒にすることや家事の役割意識もなく、同じ家で生活していても個々に自立しています。そんな2人の生活を見て“共同生活婚”=共生婚という言葉を作ったんですが、取材をしていくうちに他にもこういう生活をしている人が少なくないことがわかりました」

まさに「逃げ恥」がそうなったように、男女が一緒に暮らしていれば結果として恋愛に発展してしまうこともあるのではないだろうか。

「そもそも共生婚を選ぶ人は、相手を異性として意識せず、一緒に居るとほっとするから結婚するようです。ずっとひとりでいることに限界を感じたり、恋愛感情はないけれど、気が許せて信頼しあえる仲間を貴重だと思ったりして結婚に踏み切るという感じです。相手にも期待しないので恋愛にも発展しにくい。そういう点にメリットを感じる人が選択していますね」

ふたりとも自立して、自由を優先させた結婚生活。生活費の共有や家事分担などの厳密なルールを作らなければ、無理なくずっと結婚生活を続けられるという。そんな共生婚を選択した人たちのことを記事にしたところ、「これなら私も結婚できる」という声が殺到したそうだ。亀山さんが共生婚と「言語化」したことで、結婚のイメージを少し変えることになった。

恋愛は面倒、でも誰かとは一緒にいたい

男女がお互いの自由を尊重できる一方で、気になるのが結婚生活の延長にあるこどもの存在だ。恋愛感情がなく、性的関係もない共生婚の夫婦はこどもをどう考えているのか。

「これは人にもよるかもしれませんが、共生婚を選ぶ人はもともと『こどもはほしくない』という男女が多い印象です。だからさほどそこを重視していない。それなら結婚してなくてもいいじゃないかということになりますが、たとえば地震があったとき、『大丈夫?」と隣の部屋から声をかけてもらえるだけで安心するといった女性がいます。性的な関係だけが男女間をつなぐものではない。かといって、単純に友情だけというわけでもない。それぞれがいつ終わってしまうかわからない恋愛感情に頼るのではなく、もっと深い人と人との信頼関係を求めている。共生婚に関しては、私はそういう印象を抱いています」

このように、恋愛感情はなくともこどもに関することをはじめ価値観にズレがないのが共生婚のパートナー選びの特徴だ。一緒に生活する当人同士がよければ生活は成り立つ。

「共生婚を選ぶ人の職業はさまざまですが、共通しているのが、仕事も家事も全部ひとりでこなせて、ひとりが好きだということ。だからこそ結婚が遠のきがちだったのですが、年齢やひとり暮らしの不安感などを経験し、人と一緒に暮らす安心感がほしくなったということなのでしょう。親からの結婚しろプレッシャーからも逃れられる。そういう男女のニーズにフィットしたのが、共生婚をはじめとする新しい結婚のカタチなんだと思います」

自分の時間を充実させたい。しかし、ひとりで暮らしていくには不安が大きすぎる世の中。だからこそゆるくつながっていける共生婚なら精神的にもラクだ。さらに恋愛特有の感情のコントロールも必要ない。これまでのような“理想の夫婦”像とは異なるものの、“個”を尊重するこれからの時代はこのような結婚スタイルが増える可能性もある。その選択肢のひとつである共生婚は、人生をより生きやすくするための選択肢になるだろう。

亀山早苗
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』など著書多数。Harumari Inc.

取材協力:亀山早苗
撮影:服部 希代野

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