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子宮系、胎内記憶、自然なお産。「妊娠・出産」と「スピリチュアリティ」の危うい関係

  • 2021.8.19

「なぜ彼女たちは子どもを産み育てることに、聖なる意味を求めるのか」――。

社会学者・橋迫瑞穂(はしさこ みずほ)さんの著書『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』(集英社新書)は、「母」たる女性の不安について「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」などのキーワードから分析した1冊。

哲学者・森岡正博氏は、「子宮系、胎内記憶、自然なお産。女性たちのスピリチュアルで切実な思いを分析した画期的な本だ」との推薦コメントを寄せている。

「妊娠・出産」と「スピリチュアリティ」

「妊娠・出産」と「スピリチュアリティ」の組み合わせに、すぐにはピンとこない人もいるかもしれない。はじめに著者はこう書いている。

「現代日本社会に生きる女性たちにとって、妊娠・出産は依然として重要な出来事である。しかも、それは多くの女性たちにとって、単に医療的な事柄であるだけでなく特別な意味や価値を伴う体験として受け取られている。妊娠・出産が、霊的、精神的、超越的な意味を含む宗教的な事象を指すスピリチュアリティと接続しているのは、そうした理由に基づいている」

「妊娠・出産のスピリチュアリティ」とは何か。社会に広まった背景に何があるのか。これらについて、妊娠・出産に関する書籍(主に2000年代以降に出版されたもの)を分析しながら掘り下げている。

■目次
第一章 妊娠・出産のスピリチュアリティとは何か
第二章 「子宮系」とそのゆくえ
第三章 神格化される子どもたち――「胎内記憶」と胎教
第四章 「自然なお産」のスピリチュアリティ
第五章 女性・「自然」・フェミニズム
第六章 妊娠・出産のスピリチュアリティとその広まり

子宮系、胎内記憶、自然なお産

21世紀に入り、日本社会で大きく膨れ上がった「スピリチュアル市場」。なかでも急速に注目されるようになったのが妊娠・出産に関するコンテンツであり、書籍、映画、女性誌などを通して広まったという。

典型的な例として、「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」を取り上げている。

■子宮系
「子宮」に神聖性、神秘性を見いだすこと。「女性らしさ」を獲得したり、生き方の方向性を決めたりする考えや価値観の一群を指す。

■胎内記憶
生まれる前から子どもが持つとされる記憶。母親の胎内にいた頃の記憶だけでなく、子どもが「かみさま」と相談して母親を選んだ記憶、神秘的な体験をした記憶を語り出すというもの。

■自然なお産
医学的に明確な定義があるわけではないが、おおよそのところ医薬品や医療にできるだけ頼らず、女性が主体的な意識を持ってお産に向き合うことを指す。特に、経膣分娩が重視される。

女性たちの切実な思い

これらのコンテンツには、女性たちが子どもを産み育てることの価値に確信を持てるようにして、妊娠・出産に向けて後押しする意図が見え隠れする。

そこには、出産を決断する意味や価値を、自分の内側に積極的に見いださなければならない日本の現況があるという。

「仕事か出産か」「キャリアか母親か」の選択を、女性だけに一方的に迫る社会。根強い女性差別、育児のための社会システムの貧困、先行きの見えない経済的な行き詰まりがある社会......。

「こうした社会に子どもを産み出すという決断が困難であればこそ、妊娠・出産が素晴らしい体験であることを願う女性たちの思いに、一層切実なものがあることは想像に難くない。スピリチュアリティは、そんな女性たちの妊娠・出産に対して、特別な価値や意味を付与するものとして現出したのではないだろうか」

「この社会において『母』たる女性が抱く不安とスピリチュアリティとの危うい関係について、その構造を解明する」――。

読んでいて難しいところもあったが、「妊娠・出産」が女性の人生にもたらすインパクトの大きさを、ひしひしと感じた。

「この国は女性にとってもはや妊娠・出産を自明のものとしていない、あるいはしたくてもできない状況にあるということだ。(中略)妊娠・出産をめぐる『スピリチュアル市場』が顕在化したことはどのような意味を持つのか、時間をかけて検討すべき課題を含んでいる」

■橋迫瑞穂さんプロフィール

1979年大分県生まれ。立教大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程後期課程修了。立教大学社会学部他、兼任講師。専攻は宗教社会学、文化社会学、ジェンダーとスピリチュアリティ。また、ゴシック・ロリータ、ゲーム、マンガなどのサブカルチャーも研究している。著書に『占いをまとう少女たち――雑誌「マイバースデイ」とスピリチュアリティ』(青弓社)がある。

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