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瀬戸田を知る②|現地のキーマンに学ぶコミュニティとの関わり方|しおまちブラザーズ

  • 2021.8.16
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尾道市生口島。瀬戸田港からすぐの場所にある「Soil Setoda」はカフェと宿泊施設が備わった複合施設だ。地元の人から旅行客、サイクリスト。さまざまな人々が集まり、会話を交わすこの場所は、まさに島のコミュニティ。この運営に携わるキーマン「しおまちブラザーズ」に話を聞いた。

尾道市内から車で約40分。コロナ禍においても歩みを止めない、街おこしを行っているエリアがあると聞き、「瀬戸田」を訪れた。瀬戸田があるのは、観光名所のひとつでもある「しまなみ海道」の中ほどに位置する、尾道市生口島。その入り口である「瀬戸田港」周辺である瀬戸田町が今、にわかに盛り上がっている。

別記事でも取り上げている「Azumi」(https://azumi.co/setoda/)が2021年3月に開業したのがまず大きなトピックだ。
「Azumiは世界中から人を呼び寄せる力のある施設。これができたのはすごく大きな出来事なんですが、一方で地域とのギャップや溝が生まれやすい。きっと地元の人が使う施設ではない。じゃあもっと地域との接点を増やす場所を作った方がいいんじゃないかと、ワークショップを始めました」と語るのは、株式会社しおまち企画がこの春開業した「Soil Setoda」の運営を担う「しおまちブラザーズ」通称「しおブラ」のお二人。

左:“兄”こと鈴木慎一郎さん、右:“弟”こと小林亮大さん。Harumari Inc.

彼らはホテルや宿泊施設を中心としたコミュニティで働く元・東京人。このプロジェクトをきっかけに瀬戸田に移住してきた。尾道市とせとうちDMOと協業して、瀬戸田エリアの未来を考え創っていくのがミッションだ。

本当に必要なものは、街の人たちが答えを持っている

ワークショップでは地元の人たちのリアルな声を拾い上げることができた。「朝食が食べられる場所がほしい」「美味しいコーヒー屋さんがほしい」。どんなに優れたコンセプトでも、街の人に必要とされていなければ、廃れていってしまう。それでは意味がない。ワークショップを重ねるなかから瀬戸田に本当に必要とされるものを導き出した。それこそが「Soil」。街のリビングになり得るような場所だ。

「実際に今常連さんとして来てくださっている方たちは、ワークショップでは出会わなかった人たち。すごくいいお店だったから来てくれるっていうふうになった方がほとんどですね。最初はやっぱり、Soilができた経緯を知ってる方が利用していたんですけど、そういう人たちの口コミが、本当に必要としている人たちに届いた。思っているよりみんな“新しいもの”に興味を持ってくれて、喜んでくれたんですよね」

コーヒー1杯という“普通”の日常的なものが介在すると生活の一部になる。そのハードルの低さと、常にフレンドリーなスタッフたちが醸す空気がなせる技だ。それでも、地元の老若男女が出入りするSoilの光景は、コンセプト通り街のリビング。そこに私たちのような旅人が入り混じり、情報交換や紹介が始まる。この光景は東京ではなかなかない。

しかしこれは奇跡なんかじゃなく、きちんと設計されたもの。シーンはデザインできるのだ。

「どうありたいか」をきちんと言動で表現する大切さ

Soilが瀬戸田の人々に受け入れられた背景としてもうひとつ、「しおブラ」という彼ら自身の存在も大きい。

「二人で同タイミングで瀬戸田に来て、同じ家に住んでて、もう1個のキャッチーな覚え方をしてもらえるような仕掛けをしようと思ったんです」(弟)

活動内容は、主にSoilができるまでの宣伝活動だ。

「最初はただ島のアイドルユニットですと名乗って(笑)、身内の中でまずは盛り上げてもらってました。3、4ヶ月はひたすらSNSを中心に活動しましたね。お祭りのステージに出たり、ステッカーを作って配ったり。コンビニにも貼ってあったりします(笑)。地元のこどもたちに、家もバレてますね、もう」(兄)

Soilとは街のリビングで、カフェで、宿でもあって……。そう長々と説明するより、「しおまちブラザーズです、僕らに会いにきてください」と伝える方が島の人たちには伝わりやすかったようだ。コンセプトは説明するものではなく、体感するもの。だからこそ、一度来てもらうようにすることが大事だった。

「必ず挨拶する、名前を呼んで、名前を呼んでもらう。誘われたら断らない(笑)。そういう基本的なことを大切にしました。心を開いてもらえれば、いろいろ紹介してもらえるんですね。『紹介してやるけ』って。尾道はもちろん三原まで、いろんなところに顔を出して会いに行きました。初めはAzumiとの間に入るような存在になれたらいいなと思っていたんですが、気付いたら島の人からAzumiについて聞かれるようになっていました。結果としてそこはうまくいったような気がします」

これは移住だけに限らないかもしれないが、いわゆる未知のコミュニティに入っていくときに私たちが参考にできることはまさにこの辺りにありそうだ。どんなコミュニティであれ、人間関係は常に大きな問題となる。

Soilは街のリビングであるべきで、だから誰に対しても平等・中立。すべての言動はそこに軸があるようだ。

「派閥みたいなものには所属しない、ということは意識していますね。やっぱり本当に人間関係は難しいと思います。特に、狭いコミュニティはみなが顔見知り。派閥に入らずに、誰が相手であれ1対1できちんと関係を作ることを心がけました」(弟)

「噂や悪口に便乗しないというのは実はとても大事な気がします。僕らは新参者で、信頼を少しずつ貯金しなきゃいけない。だからと言ってなんでもかんでも『ですよねー』って相槌を打つと、一歩間違うとそれは自分の意見になってしまって、こじれてしまう。それは誰もハッピーにならない」(兄)

確かに、誰でも経験があるだろう。新参者だから受け入れてほしいがために相槌を打ってしまいがち。他者との関係において、相槌の打ち方や返答の仕方はとても大事になってくる。

多様性をいかにちゃんと認められるかが街にはとても大事だ。それは尾道でも東京でも同じ。常に寛容に「そういう意見もあるよね」っていう雰囲気を僕らが作りたい、と語るしおブラ。その「こうありたいから、こう行動する」は、本質的でありながらついその場の空気に流されがちな自分たちにはとても刺さる言葉だ。

東京ライフとの差は、圧倒的に体が知っている

東京から移住したふたり。気になる、東京ライフとの現実的なギャップについて聞いた。

「気候がいい、とかよく言われてますけど、これ、実際いないとわからないかもしれないんですが……めちゃくちゃいいんですよ居心地。言葉以上の体感です」

東京は会いたいときにみんなと会える、それが最大のいいところだと誰もが思っていたが、コロナ禍においてはそれも叶わなかったし、楽しいことも刺激も半減している。この1年は“本来の東京の良さ”がほぼなかった、という意味では特殊だったかもしれない。

「東京で育ったので、東京には友達がいるし、受け入れてくれるコミュニティはある。戻ったら戻ったで刺激的ではありますよ。でもそれは定期的に行くことで得られるかな。東京で暮らす必要性みたいなことはそんなにないかもしれないですね」

彼らが目指すのは、Soil Setodaをさらに進化させ瀬戸田に人をもっと呼び込むこと。そして、瀬戸田以外にも「Soil」を作っていくこと。

コミュニティを語るより、体現すべし。しおブラの言動からはそれが伝わってくる。仕事という領域においても、説得力や周りを巻き込んでいく力は「体現」。それがさまざまなバックグランウドの他人を惹きつけるというのが、Soilに来れば一目瞭然だ。

取材協力:Soil Setoda/しおまち企画
取材・文:稲垣美緒(Harumari TOKYO編集部)

Soil Setoda
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田254-2
公式WEB: https://soilis.co/locations/setoda/
公式Instagram: https://www.instagram.com/soil.setoda/
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