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5000円、6000円…「お釣り」のお札を数える店員の行為、時間の無駄ではない?

  • 2021.8.16
お札を数える行為、本当に必要?
お札を数える行為、本当に必要?

コンビニやスーパーなどで1000円ちょっとの買い物をして、レジで1万円札を出したとき、ほとんどの場合、店員がお釣りのお札を客に見せながら数えます。「ご確認お願いします。大きい方から5000円、6000円、7000円…」とカウントしながら、客側に示すのですが、この行為は無駄なようにも思います。カウントすることで、十数秒ではあっても余計に時間を取られますし、客が金額を確認すればよいだけだと思えるからです。

高額なお釣りでお札を数えて渡すことは本当に必要なのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

始まりは明治時代の中頃?

Q.なぜ、高額なお釣りのときに、お札を数える様子を客に見せるのですか。その習慣が生まれたのは、いつごろからですか。

大庭さん「お釣りの紙幣を客の前で数える主な理由は2つあります。

1つ目は、代金の支払い後、客との間でお釣りを巡るトラブルが起きることを防ぐためです。確認を行わずにお釣りを渡すと、客の勘違いや悪意によって、『お釣りが少ない』と言われたときに困ります。客の言い分を無条件に拒むと、客との関係を悪化させることにつながり、無条件に聞き入れると、お釣りの金額が正しかった場合は店側に損失が発生します。

2つ目は、紙幣同士がくっついていることで、余分にお釣りを渡してしまうことがあるためです。特に、新しいお札同士はくっつきやすいため、そのことに気付かずに代金のお釣りを渡すと店側に損失が発生します。これらのことを防止するために、客の前でお釣りの紙幣を数えているのです。

日本でお釣りの紙幣を数える習慣がいつごろ始まったのかは、正式な記録がありません。しかし、明治時代の中頃には9種類の紙幣が国内に流通していたという記録があり、その頃には、お釣りの紙幣を客の前で数える場面があったのではないかと考えられます」

Q.この習慣はコンビニやスーパーなど接客業の店員に対し、マニュアルとして定められているのでしょうか。

大庭さん「お釣りで紙幣を渡す場合、前述したように損失に直接関わるリスクが店側にあります。そのため、少なくとも、多店舗展開を行っている事業者の大半は、お釣りの紙幣の確認を接客においてマニュアル化しています。よく聞かれる内容は▽レジからお釣りの紙幣を出すとき、紙幣同士がくっついていないかを触って確認する▽レジから出すとき、お釣りの紙幣を1枚ずつ取り出す▽客にお釣りの紙幣を見せる前に店員が一度数える▽数えた後、客に見せながら紙幣を数える――という4点です。

また、お釣りに5000円札と1000円札が交ざる場合、5000円札が一番上になるようにして客に渡すことを指示している店が多いです。5000円札が下に置かれていた場合、客が5000円札を抜き取り、あるいは手持ちの1000円札とすり替えることで、『お釣りが不足している』と言い出すリスクがあるので、それを防ぐためです」

Q.例えば、お釣りが3000円台、4000円台など5000円よりも少ないとき、お札を数えて返された経験は少ないように思います。5000円が数えるかどうかの分岐点なのでしょうか。

大庭さん「お釣りの紙幣を数えるか数えないか、5000円が基準になっている実態はありません。5000円未満であっても、お釣りを巡るミスやトラブルは店側の損失につながり、数えて渡す必要があるためです。2000円札が事実上流通していない現在、お釣りの金額が5000円未満の場合は、紙幣の場合は1000円札だけでお釣りを渡すことになり、先述したことへの配慮が必要ではなくなるため、紙幣を数えない対応が生まれているのではないでしょうか」

Q.日本人は、お釣りを受け取るとすぐに財布に入れ、金額が正しいのか、その場できちんと確認しない人が比較的多いように思います。お釣りを数えて渡す習慣ができたのは、そうした背景も関係しているのでしょうか。

大庭さん「その場でお釣りを確認せずに財布にしまい、帰宅した後に財布の中身が少ないと感じたとき、『お釣りの金額が誤っていたからではないか』と思い込み、店側にクレームを言う客もいます。

その場合、代金の支払いが済んでから時間が経過しているので、店側が追加のお釣りを支払うことは基本的にないのですが、客との間でトラブルになることが店の評判を悪化させたり、トラブル対応に店員が時間を割かれたりします。それを未然に防ぐ目的も、客の前で紙幣を数える習慣が広まった要因の一つであることは間違いありません」

Q.結局、高額なお釣りを渡すときにお札を数えるのは時間の無駄ではなく、必要だということでしょうか。

大庭さん「客の前でお釣りの紙幣を数えることは、店のためでもあるのと同時に客のためでもあります。店にとっては、金銭面での損失や客とのトラブル発生を防ぐことにつながり、客にとっても、店員が見やすいように一緒にお釣りを確認してくれることで、誤りによる金銭面での損失や不安の発生などを防ぐことにつながります。

確かに、お釣りを数える十数秒という時間が無駄という見方も存在しますが、店の損失を防ぎ、客に安心を与えるための対応であると考えた場合、私は決して無駄な時間ではないと考えています。現在、業務の効率化の観点から、代金の自動精算機を導入する店舗が増えています。しかし、従来型のレジは、この世からなくならないでしょう。店員と客が直接、代金をやりとりする店舗では、客と一緒にお釣りの確認を行う作業は、やはり必要ではないでしょうか」

オトナンサー編集部

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