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「美しく控えめを強要」絶対呼んではいけないマナー講師のタイプ

  • 2021.8.9
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今、就活における性差別「就活セクシズム」に対して反対の声が上がっています。就活時の服装やマナーなどを、男性はこうあるべき、女性はこうあるべきと指導するような風潮はどこから生まれたのでしょうか。男性学の専門家、田中俊之さんが指摘する2つの「元凶」とは──。

面接を待つ女性
※写真はイメージです
きっかけは大学のキャリア教育義務化

学生の就活スタイルがここまで杓子定規になったのは、バブル崩壊以降と言われています。かつて学部や研究室の推薦で就職先が決まることも多く、学生は比較的型にはまらない形で就職活動をすることができていました。

しかし、バブル崩壊後は推薦による就職が減少し、代わって大学の就職課がそうした役割を担うことになります。ここから徐々に就活のマニュアル化が進み始めたのですが、その流れが一気に加速したのは2010年、大学のキャリア教育が義務化されてからではないかと思います。

この年、大学設置基準が改正され、文科省から各大学に「キャリア教育をしなさい」というお達しが出ました。これによって、従来は課外のプログラムだったキャリア教育が、正規の授業に組み込まれることになったのです。

実務経験者任せのキャリア教育の授業

当時、すでに僕も教員だったのでよく覚えていますが、この決定には大学も教員も大いに困惑しました。教員は就活したことも企業で働いたこともない人がほとんどですから、いきなりキャリア教育の授業をしろと言われてもできるはずがありません。

そこで多くの大学では、実務経験者を非常勤講師として招き、キャリア教育の授業を任せることにしました。こうして学問とはまったく別の、ある意味特殊な授業が始まったのです。

「女性はメイクしないと失礼」と教えるマナー講師もいた

大学によっては就活対策の先生としてマナー講師を招くところもあり、その中には「女性は面接ではメイクしていないと失礼」などと教える人もいました。大学の正規の授業に、偏ったジェンダー意識が持ち込まれたわけです。就活の服装やマナーにおける就活セクシズムが加速した原因としては、僕はこれが決定的だったと思っています。

「男らしい」「女らしい」という言葉そのものは褒め言葉にもなりえますが、就活で企業から評価されるためにそう見せる、しかもそれを教えるということになると、男はこうあるべき、女はこうあるべきと細かくマニュアル化されてしまいがちです。

こうしたことを授業で、先生と呼ばれる人から教えられたら、多くの学生は正しいと思い込んでしまうでしょう。企業から選ばれたいと願う学生の気持ちを責めることはできません。問題は、そう教えてしまう「先生」の側にあるのです。

企業が求める個性とは「自社に合った個性」

もうひとつ、就活セクシズムが加速した原因としては、従来からの企業の新卒一括採用も挙げられます。海外の企業は、インターン制度を使って人柄や会社との相性などを見極めた上で採用することも多いのですが、日本のような一括採用では一人ひとりの人柄までチェックできません。自然と、出身大学などの経歴に頼る割合が多くなります。

採用の判断材料が経歴しかない中で、同じような経歴の学生をふるいにかけようと思ったら、後は見た目が頼りになってしまいます。極端な例で言えば、面接にTシャツ姿で来る子よりは、リクルートスーツの子のほうが常識的でいいよね、ということですね。

就活面接
※写真はイメージです

最近は「面接は個性を発揮する場」などとも言われますが、そうは言っても企業が求める個性とは「自社に合った個性」。真に個性的な人を求めているわけではありません。そんな人を入れたら自社の枠にはまった働き方をしてくれないかもしれず、現状うまくいっている組織が変わってしまう可能性もあるからです。

また、就活生は皆同じ見た目であるほうが逆に選びやすいと考える人もいます。見た目が均一化していれば残る材料は経歴だけになりますから、合否も割り切って判断しやすいというわけです。

加えて、日本の企業はまだ性的マイノリティーの就活生を想定する段階まで行っていません。服装もマナーも、いまだに男性は男性らしい、女性は女性らしいことが常識的とされていて、履歴書に性別を書かせない企業がニュースになるぐらいです。

教壇に立たせてはいけない人たち

ここまで、就活セクシズムが加速した原因として2つの要素を挙げてきました。このうち、新卒一括採用や採用基準は企業の変化に期待するしかありませんが、キャリア教育の講師選びについては各大学で変えていくことができます。

最も大事なのは、「ジェンダーバイアスのかたまりのような人は選ばない」ということです。マナー講師の中には、リクルートスーツや面接マナーを極端に男女に二元化して語り、特に女子学生に対しては非常に多くのことを要求する人がいます。

メイクや髪型はもちろん、スカート丈やヒールの高さに至るまで「望ましいスタイル」があると指導する──。男女に二元化したり、女子学生への要求項目が男子より多かったりといったことだけでもすでに問題ですが、さらに問題なのは、女子学生への指導内容には共通して「女性は美しく控えめであるべき」という思い込みが見られることです。

自身がそのやり方で成功してきたという経験があるからなのかもしれませんが、こうしたバイアスを持った人を教壇に立たせるべきではありません。人に何かを教えようと思ったらいちばん大事なのは講師選びで、これは企業研修でも同じです。確かに、男性はこう、女性はこうという二元論は受講者からの受けはいいかもしれません。わかりやすいですし、そういうものだと聞けばそれ以上考えなくて済むからです。しかし、だからこそジェンダーバイアスを持った人を先生にしてはいけないのです。

学問は仕事や就職に役立てるために学ぶのではない

大学のキャリア教育自体は、なくすことはできないでしょう。今はオープンキャンパスの時点で、学生も保護者も「卒業したらどんな職に就けるのか」「大学側はその可能性をどう高めてくれるのか」といったことを知りたがります。キャリア教育の授業で就活マニュアル的な話が多くなるのも、こうしたニーズに応えなければならないからです。

教員としては、この状況に寂しい気持ちもあります。そもそも学問は、仕事や就職に役立てるために学ぶものではありません。私としては、学問を通して自分の頭で考える力を育成しているつもりなので、学生がその力を身につけて、いつか役立ててくれたらいいなと願うばかりです。

学生は「バイアスを持つ企業は選ばない」姿勢を

就活セクシズムはどうすればなくしていけるのでしょうか。大学の講師選びや企業の新卒採用への意識のほか、もうひとつ変えるべきポイントがあります。それは就活の当人である学生の意識です。

優秀な学生には、「ジェンダーバイアスを持った企業は選ばない」という姿勢で就活に臨んでほしいと思います。その部分について企業がどんな意識を持っているかは、ダイバーシティ施策や女性活躍の実現度を見ればわかるでしょう。

そうした点をチェックせずに「有名企業だから」「仕事内容が好きだから」という理由だけで入社したら、女子学生は将来のキャリアを伸ばせないかもしれません。男子学生にとってもひとごとではなく、育休をとる際に嫌がらせに遭ったり昇進に影響が出たりする可能性もあります。

学生がこうした態度で就活に臨めば、ジェンダーバイアスを持った企業や多様性のない企業は優秀な人材を採用できなくなり、変わっていかざるをえなくなるのではと思います。

急速に変えるのは難しくても、変化のきざしはすでに現れ始めています。男女別の就活スタイルを押しつけるような話題には必ずカウンターの意見が出てきていますから、さまざまな視点から議論できる状況になりつつあるのは間違いありません。この変化の芽をさらに育てて、日本におけるジェンダーバイアスの解消につなげていきたいと思います。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。

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