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インテリアスタイリスト・作原文子のクローゼット哲学「心が動く愛らしさが大切」

  • 2021.8.9

クリエイターが描く理想とは?“ワードローブの部屋”にまつわる、夢のかたちを聞きました。

機能や実用性だけじゃつまらないと思う
心が動く愛らしさが大切

「洋服は自分を表現するものでもあるし、自分といちばん近いところにあって、誰もが愛着を感じているもの。そんな洋服の〝居場所〟であるクローゼットは、リビングやキッチンとはまた違う自分らしさを表せる場所なのかもしれませんね」

付き合い方次第でもっともっと好きになれる可能性を秘めている。そう語るのは、インテリアスタイリストの作原文子さん。思わず真似したくなる魅力的なスタイリングが人気で、映画のヒロインの部屋づくりにも関わってきた。数えきれないほどのクローゼットをスタイリングし続けている作原さんにとって、それは「自分を喜ばせるスペース」であり、「おしゃれするっていいなと思う気持ちを喚起する場所」なのだ。

「多くの人がクローゼットに求めるのは、決まったスペースに、よりたくさんの服を効率的に収納することだと思うんです。でも私は、機能性や実用性より、自分が見て楽しいかどうか、愛着を感じるかどうかを優先したい」

そんな作原さんが理想のクローゼットを考えるときになにより大切にしているのは、服がかかっている姿の心地よさや、そこから醸し出される空気感。

「たとえばリビングの壁に〝ここが私のクローゼット〟というスペースをつくり、好きな服をかけてみる。で、それを中心に、バッグや靴やアクセサリーをどんどんデコレーションするんです。ジャケットやコートは、ハンガーを使わず直接フックへ。かけた時のシルエットのカッコよさや生地が重なるさまを、眺めて楽しむのが好きですね」

©LandNorm HELLY HANSEN × ACTUS ©Norio Kidera
好きな服をかけたり靴を並べたりして、その佇まいを眺めるのが好きという作原さん。壁付けフックや小物を留めるクリップも、愛着がもてるものを選ぶ。〈HELLY HANSEN〉と〈ACTUS〉のコラボコレクション〈LandNorm〉のスタイリング。

フックやSカンのようなツールも、できるだけ質感や形がいいものを選ぶ。お気に入りのファッション写真やポストカードをいっしょに飾ったりもする。

「洋服をかけるたびにうれしくなる。好きだから使いたくなるしおしゃれをしたくなる。そういう場所になったら、服を着る/しまう時の気持ちもちょっと変わると思います。クローゼットを自分だけのギャラリーのようにするのも面白いですよね。洋服や靴はちゃんと並べつつ、アートや花など衣類とは関係ないものも飾ったりして」

棚やしまうものの色を統一することで、見た目の美しさも強調されるのだ。

©Masanori Kaneshita
空間もしまうものも白で統一。服や靴を並べるスペースと絵や花を飾る場をミックスし、好きなものが並ぶギャラリー的クローゼットとした。パナソニックのコンセプト住宅「間のある家」のスタイリング。展覧会「くらし体感スクエア2020」より。

「もうひとつ提案したいのは、家の中のいろんな場所にクローゼットがあってもいいんじゃない?ということ。たとえば私は、椅子にお気に入りの洋服がかかっている景色がとても好き。純粋に愛おしいなあって思えるし、いろんな服が重なっているフォルムや、色と質感が織りなす佇まいみたいなものを見て、インスピレーションを受けることもよくあります。椅子もクローゼットになるって考えたら、面白くないですか?」

あるいは、サングラスやキーホルダーなど毎日使うものを入れたトレイ。バサッと投げ入れておくだけで絵になるデザインを選ベば、リビングでも寝室でも、その日に置いたところが〝ものの居場所〟になる。

©Hiroko Matsubara
時計や香水、財布など毎日使うものをメタルトレイに入れておく。その日の気分でリビングに置いてもカッコいいし、玄関や寝室に置くのもいい。「クローゼットと名づけられた場所だけにしまわなくていいと思う」と作原さん。GINZA 2014年9月号より。

「デザインのいいカゴにスカーフやハンカチを入れ、気分に合わせて好きな場所に持ち運ぶのは、自宅でも取り入れているスタイルです。クローゼットを移動する感覚なのかな。いつもと違う場所に置くことで、存在を意識しやすくなるし、使う頻度も高まります」

〝スカーフ類は洋服ラックの下〟というように定位置を決めれば便利かもしれないけれど、新陳代謝が悪くなって、それを使いたいと思う気持ちやおしゃれ心まで停滞してしまう。

「収納とは、好きなものとどう向き合い、どう付き合っていくかということ。整理整頓するのもひとつの答えですが、私はたくさん眺めて慈しんで、刺激を受けながら暮らしたい。収納する場所に境界線を引く必要はないと思うんです。むしろ、家自体が愛着のあるものであふれたクローゼットであってほしい。それが私の理想です」

GINZA2021年6月号掲載

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