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「その人にしか描けない絵」が見せる粋 イラストレーター 安西水丸展@世田谷文学館

  • 2021.8.7
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【TOP画像】《口笛のきこえる》1985年 illustrated by Mizumaru Anzai © Masumi Kishida

シンプルな線と鮮やかな色使い。こう書くと、あらゆるにイラストレーションに当てはまりそうなのに、一目見れば、誰が描いた絵なのかわかる。そんなイラストレーションをたくさん世に送り出した安西水丸の回顧展が、現在世田谷文学館で開催中だ。

安西水丸(1942-2014)は、1970年代より小説、漫画、絵本、エッセイや広告など、多方面で活躍したイラストレーター。村上春樹の本の装丁で知る人も多いはず。絵から漂うなんとも洗練された雰囲気は、本の内容もあいまって都会をそのまま絵にしたようなイメージだ。

安西は、はじめ広告代理店や出版社に勤め、デザイン等の仕事をしながら、嵐山光三郎の勧めで「ガロ」に漫画を掲載、南房総で過ごした日々などを題材とした『青の時代』が高い評価を受けた。その後独立してからは、村上春樹をはじめとする本の装丁や、『がたん ごとん がたん ごとん』などの絵本、和田誠との展覧会、広告や執筆活動など、幅広く活躍した。

この展覧会では、「小さい頃よりずっと絵を描くことが好きだった」という安西の幼少期から晩年に至るまでの足跡を、原画と関連資料あわせて500点以上により紹介している。

(「サヴォイでストンプ」村上春樹共著『象工場のハッピーエンド』CBS・ソニー出版1983年収録) illustrated by Mizumaru Anzai © Masumi Kishida

展示空間は、安西水丸ワールドとも言えるような、遊び心あふれる仕掛けがたくさん。特大サイズになったモチーフや、顔はめスポットなどが楽しめる。また、とりわけ関係の深かった作家である、嵐山光三郎、村上春樹、和田誠との交流のなかで生まれた作品にも焦点をあてている。このほか、イラストレーターを夢見ていた幼少期からの作品や資料、生涯にわたって愛した品々も見ることができる。

会場風景

そして、全国を巡回してきた本展の集大成として、特別コーナーやこれまでになかった作品や資料が加わっている。旅が大好きで生涯で国内外のさまざまな場所を訪れた安西の側面にもフォーカスした特別コーナー「たびたびの旅」では、旅にまつわる原画、原稿、郷土玩具、民芸品など初出品資料を含む約130点を展示。イラストレーションにも登場した愛用の品や、旅先で求めたスノードームや郷土玩具を見ることができる。

《サーフィン》2006年 illustrated by Mizumaru Anzai © Masumi Kishida

また、2020年末に新たに発見された小説『アマリリス』カバー原画、村上春樹共著『ランゲルハンス島の午後』原画ほか、貴重な原画作品約15点は、今回が初の出品となる。

会場風景

村上春樹のエッセイにはたびたび安西が登場する。ちょっとふざけたようなやり取りや、イラストレーションに描きこまれるユーモアたっぷりの一言二言が楽しくて、飽きずに何度も読んでいた。なにげないシーンなのに、「その人にしか描けない絵」。ユーモアのなかにちょっぴり哀愁が漂う、安西の作品。今でも色あせない「粋」を、ぜひ会場で感じてみて。


《APPLE》2001年 和田誠共作 illustrated by Mizumaru Anzai © Masumi Kishida, © Wada Makoto

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