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夏休みの「宿題」はなくした方がいい理由 国民の生産性に直結する問題も

  • 2021.8.7
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夏休みの宿題は必要?
夏休みの宿題は必要?

夏休み真っ最中ですね。毎年のことですが親御さんたちからは「毎日、宿題をやらせるのに一苦労です」「集中力がなくて、1時間でできるはずの宿題に3時間もかかります」「子どもがやることをやらず、ダラダラして困ります」などの悲鳴が聞こえてきます。

労力の割に成果は少ない

しかし、正直に言えば、これは当たり前のことなのだと思います。そもそも、夏休みというものは、暑過ぎて何もできないから休むことになっているわけです。おまけにもともと、日本の夏は高温多湿で過ごしにくい上に近年、その度合いが一層顕著になっています。それに、子どもたちは4月の始業式から7月の半ば過ぎまで、3カ月半ほど頑張ってきたのですから、休みたくもなります。

このようなわけで、子どもがダラダラするのは当然ですし、大人だって同じようなものです。年がら年中、頑張ることなどできないわけです。また、「そもそも、夏休みに宿題が必要なのか。本当に効果があるのか」といったこともおおいに疑問です。もちろん、子ども本人が勉強に対する意欲が高くて、本当に楽しみながら、あるいは目的意識を持って主体的に勉強できるなら効果があるでしょう。

しかし、正直言って、こういう子は極めて少ないのが現実です。ほとんどの子は嫌々宿題をやっているわけです。多少は効果があるのかもしれませんが「その多大なる労力に比べると成果は非常に少ない」と言わざるを得ません。それに忘れてならないのは、本人の能力や家庭環境などにより、子どもたちの間には非常に大きな学力差があるということです。学力格差があるにもかかわらず、宿題は一律に出されることがほとんどです。そのため、宿題が加重負担になって、毎日苦しんでいる親と子どもがたくさんいます。

このような場合、親が宿題のことで叱り続けることで親子関係が悪化したり、子どもが自己肯定感を持てなくなったりする可能性が高くなります。これは子どもの人格形成によくないので、親が先生に事情を話して、宿題を減らしてもらうとよいと思います。つまり、大人の交渉術で上手にやってほしいのです。

どうすればいいのかというと、当然ですが、まずは先生に「いつもお世話になっております」と一言伝えた後、「先生に受けもっていただいてから、うちの子、生き生きしてきました」「先生のことが大好きで、家でいつも、先生のものまねをしているんですよ」などと先生のことを褒めるとよいと思います。その後、困っている事情を正直に話して、宿題を減らしてもらってください。

以上のようなわけで、筆者は夏休みの宿題にはおおいに懐疑的です。それよりももっと、子どもたちがやりたいことをやれる時間を確保してあげた方がいいと思います。つまり、スポーツでも趣味でも遊びでも芸術でも何でもいいので、本人が心から楽しんで熱中できる時間です。こういう時間は本当に大切です。こういう時間の中で、よいことがたくさん起きます。

やりたいことに熱中しているとき、脳の中で「幸せホルモン」の一種であるドーパミンが出ます。このホルモンは幸福感を高めるだけでなく、意欲、やる気、集中力、理解力、記憶力、思考力を高める働きもあり、いわゆる、勉強に必要な能力も上がるので学力向上にもつながります。

自分がやりたいことを深めることで自信がつき、自己肯定感が上がります。すると、生活全体に張りが出て、他のことも頑張れるようになります。また、自分がやりたいことを自分で見つけて、バリバリやる自己実現力がつき、主体的な生き方とアクティブラーニングの力がつきます。

例えば、米国の学校の夏休みは州によって違いますが、短いところで2カ月半、長いところは3カ月、欧州の学校の夏休みも国によって違いますが、だいたい2カ月から2カ月半です。そして、米国も欧州も夏休みの宿題はありません。その豊かな自由時間を使って、子どもたちは遊びも含めて、自分がやりたいことやさまざまなアクティビティー(キャンプなど)に精を出します。

そのようにして成長した欧米の大人たちが、日本の大人たちより学力が劣っているという事実はありません。それどころか、先述のような、自分がやりたいことを自分で見つけて、バリバリやる自己実現力がついているので、人がやらないような斬新なビジネスのアイデアを見つけて取り組んだり、自ら起業したりする人たちがたくさんいます。

また、子どもの頃から、「勉強するときは勉強する。休むときは休む」というオン・オフのメリハリのある生活を送ってきているので、大人になってからも仕事と休みのメリハリのある生活が自然にできます。

そもそも、宿題は必要ない

そうしたことが国民1人当たりの生産性に表れています。2020年における日本の国民1人当たりの名目GDPは世界23位であり、その生産性は極めて低く、国民1人当たりが生み出す付加価値はとても少ないのが実態です。一方、子ども時代に日本の2倍もある長い夏休みを謳歌(おうか)して、しかも夏休みの宿題など全くなかった、米国の大人の1人当たりのGDPは日本の約1.6倍にもなります。

もちろん、日本の生産性が低い原因は他にもいくつかあると思いますが、筆者はオン・オフのメリハリのない仕事ぶりがその大きな要因であることは間違いないと思います。来るべきAI時代、SDGs時代、多様性と流動性の時代、超高齢化社会に向けて、日本は国を挙げて、「働き方改革が必要だ。働き過ぎをやめてワーク・ライフ・バランスを大切にしよう。仕事と休みのメリハリをつけよう」と言っています。

そのためには、子どものときから、スタディー・ライフ・バランスを大切にしたメリハリのある生活の仕方を教えていく必要があります。子どものときはバランスを無視しておいて、大人になって急に「ワーク・ライフ・バランスを大切に」と言うのはどだい無理な話です。

このようなわけで、筆者はそもそも、学校が宿題を出さないようにすればよいと思います。愛知県の元公立小学校校長の沢田二三夫先生のように、実際に夏休みの宿題をなくした例もけっこうありますので、やろうと思えばできます。また、文部科学省がそのような事例を集めて、先生や保護者を啓発していくことも必要だと思います。

そして、これは先生の働き方改革にも直結する問題でもあります。なぜなら、夏休みの宿題を出す先生たちの負担も非常に大きいからです。筆者も長年、小学校の教員だったのでよく分かります。特に大変なのは、夏休み明けに子どもたちが提出した宿題を見る仕事です。まず、誰が出してないかチェックする必要があります。提出していない子に理由を聞いたり、提出するように促したりするのは楽しい仕事ではありません。

また、提出物によっては丸付けをしたり、コメントを付けたり、教室に掲示したりなど膨大な作業が必要になります。当然、勤務時間内では終わらないので、持ち帰って自宅でやったり、休日出勤したりということになります。文科省には、先生の働き方改革のためにも、夏休みの宿題についてはぜひ、なくす方向で取り組んでいただきたいと思います。

教育評論家 親野智可等

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