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後期高齢者の医療費負担 1割から2割にアップするのはどんな人?

  • 2021.8.2
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公的な医療保険制度は、私たちが安心して必要な医療を受けるために、とても大切な制度です。外国と比べても、手厚い保障と言われる日本の制度、ずっと続いて欲しいですね。
医療保険制度は、これまでも見直しがたびたびなされてきましたが、2022年以降には75歳以上の人の窓口負担が、年収に応じて1割から2割にアップします。

実はこの見直し、一部の高齢者だけの問題ではありません。
現役世代の負担を軽くし、将来にわたって医療保険制度がしっかり続いていくようにするためでもあるのです。

今回は、医療費のしくみと、75歳以上の後期高齢者の医療費負担が2割になる人について、お伝えします。

現役世代の医療費が3割負担ってどういうこと?

まず、医療費の仕組みを確認しましょう。

日本では、すべての国民が公的な医療保険に加入する、国民皆保険制度です。会社員・公務員であれば社会保険、個人事業主・フリーランスであれば国民健康保険に加入していることが多いと思いますが、いずれにしても何らかの医療保険に加入して、全ての人が保険証を持っています。

日本の医療保険制度では、医療機関は自由に選べる、フリーアクセス。病院やクリニック、医師との相性や通院のしやすさで好きなところを選ぶことが可能です。
また、安い医療費で高度な医療を受けることができます。
どれくらい安いかというと、元々の医療費の7割引。つまり3割だけ払えばいいので、3割負担と言われています。

たとえば、1万円かかる医療を受けたら、自己負担は3000円だけ、病院の会計窓口で払えばいいという計算です。

3割負担

図:筆者作成

残りの7割は、主に保険料から支払われています。

会社員・公務員で社会保険に加入していると、毎月の給与から健康保険料が差し引かれているでしょう。その同額が、勤務先からも保険料として納付されています。
個人事業主・フリーランスで国民健康保険の場合は、口座振替や、納付書で納めていると思います。
それらの保険料と、一部は公費(=税金)によって※1、7割分が病院などの医療機関に直接支払われています。

ただし、負担割合は年齢や年収によって変わります。
小学校に入学する6歳から70歳までは3割ですが、70~74歳は2割、75歳以上は1割負担です。※2
高齢になると、病院に行くことが増える一方、収入は現役並みより少なくなることが多いため、自己負担が抑えられています。

現役並みの所得

図:筆者作成

しかし、高齢であっても現役並みの所得がある人は、3割負担となっています。
日本全体で見ると医療費は年々増えており、収入面で払える余力のある人には、3割負担をしてもらうことで、財政の改善が見込めるからです。
※1:厚生労働省医療保険制度をめぐる状況(13/106)
※2:厚生労働省医療費の一部負担(自己負担)割合について(1/7)

後期高齢者医療制度とは?

今回、負担割合が見直しされるのは、後期高齢者と言われる75歳以上の人が対象です。
75歳になると、それまで社会保険や国民健康保険に加入していた人も、後期高齢者医療制度に加入することになります。
75歳以上は一般的に医療費が多くかかりますので、現役世代の医療保険とは別制度にすることで、財政を改善するねらいがあります。

75歳以上の後期高齢者は、約1870万人。そのうち現役並みの所得がある3割負担の人は7%程の約130万人ですから、ほとんどの人は1割負担です(2020年7月時点)※3。

後期高齢者の人は収入が少なくなりがちなので、1割負担であれば安心して医療にかかれると思う人も多いでしょう。
自己負担以外のお金は、後期高齢者医療制度を運営している、後期高齢者医療広域連合から出ています。

広域連合の医療費財源は、公費(税金)が約5割、75歳以上の人が払う保険料は1割、後期高齢者支援金(若年者の保険料)が4割という内訳です。

後期高齢者広域連合

図:筆者作成

75歳以上の人も保険料は払っていますが、保険料でまかなわれているのは約1割にすぎないのです。
約4割をしめる後期高齢者支援金は、74歳以下の人が払っている保険料から出ています。
つまり、現役世代が払っている保険料の一部は、75歳以上の後期高齢者のための医療費にあてられているのです。※4

医療保険は、みんなで支え合う制度です。
働いて収入のある現役の時には、保険料や税金を払って支える側になり、収入が少なくなったら支えられるようになることは、理にかなった制度と言えるでしょう。

しかし、超少子高齢化が進んでいる昨今、支える側の人口が減る一方、高齢者は増えています。そのため、今までの制度では支えきれないことが不安視されてきました。
さらに、医療費は以前より高くなっています。新しい高額な医薬品が開発されると、治る病気やケガが増えたことは喜ばしいことですが、財政的な負担は避けられません。

※3:厚生労働省令和2年度の国民年金の加入・保険料納付状況
※4:財務省社会保障について(16/41)

2割負担になるのはどんな人?

そこで、今まで1割負担だった人のうち、収入が比較的高い人を対象に、2割負担に変更することになりました。開始されるは2022年10月~2023年3月の間で、今後の政令で定めることになっています。

2割負担になる人の年収は、単身世帯で200万円以上、75歳以上の人が2人以上いる複数世帯では320万円です。これは、平均的な収入で算定した年金額※5を上回る水準として計算された金額です。

1割負担だった人のうち、2割負担になる対象者は、次のフローチャート※6でわかります。

2割負担フローチャート

図:筆者作成

まず、世帯のなかで、最も課税所得が高い人の課税所得が28万円未満の場合は、1割負担のままです。
課税所得は、収入から各所得控除を差し引いた金額です。公的年金やパート収入などの合計収入から、基礎控除・社会保険料控除・公的年金等控除を差し引いて計算します。

一人暮らしで収入が公的年金だけの場合、年金収入が200万円未満の場合に対象になるケースが多くなります。ただし、所得控除はそれぞれの家族や暮らしの状況に応じて対象が変わります。
所得控除が多くなれば、課税所得は少なくなりますので、年金収入が200万円以上あっても、課税所得が28万円未満であれば、1割負担のままです。

課税所得が28万円以上の場合、世帯年収で判断します。
一人暮らしの単身世帯なら200万円以上、75歳以上の人が2人以上いる複数世帯であれば、320万円以上が対象です。
2割負担になるのは、約370万人の見込みです。

3割負担は、今までどおり、現役並みの所得(単身世帯で383万円以上、2人以上世帯で520万円以上)の世帯が対象です。後期高齢者の自己負担が、今まで1割または3割と大きな差がありましたが、今回の改正で2割負担の層ができることによって3段階になりました。

75歳以上になっても、収入が増える可能性はあります。
株式投資がうまくいったり、相続した不動産からの収入があったりすることも考えられるでしょう。そんな時に、医療費の窓口負担が、今まで1割負担だった人がいきなり3割負担になったら負担感が大きくなります。
今回の改正で、急激な変化になってしまうことが避けられれば、より安心して医療を受けられるでしょう。

※5:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(41/47)
※6:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(16/47)

2割負担になったら、医療費は倍になる?

とはいえ、1割が2割になったら窓口負担は2倍になります。
75歳以上の人は、年間で95%の人が外来受診※7しています。入院までしなくても通院する人は多く、1年間に1度も通院していないのは5%にすぎません。
そのうち5割弱の人が毎月診療を受けています。

たとえば、高血圧で定期的※8に外来治療を受けている人は、平均して1か月あたり2600円が自己負担分です。それが、2割負担になると、5200円になります。

2割負担になったら、医療費は倍?

図:筆者作成

ただし、負担増の金額があまりに大きいと、受診を控えてしまう危険性が懸念されています。そこで、2割負担になる人の外来受診の負担増加額は、最大でも月3000円に収まるように配慮されることになりました。

高血圧性疾患の場合は、月2600円の負担増で3000円以内のため、負担軽減の対象にはなりませんが、別のケースを見てみましょう。
たとえば、脳血管疾患の場合は、平均して1か月あたり4500円が自己負担分です。それが、2割負担になると、9000円になります。しかし、負担増は最大で3000円ですから、自己負担は7500円に抑えられます。

2割負担の医療費

図:筆者作成

この配慮措置は、急激な負担増加を避けるためのものであり、2割負担の施行後3年間なされる予定です。

厚生労働省が示した資料※9によれば、75歳以上の年収200万円の単身世帯では、年間支出は188万円で12万円の余裕があるとのことです。また、夫婦合計の年収320万円の世帯では、年間支出が284万円で16万円の余裕があります。
負担増にはなりますが、決して無理なものではないと試算されています。

※7:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(7/47)
※8:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(10/47)
※9:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(6/47)

現役世代の負担は軽減される?

では、75歳の後期高齢者の一定の人の自己負担が2割になって、現役世代の負担はどのくらい軽減されるのでしょうか。
全医療費のうち、患者の自己負担が増えるので、後期高齢者医療広域連合から払う医療費の総額が減りますから、後期高齢者支援金(若年者の保険料)を減らすことができます。

後期高齢者支援金

図:筆者作成

しかし、2割負担を導入しても支援金の軽減効果は2025年度で830億円です。
これは、現役世代の負担1人あたりで考えると年間800円※10、1か月あたり約67円。
現役世代にとって、負担感が軽くなる実感を持つのは難しそうですね。
このくらいのことで、医療制度の財政は改善するのでしょうか。

今後も、高齢者は増える一方で、現役世代の人口は減っていきます。
医療保険制度の存続を危ぶむ声もありますが、安心して暮らすためには、適切な医療を受けられることは欠かせません。そのため、2割負担の他にも、さまざまな方策※11が考えられています。

75歳以上になると医療機関にかかる人が増えるため、高齢化は医療費の増大の要因のひとつですが、他にも要因はあります。
たとえば、高額な医薬品が保険適用になることもそのひとつです。抗がん剤のオプジーボや白血病・悪性リンパ腫の治療薬のキムリアなど、大変高額ですが保険で使える薬なので、自己負担は抑えられますが、保険料などからの支払いが高くなり、医療財政を圧迫することにもつながります。
そのため、薬価は定期的に見直されています。

また、比較的低価格の後発医薬品=ジェネリック医薬品が推奨されています。
調剤薬局で薬剤師から、ジェネリック医薬品でよいか、聞かれた人も多いのではないでしょうか。

さらに、医療費そのものを抑えられるよう、診療報酬の見直しも検討事項です。
とくに薬局の調剤報酬※12については、今後全体として水準を下げつつ、大胆に縮減すべきとされています。

その他には、健康診断な※13どを医療費の抑制効果から評価することも考えられています。費用に見合う価値のない健康診断をなくし、効果的なものだけに絞れば、医療費が抑制されて健康増進にも役立つようになるでしょう。

持続可能な医療保険制度のためなされる政策は、2割負担の導入だけではありません。
今後もさまざまな改革がされていくと思われます。知識は常にアップデートしておくことで、どんな時にも慌てずに対処していきたいですね。

※10:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(18/47)
※11:厚生労働省社会保障について(15/41)
※12:厚生労働省社会保障について(22/41)
※13:厚生労働省社会保障について(32-33/41)

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