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「プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ」【松本路子のバラの名前、出会いの物語】

  • 2021.8.2

バラに冠せられた名前の由来や、人物との出会いの物語を紐解く楽しみは、豊かで濃密な時間をもたらしてくれるものです。自身も自宅のバルコニーでバラを育てる写真家、松本路子さんによる、バラと人をつなぐフォトエッセイ。今回は、南アフリカ出身の競泳選手で、シドニーオリンピックで5位に入賞した経歴をもつモナコ公妃、シャルレーヌに捧げられた美しいバラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ’の誕生のエピソードと公妃の活動などをご紹介します。

バラとの出会い

プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ
杏色のつぼみは開花して、次第に淡いピンク色に変わっていく。優美な花色だ。

モナコ公妃の名前を冠するバラに出会ったのは、数年前、千葉県にあるバラ園だった。淡い杏色の何とも言えない気品に満ちた花姿に惹かれて、その年の秋に、早速大苗を取り寄せた。

プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ
開きかけた花の透明感あふれる姿。

そのバラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ(Princesse Charlene de Monaco)’ は、翌春に我が家のバルコニーで、大きく枝を伸ばし、たくさんの花を付けた。杏色の花は開花が進むにつれ、次第にピンク色に変わり、最後はシェルピンクの儚げな色になって散っていく。まさにプリンセスの名前に相応しい優美なたたずまいを見せてくれる。

モナコ公妃シャルレーヌ

モナコ公国
モンテカルロ市街と、多数のヨットが並ぶモナコ港のパノラマ風景。Balate Dorin/Shutterstock.com

モナコ公国とバラといえば、バラを愛した故グレース公妃のことが思い起こされる。彼女に捧げられたバラ、‘グレース・ド・モナコ’と‘プリンセス・ド・モナコ’はあまりに有名だ。

モナコ公国のシャルレーヌ公妃
モナコ公国のシャルレーヌ公妃。Zigres/Shutterstock.com

公妃シャルレーヌは、グレース公妃の息子で現公国君主のアルベール2世の妃にあたる。2011年に二人が結婚した時、妃はその美しさと同時に、ユニークな経歴で話題になった。南アフリカ出身の競泳選手で、シドニーオリンピックで5位に入賞した実績の持ち主だったのだ。

二人は2000年にモナコのモンテカルロで開かれた水泳大会で出会い、2006年から交際をスタートさせた。彼女は北京オリンピックへの出場資格を得ながら、それを放棄して公妃になる道を選んだという。ハリウッド女優グレース・ケリーからグレース妃となった前公妃と同様に、大きな決断に迫られた人生に違いない。

その生い立ち

水泳
南アフリカのダーバンで、プリンセス・シャルレーヌ財団のチャリティイベントを開催。かつて競泳選手であった公妃は、自らも水泳のトレーニングを行なった。SAPhotog/Shutterstock.com

シャーリーン・リネット・ウイットストックは1978年、ジンバブエで生まれた。シャルレーヌはシャーリーンのフランス語読みだ。12歳で家族とともに南アフリカに移住。2歳で始めた水泳が上達して、18歳で南アフリカの全国選手権で優勝している。2000年のモナコの競技会では、200m背泳ぎで金メダルを獲得した。

2児の母として

公妃シャルレーヌは、2014年に双子の男女を出産している。現在6歳になるジャック公子とガブリエラ公女の写真を見ると、その愛らしさに目を奪われる。

ヨーロッパの皇族たちが個人名を使いSNSで発信しているのは、今や珍しくない。だが公妃のインスタグラムを見ると、いかにも自ら撮影し、コメントを付けたと思われる子どもたちの写真がアップされている。民間出身で、それまでとかけ離れた世界で生活する彼女にとって、子どもたちの存在がかけがえのないものであることは、想像に難くない。

慈善活動

シャルレ―ヌ公妃
子供たちの水難事故に心を痛めた公妃は、設立した財団で水泳教室を開催し、指導に当たっている。南アフリカ、ダーバンでのチャリティイベント会場にて。SAPhotog/Shutterstock.com

プリンセス・シャルレーヌ財団を設立し、子どもの水難事故を無くすための水泳教室などを開き、公務と同時に慈善活動も熱心に行っている。また2020年には、財団主催のチャリティ水上自転車レースを主催し、自らも参加。コルシカ島を出発して、地中海を横断、モナコのヨットクラブがゴールという180kmのレースだ。彼女は完走し、また多くの寄付を集めることに成功している。

バラの名前

プリンセス・グレース・ローズガーデンのエントランス
モナコの新興地区にある「プリンセス・グレース・ローズガーデン」のエントランス。広さは5000㎡で、6つのテーマに沿ってバラが植栽されている。Ingo70/Shutterstock.com

バラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ’は、2014年にモナコの「プリンセス・グレース・ローズガーデン」(Roseraie Princesse Grace)のリニューアルオープンに際して、シャルレーヌ公妃に捧げられた。

プリンセス・グレース・ローズガーデン
「プリンセス・グレース・ローズガーデン」のライトアップ風景。ガーデンにはグレース公妃の立像や噴水などもある。Iryna Savina/Shutterstock.com

ローズガーデンはグレース公妃が事故死した2年後に夫であるレーニエ3世がモナコのフォンヴィエイユ地区に創設したもの。リニューアルで拡張され、300品種、4,000本のバラが植栽された。オープンセレモニーのテープカットの後に、シャルレーヌ妃はその名が冠されたバラの花束を贈られた。

プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ

バラはフランスの育種会社メイアンで作出されたものだ。2011年のお披露目後、ジュネーブバラコンクールで金賞を得るなど、数多くの賞に輝いている。じつは、当初このバラは別の名前を持っていた。‘Haiku Perfumella’、「香りの俳句」と呼ばれていたのだ。芳香が際立つところからその名前が付けられた。

公妃は夫とともにメイアンのナーセリーを訪れ、数あるバラの中からこのバラを自ら選んだと伝えられる。

バラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ’

バラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ’

フランスのメイアン社で作出されたこのバラは、花径10~12cmの大輪の花を咲かせる。杏色から淡いピンクへと花色を変化させ、フリルのある花弁が優雅だ。丈夫で、春から秋にかけて繰り返し開花する。

樹高は約1.5mで半直立性。2005年にモナコ公国発行の0.68ユーロの切手にその画像が採用されている。

Information

Roseraie Princesse Grace

住所:Avenue des Guelfes 98000 Monaco

電話:+377 92 16 61 16

開園:24時間オープン

入場:無料

アクセス:モナコ駅から、徒歩約25分

Credit

写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-21年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。
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