1. トップ
  2. 夏のカンヌ、思い出の味。

夏のカンヌ、思い出の味。

  • 2021.7.31
  • 1417 views

パリ在住の料理クリエイター原田幸代による、連載「パリのマルシェとレシピ」、今回は番外編としてカンヌで出合った思い出の味のお話です。

写真・文/Sachiyo Harada

旅をした時に食べたもの、ずっと忘れられない味がある。いつまでも舌が憶えていて時折無性に食べたくなるのが、南仏カンヌで食べたピッサラディエール。

10年ほど前に出張料理に出向いたカンヌで、マルシェの買い出しを終えて歩いていた時に偶然見つけた小さな総菜屋。ショーケースを覗くとどれもこれもおいしそう。片隅にある小さなテーブルでピッサラディエールとズッキーニの花のフリットを食べてみたら、失礼ながらカジュアルな店構えに似合わぬ本格的な味。聞けば、店主のNorbert(ノルベール)さんは長年イギリスやカンヌのレストラン、パラス・ホテルでシェフをしていたということだった。

早速、一番大きなサイズのピッサラディエールを注文し、それからは足繫く通い少しずつ南仏料理を味わうのが仕事の合間の大きな愉しみになった。疲れていても一つ一つの料理に歓喜し気分が高揚。居心地の良い店でお腹も心も満たされると元気が出たもの。

一緒に調理をする奥様のSophie(ソフィー)さんは、出身地であるフランス南西ランドック地方の港町に伝わる郷土料理やお母さまから受け継いだ家庭のレシピをアレンジしたものが得意。毎日話すうちに二人とも幼いころから母親のおいしい手料理を食べて育ってきているのがよくわかった。

ある時、カンヌ映画祭で取材中の友人にこの店を薦めたところ、行ってみたら店は無くなっていたという連絡が届いた。驚いて直ぐにノルベールさんの携帯電話にかけてみたものの連絡は取れなかった。いつかまた必ず行こうと再会を心待ちにしていた身にとっては、“ままならぬもの”を感じて切なくなった。

ピッサラディエールをほお張るたびに、カンヌの夏の日差しや海風、朝のマルシェの賑わいとともに、南仏の人らしい明るく人懐っこい彼らの笑顔が浮かぶ。いま頃どこでどうしているのか、優しく可愛らしかった息子さんはきっと立派な青年に成長しているはず。もしかすると、またどこかで店を開いているかもしれない。いつまでもそんな思い出と味が胸に残っている。

今日のレシピは旅の味、南仏の郷土料理をご紹介。

210729_580_DSC_4045.jpg

<材料1枚分>ピザ用シート(冷蔵か冷凍)1枚玉ネギ3個固形ブイヨン1/4個オリーブオイル大さじ2アンチョビ(フィレ)6~7本オリーブ5個バジル適量オレガノ(あれば)少々

<作り方>①玉ネギを縦方向に薄切りにし、フライパンにオリーブオイルを熱して強火で3分くらい炒める。固形ブイヨンと水をコップ1/2(分量外) くらい注ぎ、沸騰したら中火にして蓋をし、玉ネギが柔らかくなるまで蒸し焼きにする。蓋を外して強火にし水分を飛ばしながら炒め、少し色づいてきたら火を止めて味見、足りなければ塩(材料外)を加えて冷ます。②ピザ用シートを広げその上に玉ネギをのせ、オレガノを振りかけ、縦に細く切ったアンチョビと2等分に切ったオリーブを飾る。③200℃に温めておいたオーブンで15~20分焼く。バジルをちらして切り分ける。

これには、やっぱりよく冷えたプロヴァンスのロゼワインが合う。アペリティフに、また冷えてもおいしいので、ピクニックアペロにも是非!

SACHIYO HARADA料理クリエイター長い間モードの仕事に携わった後、2003年に渡仏。料理学校でフランス料理のCAP(職業適性国家資格)を取得。 パリで日本料理教室やデモンストレーション、東京でフランス料理教室を開催。フランスの料理専門誌や料理本で、レシピ&スタイリングを担当。16年春、ベジタリアン向けの料理本『LA CUISINE VEGETARIENNE』をフランス全土と海外県、ベルギー、スイス、イギリスなどのヨーロッパ各地で発売。この連載をまとめた『パリのマルシェを歩く』(CCCメディアハウス刊)が発売中。近著に『LE B.A.-BA DE LA CUISINE “Ramen”』(Edition Marabout Hachette社 刊)がある。Instagram : @haradasachiyo

元記事で読む
の記事をもっとみる