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G’s BOOK REVIEW キアラン・カーソンの愉悦と驚きに満ちた物語集『琥珀捕り』etc.

  • 2021.7.30

7月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。

『小島』
小山田浩子

(新潮社/¥2,090)

表題作からはじまる14編には、庭があり畑があり川辺がある。鳥や虫や植物が仔細に描かれ、子どもたちの声に犬の息遣いも聴こえてくる。猿が木の上で何をしているのか、その意図はわからなくても動きが見え、ヒヨドリの思いさえ伝わってくる。一方に、《暗さの一部》のようにしか見えない人間がいる。朱赤の唇が笑う。隣席からはサラダをかきこむ《じゅわじゅわじゅわじゅわ》。読み手の知覚も変容させるような言葉の力が大きな笑いも連れてくる。

『草木鳥鳥文様』
梨木香歩 文/ユカワアツコ 絵/長島有里枝 写真

(福音館書店/¥3,190)

作家が随筆を書き、画家が描いた鳥と植物を写真家が写し撮る。旅先で声を聴かせてくれたオオルリやタゲリ、公園で出合う虚無僧ゴイサギ、夏の訪れを知らせるアオバズク、いつの間にか同居が始まっていたコゲラ、柿本人麿に詠まれたヤマドリに、庭先を訪れる鳥、鳥、鳥。スズメやハシブトガラスなど生活の近くに暮らすものから、アカショウビンなど姿を見つけにくいものまで。36の野鳥をめぐる言葉と、カラーの美しい絵の写真が一冊になった。

『琥珀捕り』
キアラン・カーソン

(栩木伸明訳/東京創元社/¥1,650)

AtoZ。「対蹠地」「薫製ニシン」に「潜水艦」など26題が並び、言葉が連なるページを開けば、アイルランドの暖炉端に古代ギリシア、海の底、NYの図書館、黄金時代のオランダが現前する。博物館と美術館と歴史書と神話とゴシップが同時に押し寄せ、ブリューゲルとボスの絵が蠢き、レンブラントは光を放つ。フェルメールはますます静止する。しりとりでもかくれんぼでも追いかけっこでもあるような、愉悦と驚きに満ちた物語集。

GINZA2021年7月号掲載

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