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夏の暑さを吹き飛ばす、爽やかグーズベリー・フール【The Pudding Party Tomoのイギリス菓子便り】

  • 2021.7.20
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本格的な夏の到来に、さっぱり爽やかなイギリスのデザートはいかがでしょう。主役となるのは、美しい緑色をしたグーズベリーの実。日本ではまだあまり知られていないベリーですが、英国ではジャムやパイなどによく使われ、親しまれています。グーズベリーには特別な思い出があるという、イギリス菓子研究家でパティシエのTomoさんに、レシピを教えていただきます。

緑の宝石グーズベリー

グーズベリー
涼やかで美しいグーズベリー。

みなさん、グーズベリーはご存知ですか? グースベリー、グズベリーとも呼ばれる、緑の宝石のようなベリーです。食べたことがあるという方は、なかなかいないかもしれませんね。というのも、日本ではまだまだ入手が難しい、希少なフルーツだから。私も今年、ようやく手に入れることができました。毎年、生産者さんから販売を知らせるメールが届いて、わずか数時間で売り切れてしまうのですが、今年はラッキーなことに仕入れることができました。

グーズベリー
Mostovyi Sergii Igorevich/Shutterstock.com

グーズベリーは、ヨーロッパや西アジアを原産とするスグリ科(ユキノシタ科に分類される場合もあり)スグリ属の、高さ1mほどの落葉低木で、和名をセイヨウスグリやマルスグリと言います。春に白から淡緑色をした花が咲いて、初夏になると、直径1cmほどの美しい黄緑色の実がなります。真ん丸の実はどことなくブドウのような香りがあって、酸味があり、品種によっては、熟すと赤みがかったり、紫色になったりするものもあります。イギリスでは、古くから栽培されているベリー類の一つで、ジャムやパイ、タルトなどに使われてきました。

グーズベリー
我が家のグーズベリー。右の鉢は赤く色づき始めたラズベリー。

我が家でも、グーズベリーを育て始めたのですが、まだ実がつく気配はありません。早くたくさん収穫できるようになるといいなあ。

さて、イギリスでは初夏になると、出回る期間は短いものの、このグーズベリーをあちらこちらで見かけます。私がパティシエとして働いていた、英国コッツウォルズのスリー・ウェイズ・ハウス・ホテルでも、毎年この時期になると、グーズベリー・フールを作っていました。

伝統のプディングを楽しむ会

イートン・メス
夏の定番デザート、イチゴを使った「イートン・メス」。

スリー・ウェイズ・ハウス・ホテルは、イギリスの伝統的なプディング(英国では、デザートのことをプディングと言います)を守り伝えようと活動していることで有名で、週末になると〈プディングクラブ〉という会が催されます。英国に昔から伝わるプディングを7種類、みんなで食べて、その日一番気に入ったものにそれぞれが投票するという、楽しい会です。

会の参加人数は、多い時で70人を超えることもあります。夜の7時ごろからコース料理が始まり、8時くらいからがプディングタイム。その後、ワイワイと、10時過ぎまでプディングの食べ比べが続きます。特に、夏はイギリスで一番いい季節なので、たくさんの人が訪れて、会は盛り上がります。

シロップ・スポンジ・プディング
シロップ・スポンジ・プディング。英国伝統の、スチームしたプディングの代表格。

プディングクラブでは、冬は、スチームしたプディングを主に提供しますが(これらの温かいプディングもまたの機会にご紹介しますね)、夏はやっぱり、冷たいデザートがメインとなります。

当時の私は、普段レストランやバーで出すデザートに加え、プディングクラブで出す冷たいデザートを担当していました。夏になると、レストラン用の仕込みに加え、会で提供する冷たいプディングを4種類も作らなければならず、てんてこ舞い! 特に、担当になってまもなく迎えた最初の夏は、毎日必死でした。ホテルでの修行の様子は前回少しお話しましたが、レシピも何もかも、かなり「適当」なイギリス式のやり方にまごつく中、初夏になって、グーズベリーの季節がやってきたのです。

涙の思い出「top and tail」

グーズベリー

グーズベリーというベリーは、粒が小さくて、とっても綺麗です。ただ、英語で「top and tail」と呼ばれる、ベリーの上側についている柄(え)と、下側についている花がらをナイフで切り取るという、下処理が必要です。この「ヘタ取り」の作業が、じつはとっても大変。一般家庭で作る量ならなんとかなりますが、仕事として70人分をひとりで取り組むとなると、尋常でない時間がかかります。しかも、当時はそれを週に2、3度しなければならず、グーズベリーが5kg入った箱が、どーんと10箱届いているのを見るだけで、気が滅入ったものでした。

ヘタ取りは、本当に気の遠くなる作業で、仕込みをする朝9時から午後の3時までの間に終わることは滅多になく、休憩さえもとる暇がありませんでした。「グーズベリー=残業」。暇そうにしている他のシェフたちが手伝ってくれることもなく、泣きたいを通り越して、怒り心頭の日々でしたが、皿洗い担当の、英語を話せないポーランド人のおじちゃんとおばちゃんがいつも手伝ってくれて、その優しさに泣きそうになりました。2人ともお元気かな。

当時は本当に、恨みを持ちそうなくらい、大嫌いだったグーズベリー! ですが、味はとっても美味しいですよ。そのようなわけで、みなさんも、もしグーズベリーを手に入れたら、ゆったりと、時間の余裕のある時に作ってくださいね。

フルーツを使ったデザート「フール」

ルバーブ・フール
ピンク色が美しいルバーブ・フール。

さて、このフール(フルーツ・フール)というデザート、伝統的なレシピは、生クリームとカスタード、そして、ピューレにしたフルーツを混ぜるというもので、とても手軽に作れるデザートです。グーズベリーのフールは代表格で、その起源は中世に遡るそう。他には、ルバーブのフールが人気で、ルバーブを使うとクリームがピンク色になって、とっても綺麗です。最近では、カスタードが省略されて、生クリームのみのレシピや、ギリシャヨーグルト(硬めのヨーグルト)を混ぜるというレシピもあります。

ルバーブとブラムリーアップル
真っ赤なルバーブと、酸味の強い調理用リンゴ、ブラムリーアップル。右写真/D. Pimborough/shutterstock.com

フールは、ルバーブの他に、ブラムリーアップルやラズベリーなど、酸味のあるフルーツで作ると美味しいです。ルバーブやラズベリーは冷凍のものも手に入るので、それらを使えば手軽に作れます。フールは家庭の気軽なデザート。焼き菓子は計量しないとうまく膨らまなかったりしますが、フールは自分好みに作っても大丈夫。フルーツに砂糖を好きなだけ振りかけて、とろりとするくらいまで火にかけてソースを作ったら、生クリームやヨーグルトと混ぜて、完成です。今回ご紹介するレシピを基本に、他のフルーツでも気軽に作ってみてくださいね。

では、水切りヨーグルトを使った、さっぱりとしたグーズベリー・フールを作っていきましょう!

グーズベリー・フールの作り方

グーズベリー・フール
涼やかなグラス仕立てで。
材料(約6~8人分)
  • グーズベリー 250g
  • グラニュー糖 50g
  • 生クリーム 100g
  • ヨーグルト 225g

*ルバーブで作る場合は、ルバーブ500g(2cmくらいに刻んだもの)に、グラニュー糖50g。

作り方
  1. ヨーグルトを水切りする(少なくとも1時間は置いておく)。
    大きめのボウルにザルを置き、ザルにキッチンペーパーを二重で敷く。その上にヨーグルトを置き、ラップをして冷蔵庫に入れておくだけ。ボウルに水がたまっていればOK。
  2. グーズベリーをよく洗って水を切り、実の上下についているヘタをナイフで切り取る。
    *イチゴのヘタをナイフで取る要領です。気が遠くなる作業ですが、がんばりましょう!
  3. グーズベリーを鍋に入れ、砂糖を入れる。全体にまぶしたら火にかける。
    グツグツしてきたら弱火にし、実が煮崩れて来るくらいまで火を入れる。
  4. このくらい、とろっとしたら、火から下ろして冷ましておく。
  5. グーズベリーが冷めたら、あとは生クリームを泡立て、水切りヨーグルトを混ぜるだけ。
    生クリームをホイッパーからとろりと垂れるくらい柔らかめに泡立てる(7分立て)。そこにヨーグルトを入れ混ぜていくと固くなるので、9分立てくらいの感じになるまで混ぜる。
  6. 煮たグーズベリー全量の2/3ほどを、生クリームと混ぜる。マーブル状になるくらいのざっくりとした混ぜ方でよい。
  7. お好きなグラスやお皿に盛り付け、残しておいたグーズベリーのコンポートを乗せて完成。
    *ここでは、写真のために生のグーズベリーを飾りに使っていますが、とても酸っぱくて食べられませんのでご注意を(よく熟した実なら生食できます)。

このレシピは、グーズベリーの酸味が効いているので、もっと甘みが欲しい場合は、粉糖を上からかけたり、蜂蜜をかけたりしてもよいでしょう。大きなボウルに混ぜたまま出して、みんなで好きなだけそこからお皿に盛っていただくと、よりイギリスらしいですよ。フルーツのピューレをたくさん作って余ったら、ヨーグルトやバニラアイスにかけていただくのもおすすめです。

Credit

写真&文/The Pudding Party Tomo
イギリスのプディングの美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと活動する、イギリス菓子研究家、パティシエ。ル・コルドン・ブルー横浜校にて菓子ディプロムを取得。英国コッツウォルズのスリーウェイズ・ハウス・ホテルにてイギリス伝統菓子作りの腕を磨く。
〈The Pudding Party Tomoとイギリス菓子作り〉

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