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田んぼの雑草と、ホタル

  • 2021.7.18
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農薬や除草剤、化学肥料を使わずに酒米・山田錦を育てる農家酒屋「SakeBase」の田んぼは、今、稲の成長とともに、雑草たちも伸びざかり。この時期の雑草取りは重労働ですが、自然環境を重視した米作りをしてきているからこそ、ホタルの数も2年前より増えてきました。

田んぼの雑草と、ホタル

■雑草の生える田んぼ、生えない田んぼ

□米作り2年生の今年は、抑草の方法を研究中

今年は千葉市緑区の土気(とけ)地域で、離れた2ヶ所の田んぼで山田錦を栽培しているSaekBase。そのどちらも無農薬、無肥料栽培だが、それは単に「安心安全な原料を」というだけではない。「この土気の土、水、空気を、純粋に米に表現したいという気持ちが大きいです」とSaekBase代表の宍戸涼太郎さんは話す。農薬や肥料など人為的な要素を入れてしまうと、「土地の色をストレートに伝える米」という目的から離れる、と考えているのだ。

そして、環境を保全しながら農業をおこなうことで里山の風景を守り、後世に伝えていきたい。「自転車にたとえれば、おいしい酒米を作るのが車の前輪だとすれば、環境保全は後輪。どちらも大切に、持続可能な農業を考えています」と宍戸さん。その実現のために、梅雨どきの今、田んぼでは毎日雑草と格闘中だ(撮影は6月30日)。

田んぼ
田んぼ
田んぼ
田んぼ
田んぼ
田んぼ

慣行農業(一般的な農業)では、「この時期は田んぼに水をきる(水を入れないように操作する)ほうがしっかり根を張るのでよい」とされているという。除草剤を撒けば雑草の発生を抑えられるが、除草剤を使わない自然農法では、水をきれば雑草は伸び放題。田んぼを担当する宍戸さんと石井叡(あきら)さんはともに24歳だが、常に腰を曲げての草取りは、若者にとっても大変な重労働だ。

「痛い目に遭っています(笑)。根の成長(水をきる)と抑草(水を入れる)のどちらを優先するかということですが、自然栽培なら水を張ったほうがいい、と今年両方やって確信しました」。また、深水にする(稲が深く浸るまで水を入れる)と、一般には倒れやすいとされるが、抑草効果はより強くなるので、深水も試している。本格栽培はまだ2年目、毎日が勉強であり、経験値が来年への蓄積になる。

宍戸さん
宍戸さん
田んぼ
田んぼ

田んぼの一部に、ぶくぶく泡が立っている場所がある。「アカガエルのおたまじゃくしです。おたまじゃくしがいると、土が動いて水が濁るから雑草も生えません」。自然の循環が進んでいけば、生き物が抑草になったり、水草が抑草になったりもする。

ここ土気小山町の田んぼはもともと耕作放棄地で水路も整備されていなかったため、水を汲み上げる装置を入れても水が入っていかない田んぼもある。「どうしたらいいかわからず、目下の課題です」と言うが、前例のない道を自分たちの足で毎年、歩を進めていくのだろう。

「7月中旬になると、稲妻がくる。雷の季節は『田んぼに入っちゃいけない時期』と言われています」と宍戸さん。草取りも、7月はじめまでが勝負だ。

風景
風景
風景
風景

田んぼに夕闇が迫ってきた。6月末は一年でもっとも日が長い時期なので、日が沈んだのは19時近く。と、一番奥まった場所にある田んぼの上を、ホタルが舞い始めた。ここに1匹、あちらに2匹、もっと奥の林のほうには無数のホタルが。

「ホタルの幼虫の餌となるカワニナが、去年より田んぼに増えてきたので、期待していました。ここは政令指定都市の千葉市なのに、こんなにホタルが舞うんですよ~」。私も、人生でこんなにたくさんのホタルを一度に見たのは初めてだ。静寂のなか、ホタルたちのひそやかな舞いは実に幻想的である。

「田んぼによる環境保全をより進めて、来年はもっとホタルを増やすようがんばります。将来は、ホタルを見ながらお酒が飲めるようなスペースも設けたい」と宍戸さん。

他に圃場を広げても、農家酒屋SakeBaseの原点であるここ土気小山町の田んぼはずっと守り、残していく決意だ。

田んぼとホタル
田んぼとホタル

◇店舗情報

「SakeBase」
【住所】千葉県千葉市稲毛区緑町1-22-10
【電話番号】04-3356-5217
【営業時間】12:00~20:00
【定休日】月曜
【アクセス】JR総武線「西千葉駅」南口より6分


写真:山本尚明 文:里見美香(dancyu編集部)

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