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「自分たちの頃は育児なんかで休まなかった」とのたまう上司の前で取るべき"ある態度"

  • 2021.7.11
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ここ数年、大きな注目を浴びていた男性の育休問題。いち早い法整備を求める声があった一方で、「すでに会社に制度はあるが、利用しにくい」と感じる人も多いと聞きます。男性の育休をめぐる最近の動きや、制度を使うことによって社会がどう変わるのかを、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏が解説します――。

生まれたばかりの息子を愛情たっぷりに抱く父親
※写真はイメージです
社員の妻の妊娠報告には「育休取得の意向」確認が必要になる

制度があるなら、男性も育休を使ったほうがいい。そう思う読者もきっと多いでしょう。ですが、その裏に男性の育休取得を阻害する動きがあることをご存じでしょうか。厚労省によると、過去5年間に勤務先で育児に関わる制度を利用しようとした男性500人のうち、26.2%がハラスメントを受けた経験があると答えたそうです。受けたハラスメントの内容としては、「上司による、制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」が53.4%、「同僚による、繰り返しまたは継続的に制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」が33.6%。ハラスメント経験者のうち、半数近くの42.7%が育休の取得を諦めたと回答しています。

また、このようなハラスメントを行う職場の特徴として、「男女問わず育児休業を取得後、復職せず退職する傾向がある」「男性の育児参画に否定的な人が多い」などの声も上がりました(「職場のハラスメントに関する実態調査について」令和2年度報告書より)。

2021年6月3日、私が約4年にわたってロビイングしてきた「出生時育児休業(男性版産休)」が衆議院本会議で可決し、成立しました。これによって、男性も子どもの出生後8週間以内に、育児のため最大4週間の休業を取得することができるようになります。

さらに、法案が成立したことによって企業側に通知義務が発生するようになりました。これは、社員が「妻が妊娠した」と報告したら、企業は男性も育休が取れることを通知し、取得の意向があるかどうかを確認しなければならなくなったということで、歴史的な出来事だと思います。

「父親」という言葉には「家事育児」というタグがなかった

もっとも、大手を中心にすでに男性の育休を整備している企業もあります。なぜあえて法律で義務化しなくてはならなかったか。その理由を、これまで私が行ってきた活動を基に説明します。

私は2010年4月から、「厚労省イクメンプロジェクト」の委員、座長を務めてきました。最初に手をつけたのは、「家事や育児にコミットする父親」という新しい概念を作ること。今聞くとこの言葉に違和感を覚える人もいるかもしれませんが、当時は家事や育児に男性がコミットしない状況が当たり前だったのです。長らくこの日本社会において、父親という言葉には家事育児というタグがついていませんでした。そこで「イクメン」という新しいフレーズを広めて、この概念を世の中に浸透させようと思いました。

皆さんもご存じの通り、イクメンという言葉の認知度は上がり、2010年末には「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンにも選ばれました。そこで一つの指標として男性の育休取得率を上げ、子どもが生まれた瞬間からコミットする父親を増やそうと考えたわけですが、これがなかなかうまくいかなかったのです。

「啓発」だけでは男性の育休は増えない

イクメンプロジェクトが発足した2010年の男性育休取得率は1.38%。その後も横ばいを続け、2017年にようやく5%を超えた程度。一方で、3歳未満の子どもを持つ20~40歳代の男性正社員のうち、「育児休業を利用したかったが、できなかった人」の割合は約35%もいることが分かりました(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査」)。

※編集部註:初出時、「育児休業を利用したかったが、できなかった人」の割合について、数字に誤りがありましたので訂正しました(7月12日11時00分)。

育児休業取得率の推移

なぜ男性は育休を取れないのでしょうか。当初は金銭的な問題もあるかもしれないと考えましたが、育児休業給付金の額が上がっても取得率は上がりませんでした。そこでさらに理由を深掘りしたところ、「職場で休みを取れる雰囲気ではない」「上司がいい顔をしない」という声が聞こえてきました。

このような育休を取ろうとする男性社員に対する嫌がらせを、父性を意味するパタニティとハラスメントをかけて「パタハラ」と呼びます。パタハラをなくし、職場の空気を変えるために「イクボス」という言葉を用いて、部下の育児に理解を示すボスを増やそうという運動も行いました。しかし、それでも全く増えません。

そんな中、2017年に行われたイクメンプロジェクトの会合で、委員のおちまさとさんが発した、「全く結果が出ていない。何年やってるんですか」という一言が、私たちの心を大きく動かしました。

「目標に到達していないのに、なんでまだプロジェクトを続けられるんですか? 全然成果を出していないのに。僕がやっている民間の仕事は、与えられた期間に売り上げを伸ばしたり知名度を高めたりしなければならないし、実際に出しています。でも、プロジェクトを7年やっても育休の取得率は全く上がっていませんよね。この結果はサムいですよ」

厚労省の人がいる前でこうはっきり言われました。その場は一瞬凍りつきましたが、まさにおちさんの言う通り。7年がんばって啓発をし続けて、このザマかと思い知らされました。力が足りなかったなと思いました。啓発だけではダメだったんです。あとはもう義務化するしかない。こうして、男性育休義務化プロジェクトとして、私と『男性の育休』の共著者であるワーク・ライフバランス代表の小室淑恵さんとみらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さん、ファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんの4人で、約4年かけて法案通過を働きかけ、ようやく来年から実行されることになったわけです。

子育て世代の男性の2〜3割が育休を取れば、社会は転換する

実はこれまで、育休という制度が会社にあるにもかかわらず、「隠れ育休」という形で有給を使っていた男性も多かったようです。ですが、育休は本来、会社が認める、認めないというものではありません。本来は労働者が取りたいと言ったらそれを拒む権利はないのです。でも、いまだに会社にお伺いを立てて「会社の迷惑にならないように」という誤った信念が形成されている。

おそらく大多数の人は、「うちの会社は男性が育休を取るような会社ではないから」と言われてしまえば、素直にしたがって、「せめて有給で」と考えてしまう。しかし有給を使って実質育休を取るというのは、企業側の逃げ道になってしまっています。制度があるなら、堂々と育休を使うべきなのです。

義務化された後も、しばらくは取りづらい雰囲気があると感じるかもしれません。でも、ある一定の数まで男性育休取得率が上がれば、今度は逆の同調圧力が働くはず。つまり、「男性も育休を取るのが普通」になるのです。権利を持つ人の2〜3割でも育休を取れば、大きく社会は転換すると思います。

権利行使なくして道は創れない 動き出せ男性育休世代

「自分たちの頃は、育児なんかで休まなかった」。そんな発言をする人も、きっといることでしょう。でも、そんなのは無視して休めばいいのです。凝り固まった考え方をする人たちに対して動くのではなく、男性育休を推進しようとする人と連携するほうが、結果的に会社のためにもなるのではないでしょうか。

権利行使なくして道は創れません。そもそも、有給も、8時間勤務も、土日が休みになったのも、全て労働者が戦って勝ち取ってきた結果ということを思い出してください。これらは最初から当たり前ではなかったのです。今から育休を取る世代が、男性育休第一世代。この世代が動けば、次の世代につながります。

子育て世代の部下を持つ管理職は、新しい社会を作る人たちに最後のバトンを渡せる立場にあるということを認識してください。部下にこんな制度があると教え、背中を押してあげること。それによってバトンを受け取った人が最後に走り出せるのです。

構成=樋口可奈子

駒崎 弘樹(こまざき・ひろき)
フローレンス代表理事
1979年、東京都生まれ。99年慶應義塾大学総合政策学部入学。同大学卒業後、NPO法人「フローレンス」を起業し、代表理事に就任する。10年待機児童問題を解決するため、小規模保育サービス「おうち保育園」を開園。『「社会を変える」を仕事にする社会起業家という生き方』(英治出版)、『働き方革命』(ちくま新書)など著書は多数ある。

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