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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.32 花を贈りたい人

  • 2021.7.9
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クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.31 人付き合いの心得

vol.32 花を贈りたい人

私の母は家に花を飾ると良いよ、と口癖のように言う人だ。お母さんのお母さんは家業でいつも忙しくしていて、家の中のことが疎かになってしまうこともしばしばだったらしい。お金がないと算盤を弾く後ろ姿を見ていたので、どうしてすぐに枯れる花を買って来るの?と幼き日の母が尋ねると、花貧乏!とお母さんのお母さんは自分で言ったことに自分でカカカと笑い、こう説明してくれたのだそうだ。

「疲れて帰って来て、どさっと食卓に座って、もう何もしたくないって思うのよ。そんな気持ちで、食卓の花をしばらく見つめていると、何だかホッとして、よし洗濯物たたみましょうか、さぁご飯の支度をしましょうかって。花は暮らしをつづけていく力をくれるの。」

このエピソードは母にとってとても大事なものであるらしく、事あるごとに話して聞かせてくれた。その教えのせいか、私は年に数回、人に会う前少し時間に余裕があったりするとその街の花屋さんで小さなブーケを買い求めたりすることがある。オーダーを聞かれても、派手とか豪華じゃない…素朴で味のある感じ…と毎度ふわっとしたことしか伝えられないのだけれど。店員さんと一緒に花を選び、ラッピングしてもらっているのを待っている間、誰かをちゃんと想える、今この瞬間のこの幸福を味わうために人は人に花を送るのかもしれないな、と一人感じ入ったりしてしまう。

だって生きていると、雨の日も風の日も嵐の日だってあるから。自分のことに精一杯で、誰かを想う余裕がない時だってある。いつも穏やかな訳じゃない自分の心模様と人生の予想外をちゃんと知っている。だから、会いたい人に会えて、これからその人と美味しい時間を過ごす予感に大人気なくちょっとはしゃいでしまう。花束をプレゼントしようと思いついたら、買えるだけのお金がちゃんと自分のお財布の中にあることが、また嬉しい。

私は人に花束をプレゼントするのも、人にプレゼントしてもらうのも好きで。自宅リビングには大切な日に貰った花束をドライフラワーにして飾っているのだけど、中々これが良い感じで気に入っている。もし、心ばかりの何かを贈る機会があって、どうしようと悩むことがあったら、花を贈ってみるのもたまには良いかもしれない。

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