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不倫ドラマに変化の兆し――被害者視点の「復讐ストーリー」が増えたワケ

  • 2021.7.7
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『失楽園』や『昼顔』など、不倫におぼれる男女を描いた作品が多かった印象の「不倫ドラマ」。しかし2021年夏ドラマでは、不倫された側の視点の作品が多いのが特徴です。こうした変化の理由とは? ライターの苫とり子さんが解説します。

同じ東京でもガラリと変わる春・夏ドラマ

惜しまれつつも完結を迎えた2021年の春ドラマ。

川口春奈さん、横浜流星さんらが演じる性格も価値観もバラバラな男女が、東京・表参道のシェアハウスを拠点に恋愛や人生と向き合う姿を描いた『着飾る恋には理由があって』(TBSテレビ系)。

こちらも東京都心を舞台に、松たか子さん演じる主人公と3人の元夫が繰り広げる大人のラブストーリー『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ系)。

さらに、松坂桃李さん演じる愛すべきポンコツキャラの主人公と、麻生久美子さんと井浦新さんがふたり一役で演じたヒロインによる“入れ替わり”ラブコメディー『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)など、どれも見終わった後に思わずロスに陥ってしまうほど幸せな気分に浸れる恋愛ドラマが豊富でした。

そして、ドロドロした展開がほとんど見られず、リアリティーを追求した日常的な風景が映し出されていたのも大きな特徴。

毎回、視聴者の関心を集める「不倫ドラマ」。しかし時代とともに描かれ方にも変化が――(画像:写真AC)

しかし、2021年夏にスタートする新ドラマのラインナップを見てみると、特に深夜枠で「不倫」「セックスレス」といった不穏なワードが並ぶ恋愛ドラマ(?)が放送されることが分かります。

ウェブコミックから人気に火がついた

ひとつの傾向として挙げられるのは、スマートフォンの広告によく見られるウェブコミックを原作とした実写化が活発化していること。

いち早く2021年6月2日(水)から放送が開始したドラマParavi『にぶんのいち夫婦』も累計発行部数150万部を超える同名コミック(原作・夏川ゆきの、漫画・黒沢明世)を連続ドラマ化したものです。

主人公は平穏で幸せな日々を送っていた結婚2年目の妻・中山文(比嘉愛未さん)。しかし、ある日優しくて自慢の夫・和真(竹財輝之助さん)の不倫疑惑が浮上するところから物語は始まります。

ドラマParavi『にぶんのいち夫婦』では、自慢の夫に不倫疑惑が(画像:写真AC)

“サレ妻”(不倫をされた妻)の悲しみや怒りが胸に迫る作品ですが、誰の目にもいい夫として映る和真の抱えた秘密が少しずつ明らかとなっていくサスペンスのような展開も。

一方で、7月13日(日)にスタートするMBS・TBSドラマイズム枠のドラマ『サレタガワのブルー』は、『にぶんのいち夫婦』よりもコミカルです。

原作は集英社の女性向けマンガアプリ「マンガMee」で連載され、同アプリの総合ランキングで常に上位を獲得。「読んだら必ず不倫したく“なくなる”マンガ」と話題の、セモトちかさんによる同名漫画です。

『失楽園』『昼顔』から『サレタガワのブルー』へ

犬飼貴丈さんと元乃木坂46の堀未央奈さんのダブル主演で、幸せな結婚生活を送っていたはずの主人公・田川暢(たがわのぶる)が不倫した妻・藍子に復讐を決意する、不倫“サレタガワ”の悲劇をエンターテイメントとして描く本作。

放送はまだこれからですが、トップアイドルの堀さんが演じる清々しいほどの“悪女”に期待が寄せられています。

上記ふたつは近年、WEBコミックで読者の視線を集めている「不倫」や「セックスレス」をテーマにした勧善懲悪の物語です。

その中でも異彩を放っているのが、7月7日(水)に放送開始となる本田優貴さん原作の『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系)。

本作は「不倫」「セックスレス」になんと「殺人」が加わり、北山宏光さん(Kis-My-Ft2)演じる正隆と、中村ゆりさん演じる雪映の柿野夫婦に最悪な事態が降りかかります。

ただの不倫ものではなく、夫婦が追い詰められていく展開からひと時も目が離せません。

不倫をする側の視点から、不倫された側の視点へと変化したドラマ(画像:写真AC)

これまでドラマや映画で放送されてきた不倫ものは、2014年放送の『昼顔』(フジテレビ系)や2017年放送の『あなたのことはそれほど』(TBS系)をはじめ、不倫“スル”側の視点から描かれた作品が目立っていました。

さらにさかのぼれば、1997(平成9)年に映画化・ドラマ化された『失楽園』は同年のユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞にまで選ばれています。

日本の離婚率は35%超、東京は27%超

しかし、2021年夏に放送されるのは『サレタガワのブルー』というタイトルに描かれている通り、どの作品にも不倫“サレタ”側の視点が入ります。

また、以前は不倫を甘美なものとして描く作品が多くあったのに対して、近年では“シタ”側に制裁が与えられるラストが一般的となってきました。

厚生労働省が発表した2018年の人口動態調査によると、日本の離婚率(その年の離婚件数を同年の婚姻件数で割った数値)は35%超。東京都は47都道府県の中で最も離婚率が低く、27.45%ですが、それでも約4組に1組は離婚している計算になります。

「3組に1組が離婚する」と言われる日本。その要因には不倫も挙がる(画像:写真AC)

そして、離婚の一要因としてよく挙げられるのが「性の不一致」と「不倫」。誰にでも起こりうる悲劇だからこそ、それらをテーマにした作品は毎回注目されるのでしょう。

また、単純に「好きな俳優の下衆(げす)な表情や演技を見てみたい!」という視聴者の欲もこれらの作品は満たしてくれます。

2017年に放送された鈴木おさむさん脚本の『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)で水野美紀さんの怪演ぶりが衝撃を与えて以降、『あなたの番です』(日本テレビ系)では木村多江さんや奈緒さん、『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)では田中みな美さんが振り切った演技を見せて、話題となりました。

ストーリーの展開にはイライラさせられながらも笑っちゃうほどの悪役ぶりで、最後にはなぜか人気キャラクターとして視聴者の記憶に残る彼ら。今期のドラマからも、愛すべき“ゲスキャラ”が生まれるかもしれません。

ドラマは「あくまでエンタメ」として

近年、有名人の不倫報道があるとSNSなどでは強烈な批判の声が寄せられます。こうしたことからも、不倫に対する視聴者の目線は厳しいものになっているのでしょう。

ドラマの世界にかぎっては、ひとつのエンターテインメントとしてドロドロの展開を楽しんではいかがでしょうか。

苫とり子(フリーライター)

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