1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 水面に浮かぶ「梶の葉」一葉。

水面に浮かぶ「梶の葉」一葉。

  • 2021.7.2
出典 andpremium.jp

四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。

出典 andpremium.jp

水面に浮かぶ「梶の葉」一葉。

五節句のひとつ七夕は、旧暦の行事として8月に行われるのが京都の主流。伝統的な宮中行事を今に伝える冷泉家で七夕に開かれるのは、乞巧奠(きっこうてん)と呼ばれる行事だ。そもそも乞巧奠は牽牛と織女の星へ裁縫技芸の上達を願った中国の行事で、奈良時代に日本へと伝わり宮中から広まったもの。冷泉家では今も2つの星に供え物をし、蹴鞠や雅楽、和歌の朗詠を行う。墨で願いごとをしたためた梶の葉を、星を映すため角盥(つのだらい)に張った水に浮かべ、供え物や飾りには陰陽五行説に基づいた青・赤・黄・白・黒の五色を使うのがしきたりだ。

〈みたて〉が七夕に提案するのも、ポピュラーな笹の葉に短冊を付ける飾りではなく、梶の葉を使ったシンプルな飾りだ。陶芸家・清水善行の須恵器に水を張り、梶の葉をそっと浮かべる。梶の緑は、水で深みを増した焼き〆の色によってより一層際立つ。願いごとは葉に書かず、心の中でそっと祈るという。あしらうのは五色の和紙。〈みたて〉では草木で五色に染めた布を掛け、その前に器を飾るという趣向を凝らすこともある。窓辺に置けば水面がゆらゆらと風で揺れ、目にもまた涼を運んでくれる七夕飾り。

かつては七夕の前日に梶の葉売りが「かじ〜かじ〜」と売り歩いたという京都。今その役割を担うのは〈みたて〉だ。日々の器に梶の葉を一枚浮かべるだけでも、たちまち生まれる七夕の景色を手に入れたい。

photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2015年8月号より。

花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.2

花屋 みたて

和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。

元記事で読む
の記事をもっとみる