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香港の自由が失われて1年がたった!

  • 2021.7.1

香港の民主化運動の象徴だった「リンゴ日報」が、2021年6月24日に廃刊になった。アメリカのバイデン大統領は同日、リンゴ日報の廃刊を受けて、「香港と世界中の報道の自由にとって悲しい日だ」と声明を発表した。

23日には中国担当の主筆が香港国家安全維持法(国安法)の疑いで逮捕されていた。また、英語版の執行編集長が27日、英国に向けて出国しようとした際に当局に連行され、逮捕された。中国共産党に批判的だった同紙では、創業者の黎智英氏も国安法違反の罪ですでに起訴され、収監されている。香港の言論の自由が失われつつある今、本書『生証言 香港弾圧の恐ろしい真実』(宝島社)を読み、そこで書かれていたことが現実になったことを痛感した。

香港国家安全維持法は昨年6月30日に施行された。それ以降、香港人は不当な沈黙を強いられている。中国共産党を批判した場合、彼らには逮捕が待っているからだ。

本書の刊行は昨年(2020年)11月。少し日がたっているが、改めて読み、一国二制度が消滅し、中国に呑み込まれてしまった香港を実感した。

本書の構成を少し抜粋して紹介する。

第1章 戦う人々 周庭(アグネス・チョウ) ある香港人プロテスターの闘いの軌跡 「私はファイターだ」 リンゴ日報創業者、黎智英がへこたれない理由 第2章 生証言! 香港弾圧 教育界への圧力、これから始まる愛国的洗脳教育 「日本人記者」逮捕事件とマスコミ弾圧 近鉄なんば駅前 五星紅旗乱舞事件 第3章 香港国家安全維持法と香港のこれから

保釈されたが無言の周庭氏

ノンフィクションライターの小川善照氏の筆で、「民主の女神」と言われた周庭氏の来歴や活動が詳しく書かれている。国安法が施行された昨年6月30日、彼女はツイッターでこう宣言した。

「私、周庭は、本日をもって、政治団体デモシストから脱退致します。これは重く、しかし、もう避けることができない決定です。 絶望の中にあっても、いつもお互いのことを想い、私たちはもっと強く生きなければなりません。 生きてさえいれば、希望があります。 周庭 2020年6月30日」

しかし、彼女は8月10日に逮捕された。いったん保釈されたが、その後、政府に抗議する未許可デモを組織するなどした罪で逮捕され、禁錮10カ月の実刑判決を受けた。今年6月12日に刑期を終えて釈放されたが、言葉なく立ち去った。彼女がそうせざるを得ないところに、国安法の恐ろしさがある。

第3章でフリーライターの伯川星矢氏が国安法を詳しく解説している。あいまいな内容と厳しすぎる懲罰。さらに、地理的概念と国際交流を超越した「宇宙法律」だと揶揄している。法律の適用範囲について、多くの国が属地主義を採用している。内外国人問わず、国内で法を犯した場合、その国の法律で裁かれる。だが香港の国安法は香港の居住権を持つ住民のみではなく、香港外に住む香港人や、香港居住権を持たない外国人にも適用可能としているからだ。

「理論的に、海外に亡命した民主活動家や、香港に対して制裁案を制定した外国官僚、さらに海外で活動している団体や実態のない政治勢力まで本法律の適用が可能になってしまう」

外国人が香港に関わらないように牽制するために外国人を適用の範囲にしたのでは、という見方を紹介している。だが、本書を読み、中国政府に批判的な感想をSNSに書き込むことも処罰の対象になるから、油断はできない。

本書では、国安法が警察に国家安全維持部門を設置し、国家安全にかかわる調査に対して絶大な権力を与えた、と書いている。そして、強力になった牙は、国安法施行1年を前に、「リンゴ日報」になりふり構わず弾圧を加えたのだ。

香港メディアによると、警察を統括する保安局は香港の銀行7行に対し、リンゴ日報の「凍結した資産を動かしたり、融資したりすることは許さない」と指示。さらに、「いかなる者もリンゴ日報を支援する行為は国安法に触れ、国の安全に危害を与える行為とみなされる恐れがある」と警告したという。

BOOKウォッチでは、香港についてさまざまな本を紹介してきた。それは中国とは違う独自の歴史と文化を持ち、「香港人」の矜持を持つ人々が存在したからだ。7月1日に、中国共産党は結党100周年を迎える。今回の香港での言論弾圧は、その露払いの意図があるのかもしれない。

香港を愛し、何度か訪ねたこともある評者だが、国安法がある限り、香港をふたたび訪れることは出来ないと思った。この文章そのものが国安法にひっかかる恐れがあるからだ。無署名だが、本気になれば中国当局にとって評者の名前を割り出すのは朝飯前だろう。

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