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嵐、米津玄師、でんぱ組……コロナ禍ライブで成功したアーティストに共通する「新たな試み」とは?

  • 2021.6.29

2020年以降の新型コロナ禍で急拡大した「オンラインライブ」。有観客イベントの代替策として捉えられがちですが、実は全く異なる新たな魅力を創造していると、音楽ライターの村上麗奈さんは指摘します。嵐や米津玄師、でんぱ組.incなどのアーティストたちが切り開いた新たな地平とは――?

コロナ禍で都内ライブハウスが次々閉館

新型コロナウイルスが流行しはじめてから丸1年以上。緊急事態宣言の発令と解除が何度も繰り返され、音楽ライブなどのイベントは以前ほど自由に開催できない状況が続いています。

有観客での音楽ライブは、コロナ禍で中止を余儀なくされた(画像:pixabay)

リスナーとアーティストが直接音楽を通して交流をする機会が減ってしまっていますが、影響はもちろんそれだけではありません。ライブを開催する場所も影響を受け続けています。

東京都内だけでも、代官山LOOP、六本木VARIT、下北沢GARDEN、Zher the ZOO YOYOGIなど、多くのライブハウスが閉店に追い込まれました。

従来のように観客を入れた状態でのライブが開催しにくくなった中、異なる方法でイベントを行おうと多くのアーティストが開催しているのが、配信でのライブです。

ZAIKOやツイキャス、YouTubeなどのプラットフォームを使った配信でのライブは、この1年と少しですっかりスタンダードな活動のひとつになりました。

コロナウイルスの流行とともにその知名度を広げたオンラインライブ。「有観客ライブができない中での苦肉策」といったように、コロナとひも付けネガティブな文脈で語られることが多い配信ですが、この期間のライブを見ると、それが決して単なる代替案ではないことがわかります。

単なる代替策ではないオンラインの魅力

新しいさまざまな技術を使うことで、配信は配信ならではの魅力を持つようになりました。それは、コロナの影響で公演数が増加したことにより、配信上で工夫を凝らす必要に駆られたというだけが理由ではありません。

動画の時代をもたらすとされる5Gの登場もあり、配信に利用できる技術は着々と発展しています。現在の配信ライブの増加は、それを試す期間になっているとも言えるのです。

2020年8月にサカナクションが行った配信ライブ「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」。観客がいないからこそ可能な大胆な照明や通常のライブ形式にとらわれない「ライブミュージックビデオ」としての映像の作り方で話題になりました。

サカナクション山口一郎さん。2021年1月にはウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で自身のバンド論について語った(画像:ほぼ日)

それだけでなく、このライブでは3Dサウンドシステムが日本で初めて導入され、配信ライブで問題点とされることもあった音質面でのデメリットを解消しました。

毎年夏に国営ひたち海浜公園で開催されている国内最大級のフェス、ROCK IN JAPAN FESTIVALは、2020年はJAPAN ONLINE FESTIVALと名を変えオンラインで開催されました。

CGや巨大スクリーンを効果的に利用した配信ならではの視覚的な迫力のあるフェスになり、オンラインでの音楽イベントの開催を一般層まで浸透させるきっかけになったように感じられます。

嵐、米津、VTuberが実践した新機軸

でんぱ組.incの初の配信ライブ「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」では、SNS上のコメントをリアルタイムで配信上の画面に反映し、楽曲の演出とする計らいがありました。

嵐の「This is 嵐 LIVE 2020.12.31」やVTuberヒメヒナによる「HIMEHINA LIVE 2021『藍の華』」は事前に歓声などを募集し、それを当日に流すなど、目の前にいないファンとのコミュニケーションのはかり方も模索されました。

このように、SNSの拡散力やそれを反映する技術を使って、ファンとのやりとりがライブの中で可視化されるようになりました。

2021年1月に開催され、ヒメヒナも参加した「VTuber Fes Japan 2021」(画像:ドワンゴ)

配信ならではの技術を利用した演出はそれだけではありません。ライブ会場を架空の場に作り上げてしまうというオンラインならではの挑戦もありました。

米津玄師がオンラインゲーム「フォートナイト」内で行ったバーチャルライブがその筆頭でしょう。オーディエンスはアバターとして架空の会場に入ることができ、バーチャルライブを画面内の客席から鑑賞することができます。

実際のライブのような空間を架空の世界に作り上げ、新たなパフォーマンスの見せ方を提案しました。

バーチャルYouTuber、キズナアイは海外向けのバーチャルライブも行っています。米ロサンゼルスを模したバーチャル会場で、時間帯やMCの言語をアメリカに向けたU.S.Tourは大盛況のうちに幕を閉じました。

ポストコロナ時代の発展にも期待

会場ごと特定のアーティストのために一から作る発想は、リアルライブでのステージセットと似ています。

今では、仮想空間上でアバターを介しライブなどの視聴ができる「VARP」というバーチャルパークシステムも登場しています。いくつか、仮想空間の提供を行うコンテンツはありますが、その多くはスマートフォンなどの端末さえあれば利用することができる場合が多く、非常に手軽です。

バトルロイヤルゲーム「フォートナイト」内で開催された米津玄師さんの特別イベントの告知画像(画像:Epic Games)

バーチャルの流行はVTuberの活動や拡張現実(AR)技術の発展などにより、徐々に注目されつつありますが、コロナ禍の配信ライブによりその動きは加速されています。

今後、仮想空間の中でのエンタメがどのように展開されていくのか期待が高まります。

配信ライブは、リアルライブと異なる価値を提示しています。発展の原動力がコロナの流行でリアルライブが開催しにくいといったことであったせいで、ネガティブな印象と併せて語られがちですが、新たなエンタメの形としてコロナ禍以降も成長し続けていくのではないでしょうか。

村上麗奈(音楽ライター)

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