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中学受験、偏差値ではなく校風重視で選んだのに、周りから「残念」と言われて⋯⋯

  • 2021.6.28
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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

中学受験、偏差値ではなく校風重視で選んだのに、周りから「残念」と言われて⋯⋯の画像1
写真ACより

和歌子さん(仮名)というママから相談が舞い込んだのは、一昨年の梅雨の頃だった。一人娘の環奈さん(仮名)は中学受験で私立Y女子に入学したばかり。長く大変だった受験生活も終了し、和歌子さんもようやく一息つけると思っていた矢先、娘の異変に気が付いたという。

「環奈がどうも元気がなくて⋯⋯。『学校で何かあったのかな?』ってすごく心配したんですが、本人は『なんでもない』って言うばかりで。これがいわゆる反抗期ってものの始まりなんでしょうか?」

このように、「なんとなく我が子の元気がない」と見て取れるのに、子ども本人が「なんでもない」という場合、主に2つのケースが考えられる。

1つは「親に心配かけたくないという気持ちが働くケース」。思春期は親から独立したいと願う気持ちと、そうは言っても親の庇護下でなければ生きてはいけないという現実の狭間で悶々としているのが普通。「心配かけたくない=干渉されたくない」という気持ちも多分に働いて、何が原因で元気をなくしているのかを知らされるのは結局、親が一番最後(友だち、あるいは心を許せる先生の後)ということもよくある。

そして、もう1つが「自分でも言語化できないモヤモヤを抱えているケース」だ。本人も原因がはっきり掴めず、何となくモヤモヤしているということも意外と多いのだ。

後にわかったことだが、環奈さんのケースは下記のようなものだった。

環奈さんが通うY女子はいわゆる中堅校に属するが、受験日・偏差値の兼ね合いでトップ校の受け皿として重宝がられている学校でもある。環奈さんを含むクラスメートの大半は「残念組」ではあるものの、和歌子さんはY女子の校風を高く買っていた。娘の入学をとても喜んでいたし、「娘も同じ気持ち」であろうと信じて疑っていなかった。

そんなある日、環奈さんは地元公立中学に通っている元クラスメートの明菜さん(仮名)と、そのママに遭遇。そして、明菜ママが環奈さんに向かってこう言ったという。

「あら、環奈ちゃん、結局、Y女子に入ったの? あんなに頑張ってたのにね~」と。これに、明菜さんも続いた。

「環奈、ドンマイ! でも、その制服、似合ってるよ!」

話はこれだけだ。中3になった環奈さんの説明によると、当時は以下のような心境だったそうだ。

他人から「ドンマイ」と言われる学校に通い続けた結果⋯⋯

「Y女子は校風が気に入っていたので、合格はすごく嬉しかったんです。決して、意気消沈していた入学ではなかったはずなんです。両親も喜んでくれていましたし⋯⋯」

環奈さんの中学受験の志望順位としては、進学校であるM学園→中堅校のY女子。

「でも、気付いちゃったんですよ、自分の本心に⋯⋯。明菜母子にああ言われたことで、蓋をしていた自分の気持ちが表面に現れたんだと思うんです。『そっか、やっぱり、人から見たらY女子は残念で、“ドンマイ!”の学校なのか⋯⋯』って世評が目に見えちゃったって感じですかね⋯⋯。世間全体から、自分の学校も、自分も無価値だって言われたような錯覚を覚えました」

もちろん、明菜さん母子に悪気があったわけではなく、単純に「残念だったね。でも、Y女子で頑張ってね」という気持ちで言ったのだと思うとは環奈さんの弁だ。

「当時は母には言えなかったですね⋯⋯。決して裕福ではない中、無理して私立に行かせてくれているのは知っていましたし、ましてや自分で望んだはずの学校を今になって無価値に思ってるなんて、打ち明けられませんでした」

環奈さんの中1時代はこのことが影響して、いまひとつ学校に溶け込めない感じであったという。転機が訪れたのは中2の部活での対外試合だったそうだ。

「M学園との練習試合があったんです。そしたら、どういうわけか勝っちゃって⋯⋯。チームの皆で抱き合って泣いたんです。なんだろう? その時、『私はこの学校とこの仲間が好き!』って思えて、なんか吹っ切れちゃったっていうか⋯⋯」

中学受験は残酷なことに「高偏差値=価値がある」との刷り込みを受けやすいものだ。

「校風で選んだ!」と言い切る心の隙間に、刷り込まれてきた世評が時として顔を覗かせてしまうこともある。「自分はこの道で大丈夫!」と言えるきっかけはさまざまだが、環奈さんのように何かひとつ自信が芽生えると、負の記憶を乗り越えて強くなっていくんだなという思いを持っている。

環奈さんは現在、中学最終学年。キャプテンとして、チームメイトとともに秋の大会入賞を目標にしているところだそうだ。

鳥居りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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