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5月末に舞台復帰を果たしたミリアム・ウルド=ブラーム。この夏、世界バレエフェスティバルへの初参加が待たれる。

  • 2015.7.1
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昨年10月に新しい芸術監督バンジャマン・ミルピエを迎えたパリ・オペラ座バレエ団。彼の就任時に舞台復帰が間に合うようにと逆算したかのように、かなりの数の女性ダンサーたちが、ほぼ同時期に出産をした。そのベビーブームからは少々遅れてだが、エトワールダンサーのミリアム・ウルド=ブラームもママになった。そして、出産から6か月半たった後、オペラ座のコペンハーゲン・ツアーに参加し、『パキータ』にて舞台復帰を果たした。パリでは6月29日に始まった『リーズの結婚』で5公演を踊ることが予定され、出産以前の仕事のリズムをすっかり取り戻した様子だ。そして踊る意欲と喜びを抱えて、この夏、3年に一度開催されるバレエ界の祭典「世界バレエフェスティバル」に初参加のため来日する。

ブロンドヘアとブルーアイズが愛らしく、華奢なお人形といったイメージのミリアムだが、今や子どもの写真でスマートフォンが満杯! という幸せあふれるママさんバレリーナ。身体的にもハードで責任も大きな仕事を担いつつ、充実した家庭生活を営む彼女に、休業から現在至るまでを あれこれ話してもらった。

photo:Agathe Poupeney/Opéra national de Paris


◆体重25キロ増から、ほっそりバレリーナ体型へと。

ー 出産はいつでしたか?

「昨年の11月15日に出産しました。男の子です。で、その後2か月の出産休暇を消化するや、すぐに仕事復帰の準備を開始したのよ。体重が25キロも増えてしまって......これには少々怯えてしまいましたね。出産すればすぐに元通りの体型に戻れるものだと、思っていたのに、それがもう全然で! あらあら、仕事を再開するのにこれはどうしたものかしら? って。出産するまで1年の間、体を動かすことはまったくしていなかったんです。妊娠中、けっこう引きつりが激しかったので、大事をとるべく横になってることも多くって......。この期間、なんと長く感じられたことかしら! 他にすることがないので、インターネット・ショピングで子供部屋のインテリアをこの間にすっかり整えてしまったのよ(笑)。出産直後、バンジャマン(・ミルピエ芸術監督)から3月の『白鳥の湖』について打診があったけど、体重は戻ってないし、1年も踊ってなかったので、アラベスクすらできない。で、これは不可能。その時に、"5月末のコペンハーゲン・ツアーで『パキータ』を踊ります"って、彼に宣言をしたの」

― 復帰目標を自分で設定したのですね。

「はい。5月31日の『パキータ』の公演では、上手く復帰を果たせた、自分でも思える舞台となりました。この作品はオペラ座のレパートリーの中でも、テクニック的にも演技面でも盛りだくさんなので女性ダンターにとっては、けっこう大変なもののひとつなんですよ。だから、この公演に最高のコンディションで臨めるようにと、今年の1月半ばからオペラ座に戻って仕事を再開したのです。最初は身体面でのトレーナーの指導に従って腹筋など、軽いことから。そして産道出口の部分のリハビリがとても重要なので、これをきっちりとやりました。筋肉が落ちてしまっていて、パ・ド・ブーレすらできず......。ピルエットは一回転しただけで、体が痛い! となって。すっかり体が硬くなってしまっていたのでヨガをし、それから自転車こぎもすごくしましたね。背中に筋肉をつけて......と。ものすごい集中プログラムでした。でも、子供を欲したのは私なのですから、責任をもって復帰する必要があるでしょう。エトワールという立場でもあるのですから、言い訳なしの最高の状態で舞台に戻る必要があったの。オペラ座には身体機能向上のためのトレーナーがいるのが幸いですね。ダンスの面では以前から面倒を見てくれているダンサーのローラン・ノヴィスとレッスンをしました。パ・ド・ブーレ、アントルシャ・トロワ......など。身体の記憶はすぐに取り戻せるものだろうって考えていたのだけど、全然でしたね。何もできない! とわかった時は絶望的な気持ちになりました。でも、やるしかないでしょう。短期間、粘り強く、実に勤勉に5月31日に向けて励みました。でも、実はけっこう危うかったの。『パキータ』のリハーサルが始まった時に、リハーサルコーチが私の踊りを見て、「あららら......」と仰け反りそうになってしまったくらい。でも、ちゃんと仕事を続け、あるところを通過した時点で体が反応をし始めて、バイタリティも取り戻せ、みるみると進歩が見えてきました。だいたい出産後9か月くらいしてから舞台に立つのが普通ですけど、私は6か月半とかなり早い復帰となりました。休業中はいろいろ考えることもできて、体にも心にも良い時期だったけど、ダンスがとっても恋しかった。だから、こうして仕事を再開できたことは、とってもうれしいわ。復帰も休業と同様、体にも心にも良いことね」

(左)『泉 ラ・スルス』より。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris (右)『眠れる森の美女』より。photo:Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris


◆母となった幸せ。

― どの瞬間に母となった幸せを最も感じますか。

「4年くらい前から子供が欲しいと思っていたけど、なかなか恵まれず......。その間に他のダンサーたちが次々とママになるのを見るのは、とても辛いことでした。でも、今は幸せそのものよ。毎朝家を出るとき、子供と離れるのが寂しくもあるけど、満足でもあるの。彼には彼の世界があって、私には私の世界があるというのは大切なことだから。幸いなことに、経験も豊富で人間的にも魅力的な素晴らしいベビーシッターを見つけることができたんです。安心して息子を預けられる人が見つかるまでは、仕事には戻らない! って決めていたくらいで......17名の候補者の面接をし、最終的には人づてで紹介された女性に決めました。日中、彼はこのシッターさんとずっと過ごします。でも、彼の食事の準備は私よ! これは他人任せにはしたくないの。もともと料理好きということもあるけど、できる限り自分でするつもり。それに、食事といっても今のところは簡単よね。ピューレだから、野菜を蒸して、それに魚か肉を混ぜて......という感じで。私は働いているので子供に食べさせることはできないけど、少なくとも準備をすることで参加することはできるでしょう。仕事が早く終わったときは彼らと一緒に公園で遊んだり、おやつを食べたり......。帰宅して、彼の微笑みに迎えられる瞬間が最高ですね。1日の疲れがすっかり吹っ飛んでしまう。最近、ハイハイをするようになったところ。とっても、可愛いのよ。昨日、膝に抱いて哺乳瓶を与えていたら、彼、ミルクを飲みながら、脚を実におお〜きく開いたの。ダンスでいうところのグランテカール。世の中には発見するべきことが山ほどあって、決して彼にダンスを押し付けるつもりはないけれど、これを見たときは、おおっ! って、つい思ってしまいました(笑)」

― フランスでは日本に比べて、育児に積極的な男性が多いようです。

「私のパートナー? なに一つ手伝ってくれないわ!! というのはまったくの冗談。彼、とても私を助けてくれて、非の打ち所のないパパよ。私の姪や甥たちと彼が遊ぶのをみていて、これは素晴らしいパパになる人だわ、って思ったの。とても善良で思いやりに溢れている男性で、そんな彼だから私は子供が欲しいって思ったくらいなの。週末はベビーシッターがいないので、私が仕事があるときは、彼が1日中面倒をみてくれるのよ。そして、毎日、夜は彼が息子の担当なの。というのも、子供が泣いても、私は全然目が覚めないので......これってちょっと困ったことよね。で、朝のミルクは私の担当。早起きするのは問題ないの......といっても、今の私の夢は10時30分ごろまで、ゆっくり朝寝をすることだわ。でも、それって夢のまた夢ね。日曜だって仕事がなくても、子供は目覚めるのだから。私より先に子供を持ったダンサーにこの夢を話したら、"もう朝寝坊なんてお終いだよ"って言われてしまって......」

(左)『アーティファクト』より。photo:Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris(右)『感覚の解剖学』より。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris


◆ダンスへの意欲。

― あなたの休業中に20年近く就任していたブリジット・ルフェーヴルが辞め、芸術監督がバンジャマン・ミルピエに変わりました。どのように変化を感じましたか。

「彼が就任したのは2014年10月で、私がオペラ座に戻ったのはその4か月後です。監督が代わり、スタッフも新しくなって......以前あった重苦しい面がなくなって、新しい空気が感じられました。以前がどうこうというのではないけれど、全員に一種の倦怠感のようなものがあったとは思うの。そこに、新しい息吹、活力が吹き込まれたって感じ。今、いろいろと建物内にも変化が生じています。小分けのリハーサルスタジオを改装したり、マッサージ室ができたりと......。バスチーユに託児所を作るという案もあるらしいけど、これはダンスに関わる優先事項が終わってからのことなので、ずっと先でしょうね。あったら、とても便利だわ」

― 2015年9月からの新しいシーズンは、ミルピエ新監督による初プログラムですね。

「私にとって、これ以上は望めないほどの素晴らしいシーズンよ。『ラ・バヤデール』『ジゼル』『ロミオとジュリエット』など、ずっと前から踊りたいと思っていた作品がたくさん! いまのところ何を踊るかは未定だけど......。『ジゼル』はオーストラリア・ツアーでは踊ってるけど、パリではまだなの。『ロミオとジュリエット』のジュリエット役も『ラ・バヤデール』の主役のニキヤも、すでに体験済みだけど、自分が成長したことを感じられる今、過去に踊った役を再び踊るのはすごく興味深いことに思えるわ」

― 2014~2015年シーズンの最後の公演は何ですか?

「6月29日からガルニエ宮で始まる『リーズの結婚』でリーズ役を踊ります。この作品ではジョジュア・オファルトとマチアス・エイマンの2名が私のパートナー。マチアスとはまだ一度も稽古をしていないけど、公演の前に一度リハーサルをするだけで十分なくらい、お互いのことがよくわかってるのよ。彼には絶大な信頼をおいてるので、不安は何もないわ。復帰公演となったコペンハーゲンの『パキータ』でも、パートナーは彼でした。『リーズの結婚』と前後して始まる『感覚の解剖学』にも最初は配役されていたのだけど、『リーズの結婚』の公演数が予定より増えたので、こちらは踊らないことになったの。マクレガーのこの作品は初演時に踊ってるのだけど、身体の極限への挑戦という点でとても興味深く、クラシック作品を踊るのとは異なる喜びが得られるの。だから、参加できないのはちょっと残念。でも身体への負担やらを考えると、それでよかったのだと思ってます」

『リーズの結婚』より。photos:Julien Benhamou/Opéra national de Paris

― 今年の夏は、世界バレエフェスティバル参加のため来日しますね。

「世界からスターが集まって開催する祭典ね。これに参加できることは、とても光栄なことだわ。日本のバレエファンに、私がダンスに持つ喜びを見せられる機会だし、観客にはぜひとも楽しんで欲しいですね。私はマチアス・エイマンと踊ります。とても気が合うパートナーで、踊る演目も二人で決めたのだけど、踊りたいと思う作品については私も彼も同じような考えでした。Aプログラムで踊るのは『ロミオとジュリエット』の第一幕から、バルコニーのシーンのパ・ド・ドゥ。このバレエの中に幾つかある重要な場面のうちのひとつですね。二人の若者がこっそり会って、つかの間過ごす時間。二人の間に愛情が湧き上がって、気持ちを伝え合い......幸福感に満ちたダンスです。この第一幕では14歳と幼かったジュリエットが、第二幕では愛の不可能を知り、第三幕では運命に支配され......と短期間で成長します。この役は2011年にオペラ座で初役で踊ってるのだけど、その後私生活で経験したあれこれを今回の役作りに込めることができるので、以前とは異なるジュリエットを見せられることになるでしょう。先ほども話したように、来シーズンのオペラ座で『ロミオとジュリエット』がプログラムに入っていて、おそらく私はマチアスと踊れるのではないかと思うのです。だから、その前にまず日本で、ということですね。フェスティバルで踊る2つめは、これもヌレエフの振り付けですが、『白鳥の湖』です。この作品はオペラ座ではまだだけど、過去にマニュエル・ルグリのグループ公演の時に日本で踊る機会に恵まれたの。外部公演のうれしいことは、このようにオペラ座では踊ってない作品に挑戦できることね。フェスティバルでは、第二幕の白鳥=女性がプリンスと出会うシーンのパ・ド・ドゥを踊ります。このプリンス役でも、マチアスが素晴らしいことは間違いないわ。私は類まれな美しさ、繊細さを見せることを大切にし、やりすぎないように......と思っています。今年の3月のオペラ座での『白鳥の湖』は出産直後で、まだ体重もたっぷりあり、アラベスクすらできない状態だったので諦めざるをえなかっただけに、これを世界バレエフェスティバルで踊れるって、なんて素晴らしいことでしょう!」 オペラ座の多数の女性ダンサーの中でも、定評ある美しきクードピエの持ち主であるミリアム。それゆえに、超クラシック作品の『ロミオとジュリエット』『白鳥の湖』での彼女を見るのは楽しみだ。フェスティバルで彼女とマチアスが踊る3番目の作品はまだ決定していないが、もしコンテンポラリーあるいはネオ・クラシック作品を彼女が踊るのなら、これも多いに期待したい。ネコ科の動物のように柔軟で驚くほどダイナミックな動きは、マチアスにも共通するだけに見逃せない時間となるに違いないからだ。

『ロメオとジュリエット』より。photo: Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

『リーズの結婚(La Fille mal gardée)』(2015年7月14日まで) ミリアムの公演予定日:7月3日、6日、11日、13日 会場:Opéra national de Paris https://www.operadeparis.fr

日程:Aプログラム/2015年8月1日(土)〜6日(木)、Bプログラム/8日(土)〜13日(木)、ガラ公演/16日(日)

『第14回 世界バレエフェスティバル』

会場:東京文化会館

料金:S席¥26,000、A席¥23,000、B席¥19,000、C席¥16,000 ※ガラ公演は別料金

●問い合わせ

NBSチケットセンター

Tel.03-3791-8888

http://www.nbs.or.jp/stages/2015/wbf/

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