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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.30 普通って悪くない

  • 2021.6.12
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クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.29 喉と心の治し方

vol.30 普通って悪くない

「新しい曲の歌詞書いてるんだけど、ちょっと相談のって欲しくて」

そう彼女にメッセージを送信すると「どうぞ」とすぐに返信が来た。断りを入れ電話をかけると、コール音がすぐに彼女の声に変わる。「おはようー。ごめんね、朝早くに」私が頼りない声で詫びると、パンから手作りのアボカドトーストを食べ終えたばかりらしい彼女は、大丈夫だと答える代わりに日課になりつつあるランニングで自己最長距離を先ほど更新したのだと嬉しそうに話してくれた。私は受話器を耳に当てながら顔だけで小さく笑った。彼女のこういう風通しの良さが好きだと思った。

年齢と共に感じる漠然とした焦りは何処から来ているのか。その疑問を深掘りして作品に出来たら、と思った旨を私なりの考えと共に伝え、率直な彼女の感想や考えに相槌を打ったり、質問したりしながらメモを取っていく。世間で普通、常識とされているものへの素朴な疑問や自分の価値観を言葉にして、相手とキャッチボールすることではじめて気づけること。フラットに物事を捉えたいと意識しても、なお消えない思い込みの根深さ。正解は人の数だけあるということ。まだまだ知らないことが沢山ある。

電話を切り、席を立ってコーヒーを淹れ直す間、壁にかけているドライフラワーをぼーっと見つめていた。机に戻り、走り書きのメモノートを捲りながら、頭の中を整理していく。マグカップを手に取り、ゆっくり喉を湿らすようにして、酸味と苦味のバランスが絶妙に整っている茶色い液体を時間をかけて身体に行き渡らせる。「普通」そう声に出して呟いてみた。部屋はしんと静まり返っていて、私の頭の中では、ついさっき電話で聞いたばかりのエピソードが彼女の声によって再生されていた。

「普通って言葉をね、辞書で引いてみたんだよ。そしたら、特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。あたりまえであること。みたいな説明で。そこに載ってた漢字なんだったかなー。まぁその熟語をまた辞書で引いてみたら、その熟語の説明に『普通』って言葉がある訳よ。なんかもう、出口ないって言うか、エンドレスリピートだと思ったね」

普通に美味しい。普通に可愛い。普通に考えて。

何気なく口にしている言葉。勝手に行間を読むと、普通にみんなは好きだと思うけど、自分的にはあんまり好みじゃない、気乗りしないってことなんじゃないかな。

だから普通が分からないって当たり前のことな気がして。理解出来るけど、共感は出来ない、多数決に参加したら少数派だった時の心細さみたいな。それを「普通」と言う言葉で括られてしまうと、いよいよ迷子にでもなったような気持ちになって。でも自分と同じ人間なんてこの世界に一人もいないんだから、みんなと分かり合えなくて良いと思う。それに、受け入れられなくもないけど、両手を広げて迎え入れるには無理しすぎる、でもそれは間違ってる!おかしい!とシャットダウンするのも違うって時に、まぁ良いんじゃない?って過程を経た「普通」は、それはそれで便利だとも思う。

そんなことをエンドレスに続けていくことが人生?なのでしょうか。

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