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「空飛ぶクルマ」ブーム過熱も 見落とされがちな「発着場」問題とは

  • 2021.6.10
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昨今注目を集める「空飛ぶクルマ」ですが、発着に使われるポートに関する議論はあまり見られません。その課題点について、ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

進化するドローン輸送

皆さんご存じのとおり、自動車業界はガソリンから次世代燃料へのシフトに本腰を入れています。変化はそれだけではありません。もはや

「クルマ = タイヤで地面の上を走るもの」

という常識すら消えつつあります。そう、「空飛ぶクルマ」の登場です。

都会の次世代の輸送手段として、上空を利用するための実証実験は既に始まっています。例えば、ドローンを使った物流インフラの構築です。アメリカやスイスなどは医薬関連品の輸送手段として実用化しているなど、各国で導入は始まっています。

日本では、長野県の伊那市がKDDI(千代田区飯田橋)と実証実験を行い、2020年から日本初のドローンによる商品配達サービス「ゆうあいマーケット」を開始しています。

これは山あいの集落の買い物難民支援を目的としたもので、地元の伊那ケーブルテレビジョンを通じてテレビで商品を注文すると、自立飛行する配送用ドローンが最寄りの公民館まで品物を配送してくれます。そんなわけで、東京の都心でも配送用ドローンが飛ぶようになるのは遠い未来のことではないでしょう。

「空飛ぶクルマ」が肉眼で見える世界へ

そして、荷物の次は人間です。

「空飛ぶクルマ」と呼ばれている新しい交通インフラは、既に法整備と実用化に向けて動き出しています。政府は官民による協議会を2018年に立ち上げ、現在も着々と準備は進んでいます。早ければ2023年にも実用化が始まる予定です。

「空飛ぶクルマ」と聞いて想像されるのは、昭和の未来予想図で描かれたような流線型の車体、あるいは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』に出てくる現在のクルマとほぼ形の同じものでしょう。

「空飛ぶクルマ」のイメージ(画像:SkyDrive)

しかし現実の「空飛ぶクルマ」は、ドローンが大型化したような先端的なデザインとなっています。そんな「空飛ぶクルマ」ですが、いったいどのような形で東京の空を飛ぶのでしょうか。

現在想定されているのは、電動モーターを搭載し、垂直離着陸できる機体を使って自動操縦で飛行するものです。発着地点から上空に設定された環状のコリドー(通路)に入り、目的地まで向かうことになります。わかりやすいイメージは、肉眼で見える高さに「空飛ぶクルマ」がグルグルと回っている――といったところでしょうか。

そんななか求められているのが、「空飛ぶクルマ」導入への準備です。

一般客を想定した都内ヘリポートはほぼ皆無

「今すぐにでも、準備が必要」

と話すのは、これまで350を超えるヘリポートの設計やコンサルティングを行ってきたエアロファシリティー(港区新橋)の木下幹巳(もとみ)社長です。

なぜ準備が必要なのか――それは、ビルの屋上を使う「空飛ぶクルマ」のポート(発着所)が、従来のヘリポートとはまったく別物だからだといいます。

正確な用語は確定していませんが、「空飛ぶクルマ」用のポートは垂直離着陸(Vertical Take-Off and Landing)に由来する「Vポート」と呼ばれています。このVポートはヘリポートと比べて、設計段階からまったく異なります。

もっとも大きな違いは設備です。都心のビルに現在設置されているヘリポートは、いわば「取りあえず離着陸をできる」ことを想定したものです。

対してVポートは、多数駐機や充電などの設備に加え、利用者の導線も確保しなければなりません。

木下社長によれば都心に多数あるヘリポートでも一般客を想定した商業用としての設備を備えているのは、港区のアークヒルズ(港区赤坂、六本木)のみだといいます。

アークヒルズのヘリポート(画像:(C)Google)

アークヒルズのヘリポートは、テレビ朝日の本社があった頃に同社専用として整備されたもので、2003(平成15)年の移転後に、商業用屋上ヘリポートとして整備されました。しかし、一般客の利用を想定した導線がまったく考えられていませんでした。

利用者は細い通路を通って、100段以上の階段を上らなくてはならかったため、待合室やエレベーター増設の工事が莫大(ばくだい)な費用をかけて行われました。

環境整備のチャンスは少ない

騒音問題を回避するため、Vポートの設置は高層ビルの屋上が想定されていることから、後で莫大な費用をかけて改装するのではなく、高層ビルに設計段階からVポートを盛り込むべきと木下社長は話します。

「多数の利用者を想定すると、後からエレベーターを増設するような改装は困難だからです。また、利用者を見込んで最上階付近に商業テナントが入ることも想定しておく必要があります。そうしたVポートが設置できる大規模ビルは、東京でも2~3年に1棟程度しかつくられません。今、都心で再開発事業が進められているチャンスを逃してはならないのです」

都内の高層ビル(画像:写真AC)

20世紀に登場した高層ビルは寿命の非常に長く、エンパイア・ステート・ビルディングの完成は1931年。霞が関ビルディング(千代田区霞が関)は1968(昭和43)年です。

「これからの大規模ビルは計画から着工まで10年。その後100年は利用されるでしょう。そのため、大規模ビルにVポートを設置するチャンスは非常に少ないのです」

実用化に向けて努力が続く今だからこそ、東京の未来を変える「空飛ぶクルマ」の環境整備を始めなくてはならないようです。

昼間たかし(ルポライター、著作家)

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