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社会学者が指摘する「選択的週休3日制」の意外な副作用3つ

  • 2021.6.7
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コロナ禍による働き方の多様化に伴い、議論が高まりつつある「選択的週休3日制」。希望すれば週に3日間休めるもので、一見、会社員にとってはいいことずくめのように思えます。しかし、本当にそうなのでしょうか。立命館大学教授の筒井淳也さんが指摘する「意外な副作用」とは──。

キーボードの上にカレンダーと文房具
※写真はイメージです
家事育児との両立に余裕ができる

選択的週休3日制は、社員のうち希望する人が1週間あたりの休みを従来の2日から3日にできる制度です。最近は導入する企業が増えつつあり、政府も導入を後押しする姿勢を見せ始めました。

個人的には、週休3日そのものはとてもいいことだと思います。特に、家事育児や介護などと仕事を両立している人にとっては、勤務体制としてはそのぐらいのペースがちょうどいいのではないでしょうか。ウィークデイではないと済ませにくい私用も、週休3日であれば対応しやすいでしょう。

個人差はありますが、9時から17時の一般的な勤務でも、週末にはヘトヘトになっていて夫婦で家事を分担していても、仕事との両立は「ギリギリできている」ぐらいのケースは多いと思います。

男性の家庭参加も進む

もし希望する人全員が週休3日になったら、男性の家庭参加はもっと進むでしょうし、家事育児や介護とも「ギリギリ」ではなく余裕を持って両立できるようになるはずです。その点では、この制度には大きなメリットがあると言えるでしょう。

しかし、この制度は、単純に導入するだけだと副作用も伴います。導入する企業を増やし、その後スムーズに運用していってもらうためには、事前に副作用対策をしっかり考えておかなければなりません。

企業間格差と悪用のリスク

考えられる副作用としては、まず企業間格差が生まれることが挙げられます。この制度は体力的に余裕のある企業、つまり大企業から導入が進んでいくはずで、そうなるともともと働きやすかった会社がさらに働きやすくなり、人材も多く集まるようになっていきます。

一方、余裕がない会社はなかなか導入できないでしょうから、労働環境の面で大企業に大きく引き離されてしまいます。結果として、優れた人材がますます余裕のある企業ばかりに集まってしまい、その影響から業績や成長性などさまざまな面で格差が広がっていく可能性があります。

不平等の概念
※写真はイメージです

導入するだけの余裕がある企業はますます余裕ができ、もともと余裕がない企業はますます余裕がなくなっていく──。そうした企業間格差が、よりはっきりした形で表れ始めるのではないでしょうか。

また、もうひとつの副作用としては「悪用のリスク」があります。例えば、コロナ禍や景気の影響で業績が落ちた企業が、人件費を削減する目的で週休3日を実質的に強要するケースなどです。そうすると結果的に、望まない賃金の低下に結びつくことになります。

本来、選択的週休3日制の「選択」は、希望するかしないかを社員が自由に選べるという意味。ここが強要に変わってしまっては社員にとって不利益になりますから、企業側にそうさせない仕組みが必要になります。

企業淘汰が進む

上記と重なりますが、この制度が普及していくと、3つ目の副作用として企業淘汰が進むことが考えられます。これは企業間格差が広がるためでもありますが、人材を集めるために無理に制度を導入したり、あるいは導入が義務化されることになると、体力的にもたない企業が出てくるからです。

日本の、特に中小企業では、労働条件や仕事内容が多少厳しくても、家計のために働き続けている人が少なくありません。日本では労働条件より雇用を守ることのほうが優先される傾向にあるため、政府も国民もきつい働き方を大目に見てきた経緯があります。中小企業の中には、こうしたきつい働き方を社員にさせてきたからこそ雇用を維持できてきたところもあるでしょう。

しかし、たとえばヨーロッパの一部の国ではこうした働き方は許容されません。失業者は多いのですが、失業補償が手厚いため「きつい働き方をするぐらいなら辞める」という選択をする人が多いのです。結果として、労働条件や仕事内容が厳しい企業は淘汰され、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現している企業が増えていくという状況が生まれています。

導入自体、選択制であるべき

これに比べると、日本は失業補償が貧弱で辞めにくいのに、働き方改革や週休3日制などで働きやすさだけ追求している格好です。本来ならば、雇用の外の生活がしっかり保障されているのならば、自然と働きやすい企業しか残りません。このような企業淘汰は、働く人々の選択によって進むのならいいのですが、何らかの制度を導入したがために無理に進んでしまうのは健全とは言えません。

ですから、このような社会保障体制がそろわない条件では、選択的週休3日制は企業における導入も「選択的」であるべきです。もし中小を含めた全企業に導入を義務化したら、副作用はそれだけ大きくなります。今まできつい働き方で雇用を維持してきた企業はもたなくなり、失業者も増えるでしょう。

そうなれば、違法(インフォーマル)に人を雇用したいという企業が増える可能性もあります。イタリアでは、外国人労働者を正規の手続きをとらずに雇って低賃金・重労働の仕事をさせる、いわゆる「闇労働」が問題になっていますが、同じようなことが日本でも、外国人労働者に限らず起こるかもしれません。

企業間格差の拡大、悪用のリスク、一部の企業の淘汰──。週休3日制にはこうした副作用もあるのだということを、私たちはあらかじめ知っておく必要があります。政府はもちろん働く人々もきちんと理解して、その上で政策を進めていくべきだと思います。

少子化改善の効果は期待できない

ちなみに、この制度は少子化対策としても期待されているようですが、私はそれほど影響はないと考えています。そもそも出生率低下の最大の原因は未婚化であり、ここを何とかしなければ大きな効果は望めません。

ともに大企業に勤めている共働きカップルで、週休3日を選んでもあまり給料が下がらないといったケースならば産み育てやすくなるかもしれませんが、こういうケースは割合としてそれほど多くはならないでしょう。

少子化対策にはならなくても、選択的週休3日制には働き方の多様化や私生活との両立などさまざまなメリットがあります。収入が減るという問題はありますが、それを含めても働く人の選択肢が増えるのはいいこと。今後、導入は大企業から進んでいくでしょう。その際には、その後に起こりうる副作用への対策もしっかり検討してほしいと思います。

構成=辻村洋子

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。

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