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映画は「レーベル」で選ぶ。いま、インディペンデント系が面白いワケ

  • 2021.6.7
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「映画を観る」とひと口にいっても、人によって選択の仕方はさまざま。出演俳優や好きな監督、情報サイトのおすすめランキングから観たい映画を見つけたり、AIによるリコメンドにより質の高い作品に出会える機会も増えました。とはいえやっぱり、映画との出会いはセレンディピティに期待したいもの。偶発的に知らない作品に出会うことは新しい視野を得るきっかけになります。最近ではインディペンデント系レーベル(以下、インディペンデント系)の活躍が目覚ましく、明確なビジョンや革新性を備えたそれらの作品群からは時代のムードが写し鏡のようにみえてきます。ここでは、映画をレーベルで選ぶ楽しさを考えます。

そもそも映画制作の中心地・欧米では、インディペンデント系と表記する場合、ハリウッドのメジャースタジオ5社の傘下に属していない独立資本やアートハウス系のスタジオなどを指します。それらの作品は、ほとんどが小規模予算で、上映する映画館も限定されているのが特徴。ちなみにメジャースタジオは上映する映画館までを含めて産業構造として組み込まれているのです。もちろん予算が低いといっても、あくまでもメジャーと比較してなので、邦画のそれとは比較になりませんが……。

インディペンデント系の聖地、ミニシアターの盛衰

日本でインディペンデント系の映画がよく上映されている映画館といえば「ミニシアター」が挙げられます。ミニシアターとは、大手映画会社の直接的な影響下にない独立的な映画館です。インディペンテント系は、音楽やファッションなどのこだわりが強いものも多く、お洒落でアカデミックなその雰囲気からカルチャー好きを惹きつけてやみません。90年代にその最盛期を迎えたミニシアターおよびインディペンデント系映画。俳優や監督ももちろんですが、「どこで上映するか」がその人気を左右してきました。つまり、新しい映画との出会いは映画館へ足を運ぶことで得られていたのです。しかし、大型シネコンの登場や、VODの発達などの時代の流れとともに、ミニシアターは次々とその姿を消していきました。シーンの中心的存在でもあったアップリンク渋谷が先月閉館したことは記憶に新しいでしょう。映画を「上映館」で選び、新しい映画とミニシアターのチラシやポスターで出会うというカルチャーは下火になってしまいました。

一方で、つくり手側がSNSで自由に発信できるようになり、ネット検索社会の発展によって、映画は誰にでも見つけやすい存在に。つまり、ニッチな作品でも情報を求めている人と作品が出会いやすくなりました。また、デジタル技術の発達や「動画を撮ること」が一般的になった社会の状況は、ミニシアター・ブームの時代と比べて、クリエイティビティの自由度が上がり、作品の幅も多様化して面白くなってきているといえるでしょう。SNSの発達は、インディペンデント系がメジャーと同じ土俵で自由にPRできるというメリットをもたらしました。よりシンプルに作品の質で勝負できるようになったのです。

インディペンデント系が米アカデミー賞の歴史を創る存在に

© 2016 A24 Distribution, LLCHarumari Inc.

インディペンデント系の勢いは、今や映画界の最高峰である米アカデミー賞にまで影響を与えています。2013年、黒人監督スティーヴ・マックィーン『それでも夜は明ける』。この作品は黒人監督として初となる作品賞を受賞しました。これが米アカデミー賞の流れを大きく変える最初のトピックでした。実はこの前年に『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)をはじめ黒人奴隷を題材とする映画ブームが起きていたのでその予兆のようなものはあったのかもしれません。『それでも夜は明ける』もまた奴隷として12年生きた黒人男性の実話をもとにした社会派映画であり、公開後、すぐに話題に。この作品を手掛けたのはインディペンデント系を代表するレーベル、プランBでした。

映画界にも多様化社会の波が訪れるかと思いきや、2015年から2016年にかけては、アカデミー賞の全20ノミネートすべては白人で占められていました。この時代に逆行するかのような流れには批判が殺到し、大きな議論を巻き起こしたのです。法律家でブロガーのエイプリル・レインから始まった「#OscarsSoWhite(オスカーは白すぎる!)」というハッシュタグにより、SNS上でその動きは世界中を巻き込んでいきました。この潮流は今日も続いているので強く印象に残っている人も多いかもしれません。

こんな時代の流れを察して、ジェンダーや人種をはじめあらゆるステレオタイプを打破した作品が『ムーンライト』(2016)。2017年の米アカデミー作品賞を受賞したこの作品を制作したのもまた、インディペンデント系であり、新進気鋭の制作レーベルである、A24(2012年創業)でした。

時代が求めた「いまを描く映画」を 斬新なクリエイティブでつくるA24

プランBやA 24のようなインディペンデント系がアメリカの映画産業界のなかで大きくノイズを上げられたのは、「時代を読む力に優れていること」と「斬新なクリエイティブ」という2点に理由が集約できると感じます。潤沢な資金力があり人気スターを起用できる「メジャー」と呼ばれるハリウッド5社と比べると、予算もないインディペンデント系は、作品の芸術性や専門性を強化することで差別化しつつも、社会背景や経済などの時代の流れを読むことで独自のポジションを確立してきました。その象徴的なインディペンデント系が、先述した『ムーンライト』を手がけたA24です。まるでシリコンバレーのスタートアップ企業のように、時代を予測する能力と斬新なクリエイティブを得意とするのが彼らのスタイル。その姿勢を貫いた結果、品質保証の代名詞ともいえるレーベルに成長しました。『ムーンライト』以降も、『レディ・バード』や『20センチュリー・ウーマン』などヒット作を生み出しており、今では主要なアワードの常連となりました。

映画ファンでない層へのアプローチ 多様なジャンルでクリエイティブを表現

短期間でレーベルの知名度を広げた背景には、良作を作る&選ぶだけではない、“A24というレーベルをカルチャーとして浸透させる”取り組みもありました。たとえば、オフィシャルサイトではオリジナルグッズが販売されていますが、そのアイテム群をみてみると、気鋭のデザイナー集団「Actual Source」とのタッグでアパレルウェアを製作したり、ブルックリンのフレグランススタジオ「Joya」と一緒に映画にインスパイアされたキャンドルを開発するなど、個性豊かなクリエーションが目立ちます。しかも、いわゆる“映画のノベルティグッズ”としてではなく、ファッションとして手に入れたいと思わせるアイテムばかり。さらに、映画のなかで使用されたグッズをオンラインサイト内でオークション出品している点も非常に興味深いです。

そのほかにも、映画に絡めた「ZINE」(雑誌)やポッドキャスト「The A24 Project」など、さまざまなメディアを駆使してA24を知ってもらうための取り組みを怠らないのも大きな強みといえるでしょう。映画をひとつのファッションやカルチャーととらえ新しい手法で発信するアグレッシブな姿勢を見ただけでもそのすごさがわかるはず。レーベルとの接点を広げたことで、作品と出会う人だけでなく、グッズから出会う人や音楽から出会う人など、映画との出会いが確実に増えています。映画好きのみならずさまざまなカルチャーファンが、A24作品へ入っていく興味の導線をたくさんデザインしているその世界観も、ファンを惹きつけるポイントでしょう。

映画はただ観て楽しかった、面白かった、というだけでなく新しい価値観や世界を深掘りすることもできるカルチャーです。そして、時代の移り変わりを敏感に察知している表現者たちの考えに迫ることができます。“映画をレーベルで見る”ことは、私たちが知るべきことや考えるべきことが見えてくるいいきっかけになってくれそうです。

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