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下半身マヒで保護された子猫 順調に回復していたはずなのに、ある日思わぬ「事件」が……

  • 2021.6.5
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保健所や動物愛護センターなどから猫を引き取り、飼育を希望する人に譲渡する活動を続ける「東京キャットガーディアン」(豊島区南大塚)代表・山本葉子さんが、保護活動の一端を紹介するとともに命の重みについて問い掛けます。

事故のリスクが高い外猫たち

外で暮らしている猫たちは、事故に遭うことがあります。

車にぶつかったり、自転車などに接触したり。走っている物の前になぜか飛び出してくる猫や、車の下にいて発車の際に巻き込まれたりする猫たち。

行き場のない猫たちのシェルター「東京キャットガーディアン」(豊島区南大塚)を運営して13年ほどですが、毎年このような事故猫たちが保護されて来ます。シェルターの中にある病院で治療をして、可能な限り普段の生活ができるようにリハビリを組んで、猫も人も長期間、頑張ります。

小次郎ちゃんは、そんな猫たちの中の1匹です。

けがをして東京キャットガーディアンに保護された子猫、小次郎ちゃん(画像:山本葉子)

下半身麻痺(マヒ)状態の猫たちの相談やSOSが次々と入り、保護場所や状況はそれぞれ別でしたが、

「動物病院で診てもらいましたが、傷とかは無いみたいです」「ぐったりしているけど血は出ていない」「ぼーっとしているんです。頭も打ってるかも」

と、立て続けに3匹を受け入れすることになった年末。

みんな子猫です。2か月行ってないくらい。後脚が両方ぴーんと伸びてしまったまま動かず、自力排泄ができるかどうかもわかりません。

全く体が動かなかった子猫が

でもそのうちの2匹は少し経つと目覚ましい回復力を見せ始めました。ご飯をモリモリ食べ、排泄補助をすれば自力でも踏ん張ってくれたり、前足だけで相当なスピードで動き回るようになって、どうやら後ろ足の感覚も若干残っている様子。毎日、様子を見ながら遊びにも加えてリハビリします。

でも残るもう1匹の小次郎ちゃんは、シェルターに着いて数週間は横になったままでした。

起きてる。目はぱっちり。好奇心がすごくありそうな表情。でも体は動かない。

ご飯は口元まで持っていくと食べてくれる。うんちもおしっこも、人の手で出しました。同じ向きで寝たきりだと血流が悪くなるので、定期的に体の向きを入れ替えて、マッサージも欠かさない。

小次郎ちゃんのケージを見ながらスタッフ同士で気を揉む毎日。また翌日も、その次も。そんなある日。

「あれ?」「なぁに」「こっち向い……てましたっけ?」「ん~どうだったかな」

キラキラした目をこちらに向けている。全く動かないはずの子猫の、体の向きがさっき見たのと違うような気が……する。

他のスタッフ間でも「あれ? やっぱり」「さっき向こうだったですよねー」という会話が交わされるようになって、「もしかして」と皆が思い始めた頃、目の前で何の予備動作もなく、小次郎ちゃんはコロリンと体を返してくれました。

ヤられた(笑)。

うれしいやら、コンニャロという気持ちやら。時間ごとに体の位置を変えて頑張っていたスタッフも、良かったねぇと言いながら「寝返りが打てるのなら回復しているのだろうし、後ろ脚も他の2匹のように動くようになったりするかも」と、ちょっと希望を持ちました。

子猫が抱えていた大きな苦悩

秘密(?)の寝返りを見られちゃった後は、どんどん動くようになって行く小次郎ちゃん。後ろ脚は体温が若干低めですが、かすかに感覚が残っているようです。前足だけで体を引っ張りながら「遊ぶーっ」「かまってーっ」「ごはんーっ」とアクティブ。

そして、そういう欲求がもともと高い子だったのでしょうか、人を引き寄せる“目力”がとても強く、うっかり彼と目が合ってしまったら、その都度遊ぶ義務があるような気になります(実際、1日に何度も遊んであげる羽目になってました)。

かわいくて仕方がない、天真爛漫(らんまん)な男の子です。

遊ぶのが大好きな小次郎ちゃん(画像:山本葉子)

食欲旺盛、どんどん体重が増える。体つきは普通の日本猫の体型です。前脚の長い雄猫はとても大きくなる可能性がありますが、小次郎ちゃんの長ーい前脚も胴体も日に日に重さが増してきました。

同じ時期に下半身麻痺でシェルターに来たほかの2匹は、小柄な女の子たち。動かない後ろ脚を含めてもさほど重くないようで、シェルター内のフロアを前脚で滑りながら走って行くのがどんどん速くなる。

思えばこのあたりから、小次郎ちゃんは自分の体について少し苦労していたのかもしれません。

ある日、早番スタッフが出勤すると小次郎ちゃんのケージは真っ赤に染まっていました。

ケージが真っ赤に染まった理由

真ん中にキョトンとした顔で座ってて、痛がる様子も無かったそうですが、彼の動かない脚の片方は大きな傷と大量の出血。

「ケージのどこかに引っ掛けて、無理矢理ねじったとかでしょうか?」「感覚のない部分だとそういう無茶をすることもあるけど、でもケージに血が付いてないね」

どう考えても他に原因が見当たりません。彼自身が自分を攻撃したとしか。

貧血を起こしているほどだったので、シェルターの若い体重のある猫たちにドナー協力してもらって、供血を実施。幸いクロスマッチ(血液適合)テストが1匹目でうまく行って、すぐに輸血ができました。

その後も食欲はある。甘えてくる。いつもと変わらない彼。傷をなめないように付けたエリザベスカラーが邪魔のようですが、上機嫌は相変わらず。原因がわからないまま傷はよくなって行き、普段の生活が戻ってカラーを外して3週間ほどした朝。

また大きな傷と出血。

その後も彼は衝動的に自分の脚をかもうとし、エリザベスカラーを取り替える一瞬のすきに、尻尾もかじって飲み込んでしまう騒ぎになりました。

エリザベスカラーを付けた小次郎ちゃん(画像:山本葉子)

普段はゴキゲン、でも何か衝動的な行動へつながってしまうものを持っている。

過去に自傷傾向のある猫は数匹出会ったことがあります。ただ、小次郎ちゃんのようにとても楽しそうで、スタッフに構われるのがうれしそうな子で、こういう「自身を攻撃するケース」は初めてでした。

原因が特定できないのだから、細心の注意を払いつつ、時間をかけて付き合って行くしかないとなりました。

けがした猫にとっての幸せ

乳飲み子の赤ちゃん猫がたくさん保護されてくる季節になって、スタッフも4時間おきのナイトシフトが始まりました。

夜番スタッフは眠れるときは1時間でも仮眠を取るようにしていますが、大きな部屋をもらった小次郎ちゃんと添い寝になりました。

彼はヨジヨジと登ってきて、胸の上や首の辺りで“巣”を作り、そのまま一緒に眠りに落ちます。

体に直に伝わる大きなゴロゴロ音。温かい肉球。湿ったくすぐったい息。この先に何があるかわからないけど、今この瞬間は彼も私たちも人生それほど悪くないときっと思っている。

※ ※ ※

保護・譲渡活動を続けていると、小次郎ちゃんのようなケースを「かわいそう」と言う人もいます。半身が動かなかったり衝動的に自傷してしまったりする可能性のあるこの子は、それでも外で優しい人に保護してもらって、シェルターにうまくつながって、医療を受けることができ、ケアを一生続ける手を得ています。

「今を生きている」猫や犬などの伴侶動物。痛かったり辛かったりはしないように努力して、今日を楽しく生きていく。

譲渡をどんな場合でも諦めず、彼のような子たちともゆっくり1日を味わいながら、シェルターは今日も回って行きます。

山本葉子(東京キャットガーディアン代表)

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