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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.29 喉と心の治し方

  • 2021.5.28
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クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.28 脳の選択

vol.29喉と心の治し方

喉が、痛い。

そう言えば今朝は起きた時から何となく喉の辺りがうっすら熱く、洗面所の鏡に顔を写すと奥二重の線が曖昧になっていた。連日の歌い過ぎから来る疲労だ…眉毛や頭の前部分を上下させることで音程を取るのが私の癖で。レコーディングやライブなど、長時間歌い続けると冗談ではなく顔の上半分の感覚がなくなるのだ。デジタル時計が表示している時刻から逆算し睡眠時間を割り出すと7時間は眠っているはずなのに全く疲れが取れていない。額の皮膚が後ろに引っ張られているような感覚。今日はスタジオ制作なので、明日ストレッチの予約を入れようと思った。

曲のイメージを共有して、トラックに思いついたメロディや言葉を入れてみる。ずっとマイクに向かって歌っていると喉に軽い痛みを感じた。今までの経験上ここで無理しすぎるとかえって迷惑をかけてしまうので、正直に「すみません…喉がちょっと痛くて」と申告するとジンジャーハーブティーにマヌカハニーを溶かした特製ドリンクを作って労ってくださり、「すごく効くから」とプロポリスキャンディまで。その日はキリのいいところで制作を切り上げさせてもらうことにした。

帰り道、座席に体を深く沈ませていると暗闇でスマホの画面が光った。メッセージは日頃から親しくしている友人からだった。「連日の歌いすぎで喉が痛くて」と送ると「大丈夫?」とあたたかい言葉が返ってくる。続けて「黒豆煮たものを明日届けるから食べて」と。「黒豆?」と私が返すと「黒豆の煮汁は喉に良いんだよ」とキッチンに立つ彼女の後ろ姿が目に浮かんだ。「その気持ちだけで十分。本当ありがとう」と返信し、その日は栄養のあるものを食べ早めに休んだ。

翌朝ベッドの上で目を覚ますと昨日の気怠さは消え去って、おはようございますと声に出して呟いても、喉はもう痛まなかった。スマホを確認すると彼女から体調をうかがうメッセージが届いていた。「黒豆煮たからレオの家に宅配するね」画面の文字を見て大きく伸びをする。体調は確かにまだ万全ではないかもしれない。だけど、心は万全だな。そう思った。そして、喉が痛いと彼女が言った時、次は私が黒豆煮を作って届けようと思った。

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