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2021年度は0.1%の引き下げ! 年金支給額はどう決まる?

  • 2021.5.24

公的年金の年金額は、賃金や物価の変動などを考慮して毎年改定されているのをご存知でしょうか。そして、2021年4月からは、その改定ルールの一部が見直しされています。その影響により、2021年4月から受け取れる年金支給額の水準は、0.1%の引き下げとなり、2017年以来4年ぶりの減額改定となりました。年金は老後の生活を支える大事な収入減ですから、毎年の年金額がどのようにして決まるのかはぜひ押さえておきたいものです。

今回は、そもそも年金額はどのように改定されるのか、そして年金額改定のルールが今年度からどう変わったのかを解説いたします。

年金額の改定ルールの全体像

毎年の誕生月には、日本年金機構から「ねんきん定期便」が届きますね。50歳以上になると、支払った保険料の実績に応じた将来の年金額が記載されています。しかし、それはあくまで計算上の見込みの金額で、実際の受け取る年金額は毎年改定が行われています。

国が支給する公的年金のうち、最も多くの方が受給する老齢基礎年金を例にあげてみましょう。この老齢基礎年金の年金額の満額は、次の式で計算することが法律(国民年金法)に定められています。

[計算式] 780,900円(2004年度額)×改定率(再評価率)

ここでいう「改定率(再評価率)」とは、世の中の賃金変動や物価変動に応じて年金額を自動的に連動させるための率のことを指します。法定額の780,900円をベースに毎年度改定をするのです。こ
の改定率は現在、以下の2つの改定率を掛け合わせたものとなっています。

①本来のルールによる改定率:年金額の実質的な価値を維持するため
②年金財政健全化のための改定率:少子化・長寿化にも配慮し、年金財政を維持するため

まずは、本来のルールによる改定率から見ていきましょう。

年金の支給額は物価や賃金に連動させるのが原則

本来の改定ルールは、年金財政の健全化中か否かにかかわらず常に適用されることになっています。これにより、年々変わる経済状況の変化に対応して年金額の実質的な価値を維持する、という年金額改定の基本的な役割を果たします。

この仕組みは、物価(もしくは賃金)が上がれば年金額も上がり、物価(もしくは賃金)が下がれば年金額も下がる、という仕組みです。

例えば、世の中の物価が上がっているのに年金支給額が変わらなかったら、買えるものが減り、実質的には年金の価値も目減りしてしまいますよね。それを防ぐために、毎年物価の変動率で調整をかけるのです。
物価に連動するか、賃金に連動するかは、基本的には年金受給者の年齢によって以下のようにきまります。(※連動することをスライドと呼びます)

年金支給額 物価と賃金

表:筆者作成

まず、年金額の改定においては、3年度前の指標が用いられることから、その年度中に到達する年齢が67歳以下の年金受給者を「新規裁定者」、68歳以上の年金受給権者を「既裁定者」として取り扱います。
一度、既裁定者となれば、その後は基本的には、物価に連動します。
一方、新規裁定者は直近の賃金の動向を反映させるため、賃金に連動するルールになっています。

黄色い点線で囲んだ部分については注意が必要で、新規裁定者は物価に関係なく常に賃金に連動する一方、既裁定者の場合は基本的には物価に連動するとされているものの、物価>賃金(賃金指数が物価指数を下回る状態)の場合には賃金に連動するとされています。

このように複雑になっているのは、なぜでしょうか。
そもそも、年金の改定ルールは賃金>物価(賃金指数が物価指数を上回る状態)を想定して作られているものの、物価>賃金(賃金指数が物価指数を下回る状態)の場合には現役世代の賃金が下がっていますので、相対的に年金保険料の負担が重くなります。
そのようなときには年金世代の給付も同じ分下げて痛み分けをしましょうね、という理由からです。

年金制度は現役世代の保険料で年金を賄う世代間の仕送りであることを考えても、合理的な仕組みであると言えます。

2020年度までは、例外的なルールが適用されてきた

しかしながら、2020年度までは、年金生活者への配慮から上記の基本のルール(黄色い点線で囲んだ部分)が適用されない例外ルールが設けられました。それが次の2つです。

ケース1 物価変動率がプラスで賃金変動率がマイナスの場合:物価>0>賃金
ケース1 物価変動率がプラスで賃金変動率がマイナスの場合:物価>0>賃金

図:筆者作成

ケース2 物価変動率と賃金変動率が両方ともマイナスの場合:0>物価>賃金
ケース2 物価変動率と賃金変動率が両方ともマイナスの場合:0>物価>賃金

図:筆者作成
この例外ルールは2004年の改正で規定されたものです。
それ以前(1990年代まで)は賃金水準の伸びが物価水準の伸びを上回ることが一般的とされていたのですが、2000年代に入ると賃金水準の伸びが物価水準の伸びを下回る場合が長引く(いわゆるデフレ)状態が続いてきました。

そのような経済状況の中でそのまま基本ルールを適用すると、既に引退している年金受給者の年金額がどんどん切り下げられてしまい、生活が苦しくなってしまいますので、それを防ぐために、上記のような例外ルールを設けました。

ただし、デフレが長期化し、物価>賃金(賃金指数が物価指数を下回る状態)という状況が今後も続くとなると、年金財政のさらなる悪化という副作用が生じはじめます。
そこで、この2つの例外ルールは見直され、2021年度からは適用されなくなり、基本ルールが徹底されることになりました。

この影響で今年度の年金支給額がどうなったかについては、後述します。

マクロ経済スライドによっても年金の支給額は変わる
少子高齢化による人口変化にも対応

年金の改定ルールは「本来の改定率」だけでなく、2005年4月からは高齢化の進行や現役世代の増減により年金額の伸びを調整する「マクロ経済スライド」という仕組みも導入されています。

「マクロ経済スライド」とは、公的年金被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて、スライド調整率が設定され、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合にのみ改定率から控除するものです。
この仕組みは、2004年の年金制度改正において導入されました。

分かりやすく言い換えれば、年金をもらう側の高齢者の平均寿命が伸び、保険料を払う側の現役世代の数が減っていく中、ありのままの年金額を支払うと、支え手である現役世代の負担が増えすぎてしまう、そして現役世代が将来受給できる年金が過度に減ってしまうため、その伸びを抑制することにしているのです。

デフレ基調ではマクロ経済スライドは発動しない

導入された背景には、年金財政の悪化を受け、現役世代が負担できる範囲内で年金給付を調整しようという目的があります。この「現役世代が負担できる範囲内で」というのがポイントで、マクロ経済スライドによる調整は常に行われるものではなく年金額が賃金や物価の上昇により、プラス改定される場合に限ります。

例えば、物価が1%伸びたので、年金額も1%プラスされるという場合、マクロ経済スライド調整による調整が▲0.3%としたら、年金額は0.7%プラスに抑えられる、というイメージです。

調整がしきれない分は、翌年度以降に繰り越し(キャリーオーバー)される

マクロ経済スライドは、将来年金を受け取る現役世代の給付水準を確保することにつながりますので、調整を計画的に実施することが望ましいのですが、2005年に制度がつくられて以来、日本経済のデフレ基調が続き、しばらく発動されることはありませんでした。

そこで、調整しきれなかった分を翌年度以降に繰り越し、賃金や物価の変動がプラスになったときに調整する仕組み(キャリーオーバー)も2018年度から導入されました。
最近では、株価上昇による景気回復や消費税の引上げなどを背景に物価上昇があった際の2019年度、2020年度の年金額改定においてキャリーオーバーの発動がされています。

「年金カット法」の適用 例外ルールが適用されなくなった

年金額の改定ルールは、前述の通り、2021年度から見直され、例外ルールが撤廃されました。
物価>賃金(賃金指数が物価指数を下回る状態)の場合には賃金変動に合わせて改定する基本ルールを徹底することになったのです。いわゆる「年金カット法」といわれているものです。

具体的には、「物価は上昇、賃金は下落」(以下の【ケース1】に該当)の場合、例外ルール①ではスライドなし(据置き)ですが、新ルールでは賃金スライド(マイナス改定)になります。

ケース1 物価変動率がプラスで賃金変動率がマイナスの場合:物価>0>賃金
ケース1 物価変動率がプラスで賃金変動率がマイナスの場合:物価>0>賃金

図:筆者作成

また、「物価も賃金も下落で、賃金の方が物価より下げ幅が大きい」(以下の【ケース2】に該当)の場合、例外ルール②では物価スライドですが、新ルールではやはり下げ幅の大きい賃金スライドになります。

ケース2 物価変動率と賃金変動率が両方ともマイナスの場合:0>物価>賃金
ケース2 物価変動率と賃金変動率が両方ともマイナスの場合:0>物価>賃金

図:筆者作成

以上のことを踏まえ、2021年度の年金額がどうなったのかを見てみましょう。

2021年は新ルールにより0.1%減少

今年度の改定率は以下のように算出されています。

今年度の改定率:前年度の改定率1.001×調整分▲0.1%≒1.000

今回の▲0.1%の改定は、前述したルールの見直しが影響しています。
2020年度は賃金・物価上昇を受けて、改定率が1を上回り(1.001)、法定額を上回る年金額でした。
一方で、2021年度は前年度の年金額から▲0.1%され、4年ぶりの減額となりました。

[老齢基礎年金の満額月額は66円の減額]
老齢基礎年金の満額を2020年度と比較すると
2020年度780,900円×1.001=781,700円 ※月額65,141円
2021年度780,900円×1.000(▲0.1%)=780,900円 ※月額65,075円(▲66円)

今年度の年金額がどのように決定されたのかを順を追って確認していきましょう。

年金額決定フロー

図:筆者作成

まず、今年度の改定率の基準となるデータは、以下の通りとなりました。

・物価変動率→0.0%
・賃金変動率→▲0.1%

物価(±0.0%)>賃金(▲0.1%)ですから賃金指数が物価指数を下回っていますね。
年金額の改定は、名目手取り賃金変動率(▲0.1%)がマイナスで、賃金変動率(▲0.1%)が物価変動率(±0%)を下回る場合、年金を受給し始める際の年金額(新規裁定者)、受給中の年金額(既裁定者)ともに賃金変動率(▲0.1%)を用います。
昨年度までの例外ルールがもし適用されていたなら、物価変動率(±0%)の方が採用されるため、「改定なし」となるところ、今年度からは例外ルールは適用されず基本ルールを徹底したために2021年度の年金額は、新規裁定年金・既裁定年金ともに、賃金変動率(▲0.1%)によって改定されているのです。

そして、賃金や物価による改定率がマイナスの場合には、マクロ経済スライドによる調整は行わないこととされているため、2021年度の年金額改定においては、マクロ経済スライドによる調整は行われませんでした。結果、マクロ経済スライドの未調整分(▲0.1%)は翌年度以降に繰り越されることになりました。

実質賃金の押し下げ傾向なので、年金額は減る可能性が高い

これから短時間労働者の適用拡大が進み、実質賃金の押し下げ傾向が続くと考えると、今後も「物価>賃金」基調で推移する可能性が高いです。つまり、今後は物価が上昇したとしても賃金が下がっていれば年金額は減るということです。
今回の年金支給額の減額は、ネガティブに捉えがちですが、むしろ将来まで安心な年金制度を持続するための必要な調整だと考えれば少しは納得が行くのではないでしょうか。

改定ルールの見直しについても「今までは受給者の生活に重点を置いていたけれども、今後は現役世代の皆さんの将来の給付を確保することに重点を置きますね」という政府からの力強いメッセージともとれます。
年金支給額の減額という結果だけにとらわれることなく、その背景までを理解していくことが今後もますます大切になってくることでしょう。

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