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アオハル描いた三浦しをん最新作『エレジーは流れない』

  • 2021.5.16
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『風が強く吹いている』や『仏果を得ず』など、唯一無二の青春群像小説を生み出し続ける三浦しをんさん。『愛なき世界』から早くも3年。この4月に発売された待望の新作『エレジーは流れない』(双葉社)も、読者の期待を裏切らない。

主人公は、ただ穏やかで平凡な日常を望む男子高校生の穂積怜(ほづみ・れい)。いちおう美術部所属だが、将来の夢も、やりたいことも、特にない。住んでいるのは、観光客の来ない温泉街。海と山に囲まれ、かつては団体旅行客で賑わっていたが、今ではさびれた温泉街となってしまった餅湯(もちゆ)商店街で、土産物屋「お土産ほづみ」を営む母と2人暮らしをしている。

高校2年生になっても、将来に対して明確な夢もなく、複雑な家庭環境に悩む怜は、日々を楽しそうに生き、バカばかりしている友人たちに振り回される毎日だ。今日もそんな彼らとお弁当を食べていると、地元の餅湯城のなかにある「餅湯博物館」から、縄文式土器が盗まれたとのニュースを耳にする――。

美術部部長の丸山、サッカー部で土器づくりを得意とする心平、野球部で干物店の息子の竜人、その彼女の愛美、そして、老舗旅館の跡取り息子の藤島。怜を取り巻く餅湯高校の学生たちは、それぞれみんな、おバカでのんびり。夢と希望にあふれたキラキラした青春でないところが、むしろ彼らの若さと今を生きる懸命さを際立たせ、とっくに大人になってしまった読者に哀愁を感じさせる。そして、全編に三浦さんらしいユーモアが散りばめられていて、テンポよく読み進められる。

本書発売にあたり、三浦さんは下記のようにコメントしている。

この小説は、温泉街で暮らす高校生たちの話です。ぬるま湯に浸かっているみたいに、特に大きな事件もなく、将来への明確な夢もなく、かれらの日常はのんびりと過ぎていきます。私自身、高校生のころなどに「いまが一番いい時期よ」と大人からしばしば言われましたが、まったくピンと来なかったし、いま思い返しても「若い=夢や希望にあふれている=いい時期」だったとはちっとも思えません。ただ退屈で、さきが見えなくてちょっと不安で、でも友だちとおしゃべりしているのが楽しかったという感じです。事件や夢がなくても日常は営まれるよな、という思いをこめて書きました。そんな日常をおバカなノリで、けれど一生懸命に生きる登場人物たちを、応援していただければうれしいです。

冒頭の朝のシーンで、怜と母親が交わす会話にほっこりする。「そういえば、自分もこんな感じだったかも」と高校時代を懐かしく思い出す「一番身近な青春小説」だ。

■三浦しをんさんプロフィール
1976年、東京生まれ。2000年に書き下ろし長編小説『格闘する者に○』(新潮社)でデビュー。2006年には『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋)で直木賞を受賞。その後も、2012年『舟を編む』(光文社)で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』(中央公論新社)で織田作之助賞を受賞するなど、デビューから20年が経つ今でもその人気が衰えることを知らない。青春時代にしか味わえないほろ苦さや、フレッシュさ、そして臨場感あふれる心理描写が人気。

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