1. トップ
  2. 恋愛
  3. 過剰なプラス思考「ポリアンナ症候群」の特徴3つと予防法

過剰なプラス思考「ポリアンナ症候群」の特徴3つと予防法

  • 2015.6.23
  • 3334 views

【ママからのご相談】

40代。大学2年生の息子のことでご相談です。競争率10数倍の難関私大附属中学校を受験し、合格して以降ずっと順風満帆な10代の日々を過ごしてきた息子は、これまでの成功体験が大き過ぎて世の中を甘く見ているような気がしてなりません。 中学時代は全校の英語スピーチ大会で優勝したり、高校時代には自分で立ち上げた7人制ラグビー部がマスコミから取材を受けたりと、何もかもうまくいってきたように感じます。母親としてはうれしいことが多かったのは事実です。

現在、息子は全国から優秀な学生が集まる大学の理工学部に在籍しているものの、これといって何の課外活動もしていません。それなのに、「俺は大丈夫さ。どこだって就職できる」と公言してはばかりません。もしかしてポジティブ過ぎる『ポリアンナ症候群』なのではないかと、とても心配です。

●A. ネガティブ思考も問題ですが、ポジティブ過ぎる思考も現実を見ないことにつながり、問題があります。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

何年か前のことになりますが、甲子園の高校野球大会や神宮の六大学野球で大活躍し、鳴り物入りでプロに入団した人気投手がいました。ところが、プロの1軍ではなかなか結果を残せず、2軍の試合でも滅多打ちを食らったにもかかわらず、「自分の投球はできた。いつ1軍に呼ばれてもいいように準備をしたい」という趣旨の発言をして、周囲のひんしゅくを買いました。

このとき、精神医学の専門家らから、「あの選手は甲子園や神宮での成功体験があまりにも大きいため、“自分流”を貫けば必ず報われると思い込んでおり、プロ野球のレベルという現実を直視できていない“ポリアンナ症候群”が疑われる」と指摘されたのです。

ご相談者様が息子さんに関して心配されるように、ネガティブ思考も問題ではありますが、ポジティブ過ぎる思考も現実を見ないことにつながり、問題があります。都内でメンタルクリニックを開業する精神神経科の医師のお話を参考にしながら、考えてみましょう。

●“ポリアンナ症候群”とは何か

『ポリアンナ症候群は楽天主義の負の側面を表した心的疾患の一つで、ぶつかった諸問題の中の良い部分だけを見て自己満足し、問題解決に至らないことを特徴とする、一種の“現実逃避の思考様式”です。正式な医学用語ではなく、1913年にアメリカの小説家エレナ・ホグマン・ポーターが発表した児童向けのベストセラー小説“少女ポリアンナ”の主人公、ポリアンナが超前向きな少女であったことに由来してつけられた症状名で、心理学的な用語です』(50代女性/都内メンタルクリニック院長・精神神経科医師)

●前向きであることの何が問題なのか?

プラス思考で前向きであることには、もちろん良い面も多々あります。例えば、“有言実行”という言葉に象徴されるように、ある程度の実力を持った人でも達成できるとは限らないような高い目標を掲げておいて、それを公言することで自分にプレッシャーをかけて目標達成のための努力をする。

その結果、目標を達成して世間から高く評価され、自分自身も達成感を得るという人がいます。これなどは、前向きであることが良い方向に作用するケースの一例と言えます。ただ、忘れていけないのはこの場合、本人の努力がちゃんと伴っています。

『一方、とある小さな町工場の主が独自の商品を開発して大ヒットを飛ばし、一躍有名企業の社長さんになりました。数年の間はよかったのですが、5年、10年とこれといった新製品の開発や技術の向上がないのに、「私はあの国民的人気商品を世に出したという“何か”を持っている。会社がおかしくなるわけがない」と言い続け、その後とうとう巨大な資本を持つ企業グループに吸収されてしまいました。もう会社の名前も残っておらず、国民的人気商品の販売権も巨大企業グループに譲渡されました。

この社長さんなどはポリアンナ症候群の典型的な例と言うことができるかもしれません。持ち前の前向きさが大ヒット商品を生み出しもしたのでしょうが、その後の努力が伴わないのに楽天的であり過ぎたために、名誉と権利を失うことになってしまったわけです』(50代女性/前出・精神神経科医師)

●こんな人は注意! ポリアンナ症候群を疑うべき特徴3つ

前出のドクターによれば、次のような傾向のある人もポリアンナ症候群を疑ってみる余地があるとのことです。

●採用試験などで不合格になったことがなく、自信満々

中学・高校・大学受験とことごとく合格が続き、採用試験で不合格になったことがなく、これからの就職活動などでも「不採用になるわけがない」と思い込んでいる。

●宝くじで高額賞金を当て、それ以来ハマっている

以前に宝くじで高額賞金を当てたことがあり、その後年末ジャンボ宝くじなどは毎回毎回何万円分も買うが、一向に当たらず損ばかりしている。それでも本人は、「自分は“強運”を持っている。買い続けていればいつかきっと当たる」と信じて疑わず、家族をハラハラさせている。

●現状を正確に判断せず、楽観的

真夏の炎天下で、熱中症防止のために持参していた水が水筒の3分の1以下にまで減っているのに、「まだ3分の1は入っている」と考え、気にしない。新たに水を補給しようとしない。

----------

いかがですか。思い当たる人は注意が必要です。

●ポリアンナ症候群にならないためのキーワードは“謙虚さを忘れず、過信しない”こと

『18世紀の産業革命時における工業機械や蒸気機関などの動力源のイノベーション。19世紀の第2次産業革命での電気や化学の分野での技術革新。20世紀の航空機の実用化とその技術の急速な発達。こういった過去3世紀にわたる技術革命のスケールにも増して、21世紀の今を生きる私たちはハイスピードで日々進化する“情報技術革命”の時代に生きています。以前のように同じ技術を持っていれば何年もご飯が食べられるという時代は、終わってしまいました。

このような時代にポリアンナ症候群に陥ることは、生活して行くうえで大きなリスクをはらんでいます。過去の成功体験は、それをもって自らを“過信”するほどの根拠にならなくなってきているからです。今の時代を生き抜くうえでは、“謙虚さを忘れずに、自分を過信しない”という態度が大切です』(50代女性/前出・精神神経科医師)

こうして考えてくると、ご相談者様が息子さんに対して抱いている危機感は、適切なものであるように思えます。

息子さんはせっかく最新の技術を学ぶことができる優秀な大学の理工学部に通っています。これまでの自分の成功体験を過信せずに、最新の技術を学ぶ謙虚さを持つように心がけないと、これから息子さんが生きて行く時代にあっては挫折を味わう恐れも多分にあると言うことができるでしょう。

おそらく聡明な息子さんは既にそのことに薄々気づいているのではないかと思います。母親から直接的に説教じみたことを言われたら、かえって馬鹿馬鹿しくなってしまう年齢ですから、食事のときにでもさり気なく、「こんな説もあるみたいよ」とポリアンナの話題を出してみるといいかもしれません。

「そんなことは、知っているさ」と呟きながら、自分が“楽観的”であり過ぎていた部分を立ち止まって見つめ直し、明日からの大学生活をより謙虚に、意欲的に過ごされるということも考えられます。ポリアンナ症候群の傾向がある人はそもそも能力に恵まれているのですから、ちょっと人の話を聞きさえすればまた新たな成功体験へと進んで行く可能性もあるのです。

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

の記事をもっとみる