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写真家、上田義彦がとらえた名女優たちの横顔。

  • 2021.4.27
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初の映画『椿の庭』(シネスイッチ銀座ほか全国にて公開中)に挑戦した写真家、上田義彦。脚本から監督、撮影、編集まで自ら手がけた本作を通して、上田にしか描けない美しい世界観をひもとく。

上田義彦 うえだよしひこ写真家、多摩美術大学教授。日本写真協会作家賞、東京ADC最高賞、ニューヨークADC賞など受賞歴多数。代表作に『QUINAULT』『AMAGATSU』『at Home』、30有余年の活動の集大成『A Life with Camera』など。4月9日~5月12日まで、東京・丸の内のエプサイトギャラリーにて写真展『椿の庭』を開催する。

「透明感の内に、激しいものを秘めた人」

「1年かけて映画撮影というのは、ほかの現場にはないことでした。ゆっくりと自然を映したり、祖母と孫の姿を静かに追う。いろんな意味で、いまの映画には珍しい作品だと思います」。そう語るのは、本作で富司純子とダブル主演を務めた韓国人俳優のシム・ウンギョン。上田が初めて会った頃はまだ日本語がたどたどしく、言葉よりも想いのほうが先に立っていたように感じられたという。その強く澄んだ存在感に、演技を超えた何かが映るのでは……と、上田は14歳という当初の人物設定を変えてまで出演オファーを決意した。

沈 恩敬 シム・ウンギョン1994年、ソウル生まれ。2004年に韓国で子役デビュー。14年、主演映画『怪しい彼女』でブレイクし、17年から日本での活動を開始。『新聞記者』(19年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。

「僕の心の中にある、いわば生理的な映像」

「記憶が堆積する場所、その象徴が家」

映画の中でもたびたび登場する思い出の居間。「記憶とはある場所に堆積していて、そこに戻れば洪水のように押し寄せてくる。写真は観る人が目を離すまで、ずっと観続けることができる。いわば“閉じ込められた時間”を見ている。でも、いまあるものがいつかは消えてしまうという喪失感、物事が“うつろっていく”という表現は、映像の中でのみ起こりうること。だからこそ、映画に挑戦したいと思いました」

「佇まいで、この人しかいないと思った」

着物/すべて本人私物

取材当日、春らしい鶸色(ひわいろ)の紬で微笑む富司純子。『椿の庭』は、実に14年ぶりの主演作。「この人に断られてしまったら、映画をやめようかと思った」と言うほど、上田が出演を熱望した。彼女の美しい所作や佇まいは、本作の要でもある。その奥ゆかしい美を築くものとは?「 自分に正直に、あるがままの自分でいること……でしょうか。わたくしはそうして生きてきましたし、これからもそうありたいと思います。この映画では、上田監督ならではの自然光の柔らかさ、カメラアングルの美しさを楽しんでいただけたら」

富司純子 ふじ すみこ1945年、和歌山県生まれ。63年に藤 純子(ふじ じゅんこ)として女優デビュー。銀幕のスターとして一世を風靡したが、結婚を機に引退。89年に高倉健との共演作『あ・うん』で映画復帰を果たし、富司純子に改名した。2007年に紫綬褒章、16年には旭日小綬章を受章。

*『フィガロジャポン』2021年5月号より抜粋

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