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菅田将暉×神木隆之介×仲野太賀『コントが始まる』が良すぎる。傑作誕生の予感を「3つの涙」で考察

  • 2021.4.24
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4月17日に第1回が放送された『コントが始まる』(日本テレビ 毎週土曜夜10時〜)が凄い。菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀はお笑いトリオ「マクベス」を組んでいる。ファミレスで働く有村架純は、楽しそうな「マクベス」たちのファンになる。笑いで始まる1話だが、3人の「泣いているシーン」が印象的に挿入された。作中に登場した『ぷよぷよ』の作者であり、ドラマもお笑いも大好きなゲーム作家・米光一成が、複雑な感情が入り混じった「泣き」のシーンを考察する。

『俺の話は長い』の金子茂樹脚本

『コントが始まる』がめちゃめちゃ良い。
ドラマ冒頭で、コントが始まる。
このコントが、残り53分の壮大な伏線になっている。という斬新な構成だと宣伝され、そこをピックアップされがちだが、もちろん、ん、な、ことだけじゃないんだ。

金子茂樹脚本(生田斗真主演の30分2本立てホームコメディ『俺の話は長い』で第38回向田邦子賞受賞。『俺の話は長い』も大傑作なので『コントが始まる』の第1話に興奮した人はぜひ『俺の話は長い』も観るといいよ!)の、ドラマティックでありながら大仰さをブーストさせることなく極めて厳しいリアリティランを保った脚本。もしかしたら、自分たちにもこんな青春があったのかも(もしくは、これからあるのかも)と思わせてくれるハッタリなしの会話劇だ。

演じるのがむちゃくちゃ難しいであろう繊細な脚本を、見事に演じているのが若い(全員20代!)俳優陣。
お笑いトリオ「マクベス」の発起人であり、二人を巻き込んだ張本人であり、ネタを書いているリーダー高岩春斗を菅田将暉。
最初の相棒であり、リーダーが投げる球をどんどん打ち返すタイプの美濃輪潤平を仲野太賀。
高校三年の夏に『ぷよぷよ』日本一になりプロゲーマーの道を歩むが挫折して「マクベス」に加入する朝吹瞬太を神木隆之介。
ファミレス「メイクシラーズ」に毎週決まった時間に来るマクベスの三人をアルバイト中に見て興味を持ち応援することが自分の人生の支えになっている中浜里穂子を有村架純。
中浜里穂子の妹で一緒に暮らしている中浜つむぎを古川琴音。
『GINZA』にイラストコラム連載中の松田ゆう姫も、中浜つむぎが働いているスナックのママ役で登場。
まあ、みんな上手い。上手いというか、ほんとうに居る。その青春の群像の現実の世界の中にみんなが居て、観る者をどっぷりとひたらせてくれる。

第1話には3回、三人の「泣いているシーン」がある。しかも、それが単純な「泣き」じゃなく、複雑な感情が入り混じった「泣き」のシーン。

名作『ひまわり』のように

最初の泣きは、中浜里穂子(有村架純)。
三人組が何というコントグループかネットで探しまくる日々。ようやく見つけたのは探し始めて1週間後。
「マクベスっていうんだ」
ハハハと笑って、笑って、泣き始める。
「ようやく探し当てた達成感からなのか
浪費した時間のむなしさからなのかしばらく泣いた」
とナレーションで語るが、その後につけくわえた言葉が、泣き声に重なって、観る者の胸に迫る。
「泣いたのは会社を辞めた日以来1年ぶりのことだった」

会社を辞めた理由は第1話では詳しく語られないが、ぽっかりと胸に穴が開いたような気持ちだったんだろうなと想像させる。そこに「マクベス」がピタリと入ったのだ。そのことで1年ぶりにようやく立ち直ることができて泣けたのだ。名作『ひまわり』(ヴィットリオ・デ・シーカ監督)で、悲しい再会の場面では涙を流さずに、列車に乗ってからようやく泣くシーンを思い出した。
ゆっくりと、「マクベス」が中浜里穂子の人生の一部になっていく。
ところが、初めて観に行った単独ライブで「次回の六月の単独ライブを持ちましてマクベス解散することになりました」と知ることになる。

いっつもラーメン食い終わったあと

ふたりめは、美濃輪潤平(仲野太賀)。
「じゃあ、次のオーディションで決めればいいじゃん」
解散についてもめてる二人に提案するのは朝吹瞬太(神木隆之介)。
オーディションがさんざんで、意気消沈して黙ってしまったふたりを連れて、勝手に車を福岡まで転がして博多ラーメンを食べることにしたのも朝吹瞬太だ。
三人そろって三回ずつ替え玉をして、食べ終わったときに高岩春斗(菅田将暉)が言う「解散するか」。
沈黙。
「ふ…ふふふ」と二人が笑いだす。
「え? いやいや、はぁ?」
「はははは」
「笑うとこじゃねぇし」
ふたりは交互に「ラーメン食べ終わってから言おうって決めてたの?」「ためてるときの、顔な」と言い合いながら笑い続ける。

美濃輪潤平が、高岩春斗に向かって言う。
「お前ってさ、大事な発言するとき」
顔は笑っているけど目は潤んでいる。
「いっつもラーメン食い終わったあとなのな」
笑っている顔のままで泣き顔になっている。泣きながら、声をふりしぼる。
「俺のこと誘ったときもそうだったろ」と。
10年前にマクベスを一緒にやろうと誘ったのもラーメンを食べた後だった。
「10年前の伏線回収してんじゃねぇよ」
シリアスな顔から、じわじわ笑い顔になって、大声で笑って、笑った顔のまま泣き顔になっていく。いろんな感情が渦巻いている複雑な難しい感情の流れを、自然に、描き出している。こちらの感情も動かされてしまう。

見事に演じきった菅田将暉

最後の泣きは、高岩春斗(菅田将暉)。
「三人で過ごしてるあの時間は、後悔するような時間には見えませんでした。むしろこっちが嫉妬するぐらい輝いてみえました。楽しそうに見えました」という中浜里穂子の声に心を動かされて、高岩春斗が泣く。
こらえようとしてもこらえようとしても出てくる涙、嗚咽。しかも、そんなときに「水のトラブル777に電話しましょうか」とか言うもんだから(その後「すいません。調子に乗りました」と言うのもいい)、笑い泣きになったりして、ほんと演じる人に過酷な脚本。それを、菅田将暉は見事に演じきった。

三者三様の涙の場面、しかも単純な泣きではないシーンが1話のなかに詰め込まれていても、泣くシーンが多いと思わせない構成も見事だ。
金子茂樹脚本は、場面を積み重ねていくことで凄みが増して、1話目よりも2話目、2話目よりも3話目が面白くなっていくタイプ。しかも、複雑な感情の動きを自然に演技できる俳優陣(というか、観てるこちらとしてはもはや演者というより「マクベス」の三人とそれを応援している里穂子がもう居る、という気持ちだ)がそろっている。最高のドラマになっていく予感しかしない。

『コントが始まる』公式サイト(日本テレビ)

脚本: 金子茂樹
演出: 猪股隆一、金井紘
出演: 菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀、有村架純、古川琴音、松田ゆう姫 他

主題歌: あいみょん「愛を知るまでは」

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