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「はぐれましたか?」本屋大賞ノミネート作家が贈る「道しるべ」

  • 2021.4.9

2021年4月7日、『鎌倉うずまき案内所』(宝島社)が発売された。平成時代をさかのぼりながら綴られる、悩める6人の「気づき」の物語だ。

表紙には、NHK朝の連続テレビ小説のオープニングを手掛けたミニチュア写真家の田中達也さんの作品を起用。物語の世界観が温かみのあるミニチュアアートで表現されている。

本書のあらすじは、以下の通りだ。

古ぼけた時計店の地下にある「鎌倉うずまき案内所」。そこには、双子のおじいさんとなぜかアンモナイトが待っていて...。会社を辞めたい20代男子。ユーチューバーを目指す息子を改心させたい母親。結婚に悩む女性司書。孤立したくない中学生。40歳を過ぎた売れない脚本家。ひっそりと暮らす古書店の店主。平成の終わりから始まりへ、6年ごとにさかのぼる、6つの「気づき」の物語。

ここでは、第1話の「二〇一九年 蚊取り線香の巻」から本書のさわりを紹介しよう。

主人公の早坂瞬は、都内の出版社に勤める20代の編集者。男性向けビジネス誌の編集をしたくて入社したのに、主婦向け雑誌の編集部に配属されて6年。上司ともうまくいかず仕事への意欲を失い、退職願を出しあぐねて悶々とする日々だった。

ある日、仕事の打ち合わせで鎌倉の喫茶店に行った早坂は、作家に頼まれたタバコを買いに外へ出る。道に迷い、細い路地を進んだ先に忽然と「鎌倉うずまき案内所」と書かれた古い時計屋が現れる。らせん階段を下りた先には、グレーのスーツを着た双子のおじいさんが待っていた。

「はぐれましたか?」
爺さんのひとりが僕に言った。
「いや、はぐれたというか、迷って......」
そこまで言いかけて、「はぐれる」という言葉は今の自分にあまりにもしっくりくるように思えた。

「瞬さんには、蚊取り線香とのご案内です」という謎の言葉とともに、「困ったときのうずまきキャンディ」を持たされ、案内所を出た早坂。その後も「退職したい」という意思は変わらなかったが、あることをきっかけに、周囲の人々の思いや、仕事のやりがい、進むべき道に、自ら気づいていく――。

どの登場人物も、何かに「はぐれて」悩んでいるが、答えは自分の中にあると気づかされる。その「気づき」に至るまでの心の動きがやさしく温かい筆致で描かれている。

著者の青山美智子さんは、今大注目の新人作家だ。デビュー作の『木曜日にはココアを』で第1回宮崎本大賞を受賞。さらに、同作と2作目『猫のお告げは樹の下で』は未来屋小説大賞に入賞し、2020年に発売された『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)は、2021年本屋大賞にノミネートされた。デビュー直後から人気作品を続々と発表している。

青山さんの作品は、人との繋がりや優しさを描いた連作短編形式が特徴的だ。「心が癒やされた」「心がほっこりして優しい気持ちになれる」というファンの声からも分かるように、ゆったりと作品を味わいたい方にオススメだ。

女優で鎌倉市国際観光親善大使の鶴田真由さんは、

「私も、あなたも、あの人も、重なりながら渦模様の中で一生懸命生きている。ミラクルすぎる!!」

とコメントしている。本書を読めば、この言葉に深くうなずくことだろう。

日常につかれたとき、進むべき道や大切な誰かと「はぐれて」しまったときに、気づきを与えてくれる一冊。

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