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狭いことがメリットに? “団地暮らし”が子どもの自立心を育てるワケ

  • 2015.6.17
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【ママからのご相談】

40代。夫と共稼ぎで小学生の一男一女を育てているママです。住まいは持ち家ではなく、大都市近郊の大規模団地です。今、『団地ともお』という漫画が人気のようですが、うちの子たちもまさにあんな感じで、 ばかばかしくも楽しい日常生活を送る普通の子どもたちです。最近、わりと有名な評論家の方が、「団地育ちの子は一般的に言って“こころが健康”。一軒家や分譲マンションで育つ子たちにとって、生活の仕方という面で参考にすべき面を持っている」とおっしゃっていました。具体的にはどういうことなのでしょうか。

●A. 団地暮らしの子は社会から“孤立”せずに育つことができる点が、“心の健康”という面で大きいのです。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

小田扉さん作の人気漫画『団地ともお』、ご存じでしょうか。2015年2月のテレビアニメ全78話の放送終了後も視聴者からの要望で再放送されている人気のアニメ・漫画です。

主人公の木下友夫くんはマンモス団地の29号棟で暮らす小学4年生の男の子で、勉強はどちらかというと苦手でスポーツもそれほど得意ではないのですが、遊ぶことと食べることが大好きで大らかな人柄の愛すべき少年です。

このアニメを見ていてもわかるのですが、団地暮らしの子は現代のわが国においてその多感な少年少女期を社会から“孤立”せずに育ち、日常生活を送ることができるという面があり、それこそがご相談者様がご覧になった評論家の方がおっしゃっていた真意であろうと思います。

都内でメンタルクリニックを開業する精神科医の先生にお話をうかがいながら、考えてみることにいたしましょう。

●居住空間が狭く引きこもれない住環境が知恵を生み、家族の会話につながると同時に、「実家は出て行かなければ」との自立心を育む

『団地の暮らしの特徴の一つに、居住空間の狭さがあります。3DKの間取りに4人家族が暮らすというのが最も標準的なパターンでしょうが、正直、十分にプライバシーが守られているとは言い切れません。しかしながら、そこで生活しているのは親子、兄弟といった“家族”ですから、見られたくないことはみんなが寝静まってからするなどの知恵を働かせれば、けっこうやっていける面があります。

むしろ、子どもを引きこもらせずに家族の会話に引っ張り出すという面で良いことの方が多い気がします。また、子どもがもっと大きくなって成人に近い年齢になってきたときには、「やっぱり、もうそろそろ狭い実家は出て行こう」という自立心を促すメリットもあります。スタジオジブリ製作の劇場アニメ“耳をすませば”の主人公である月島雫の大学生の姉・汐がそうでしたね』(50代女性/都内メンタルクリニック院長・精神科医)

●上原浩治選手にみる団地育ちの子の“みんなと仲良く生きる”という価値観

団地育ちの子どもの精神面での健康さという意味で思い起こされるのは、米メジャーリーグのボストン・レッドソックスでクローザーとして活躍する上原浩治選手(投手)のことです。上原選手は大阪府寝屋川市の出身で、少年野球の指導者であった父親から野球を教わりながらずっと、大阪の団地で育ちました。

『プロ(巨人)入りした直後の遠征の際、上原選手がデパートの紙袋に荷物を入れて東京駅の新幹線ホームに現れたときのことは、精神科の医師として今でも忘れません。他の選手たちがみな高級ブランドのボストンバッグであることをこれっぽっちも気にすることなく、それどころか、「どこか、おかしいですか?」と周囲に聞いたのです。近年、“アザーコンプレックス”という言葉がメディアでも頻繁に使われるようになっていますが、上原選手の場合はアザーコンプレックスの対極に位置しており、「他人がどう思うかなんて気にしない、自分は自分」という精神的な“健康さ”を持っていると言えます。

その後、報道などで上原選手が“団地育ち”であったことを知り、目からうろこが落ちる思いでした。団地育ちの上原選手にとって、友だちも、世話を焼いてくれる近所の大人たちも、みんな似たり寄ったりの狭い間取りの家で暮らしているわけで、「自分の家は広いぞ」だとか、「高価だぞ」とかいった“見栄”は、そもそも頭の中にない。そういったどうでもよい価値観ではなく、仲間とかファンとか近所の人たちと共に“仲良く生きる”ということだけが、上原選手にとっては大切な“価値”として育まれていたのです』(50代女性/前出・精神科医)

上原選手のその後のメジャーリーグでの活躍と、ゲームを締めくくり仲間とハイタッチをして喜び合う姿を見ていると、ドクターの話に思わずうなずいてしまいます。

さらに言うならば、団地で暮らす人は、人付き合いが得意だとか苦手だとかに関係なく、ある程度強制的に近所付き合いを強いられます。子どもたちがみんなの共有スペースを汚したりすれば注意してくれるおじさんがいて、そうかと思うと、遊んで転び、ひざを擦りむいた子どもがいれば、ばんそうこうをくれるおばさんもいます。

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ご相談者様。今、便利さと引き換えに人間関係が希薄になってしまっている私たちには、団地育ちの子どもから学ぶべきことがあります。それは、彼らが成長する過程で自然に身につけてきた、「人は支え合って生きていくものだ」という至って健康な感性なのではないかと、私は思います。

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

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