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DNA検査でルーツを探すフランス人たち。

  • 2021.3.31
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フランスで、本来は禁止されている遺伝子検査が関心を集めている。唾液を採取してアメリカに郵送し、遺伝子解析サービスを利用するというわけ。目的は、自分自身をよりよく知ること、そして地球上に散らばっている親戚を探し出すこと。

2019年にGeneanetが行った調査によると、フランス人の56%がDNA検査を行ってみたいと回答した。 photo : Vitranc / iStock

マリアンヌは若い頃から自分のルーツに疑問を抱えていた。タクシー運転手からはカビール人かと問われ、バカンスに出かければ、ギリシャ語で話しかけられる。学校ではポルトガル系ではないかとか、セファルディムの血が入っているかもなどと言われた。

現在40代の彼女は、匿名出産で誕生し、生後すぐから養父母に育てられた。周囲も彼女の生まれについてあれこれと予想した。「ルーツがわからないと、いろいろなことを想像したり、他人の幻想を信じたりします」。

まさにその他人が彼女の背中を押した。親しい友人たちが彼女の35歳の誕生日に、Family TreeのDNAテストをプレゼントしてくれたのだ。「決して軽い持ちではなかった」と彼女は語る。友人たちが見守るなか、綿棒で頬の内側をこすり、それを封筒に入れた。「パリのバーで、みんなで盛り上がりました」

数週間後、1通のメールが届いた。開いてみると、緑、黄色、オレンジと色分けされた世界地図が表示された…。世界中にいる登録者のなかにマリアンヌと遺伝子が共通する人たちがどれだけいるかを、この図は示しているのだ。

マグレブ・エジプト出身者が25%、ギリシャが24%、イタリアが17%、イギリスが13%。被験者の中に、彼女の遺伝子プロフィールと近い人がいることもわかった。アメリカ人の男性で2~4親等の親族の可能性がある。数年前に生みの親探しを諦めた彼女にとっては、思いがけない収穫だった。

「消化するのに数週間かかりましたが、自分にとってプラスになった」と彼女は言う。「今は、私にもルーツがあると胸を張って言える。もうじき子どもが生まれるのですが、娘にもこのことを伝えようと思います」

AncestryDNA、My Heritage、Family Tree、23andMeなど、遺伝子をもとに系譜調査を行うアメリカ企業のサービスを利用するフランス人の数は年々増加している。利用者はマリアンヌのように自分の出自を知らない人から、出自は明らかだが家族の歴史をより詳しく知りたいという人までさまざまだ。

2019年にGeneanetが行った調査によると、DNA検査を行ってみたいと回答したフランス人は56%。ことに、25歳以下の回答者の85パーセントがイエス、と答えており、若者の間でDNA検査が人気を集めている実態がうかがえる。2018年の1年間だけで、世界中で1500万人が検査を注文している。由緒正しい科学技術雑誌『MIT Technology Review』の推定によると、2021年末までに、商業化開始以来の総注文数は1億を超えるという。

個人情報に関わるデータ?

民間事業者による消費者向け遺伝子検査はフランスではまだ違法(とはいえ、これまでに罰金の3750ユーロが適用されたことは一度もない)とされており、DNA検査が認可されているのは、医療機関または裁判所などの公的機関で実施される場合(親子鑑定など)のみ。

認可の拡大に反対する人たちは、2019年に当時の保健大臣アニエス・ビュザンが発言したように、家族の秘密が明るみに出ることで家庭の崩壊につながりかねない点をとくに危惧している。

「ばかげた話です」と、民間団体DNAPass代表、ナタリー・ジョヴァノビック=フロリクールは一蹴する。ジャン=ルイ・ボカルノとの共著『家族の最新ニュースは? DNA検査が照らし出す私たちの家系図』(1)が先ごろ出版されたばかりだ。「イタリア、ドイツ、ベルギーで実施された調査によると、DNA検査で親子関係の不在が判明したのはたった1%(不倫以外に、産院での取り違え、親が強姦被害者の場合、養子縁組、精子・卵子提供も含む)にすぎません」。

反対派にとっては、アメリカの大手DNA検査会社が遺伝子データを巨大製薬企業に転売していることも看過できない問題だ。検査会社側は顧客の合意を得ていると主張するが、すべての顧客が利用契約書の下の方に小さな文字で書かれている条項まで読んでいるとは限らない。

一般向け遺伝子検査キット

いずれにせよ、いまやDNA検査キットはクリスマスや誕生日、金婚式、バレンタインデーのプレゼントとして贈る人もいるほど一般化している。唾液のサンプルを郵送するだけで、家族の歴史や民族的ルーツがわかるというのは、たしかに魅力的なサービスだ。値段も簡易検査で49~80ユーロと、安くはないが手が届く範囲。切実な思いを抱えて親探しに奮闘するというのとはかなり様子が違う。

検査結果では、色分けされたカラフルな世界地図に、被験者の遺伝子構成がパーセント表示される。検査では少なくとも6世代前まで遡れるというが、自分と「マッチする」人が数百人いたとしても、そのなかに実際に血縁関係のある人はいなかったということも珍しくない。そもそも7世代前の先祖を共有する人を知ったところで自分にとって何になるのか、という問題もある。一族の物語でも書いてみる? あるいは想像力への刺激になる?

『家族の最新ニュースは?』共著者のジャン=ルイ・ボカルノは、遺伝子検査キットを家系調査の進化系だと位置づける。「ぼろぼろの洗礼台帳を調べることに熱中した世代があり、その後インターネットが登場すると、検索サイトを利用した先祖探しという方法が生まれました。ここ1~2年、新しい世代はやや衝動的なやり方で解決策を見つけようとしているようです」。結局、やっていることは同じだ。「古文書好きは教区の文書館で何時間も資料を漁り、遺伝子テストをする人は、結果を分析するのに何日も費やすというわけです」

心の支えとして

家族と一口に言っても、さまざまな形があり、「神聖なもの」という概念は、現在、大きな変貌を遂げつつある。

離婚や再婚が増え、義親にも法的地位が認められるようになり、男女のカップルだけでなく、ホモセクシャルやレズビアンのカップルも、人工授精や体外受精、代理母出産、あるいは第三者からの精子・卵子提供を受けた生殖補助医療を利用できるようになってすでに数十年が経つ。遺伝子上のつながりと親への愛情の相関関係はしだいに成り立たなくなりつつある。

遺伝子検査への関心の高まりはこうした社会の変化と矛盾するのではないだろうか?いや、それはむしろ心の支えを求めることに近いのかもしれない。

ジェネーブ大学倫理・歴史・人類研究所元教授で、フランス国立保健医学研究所倫理委員会メンバーのベルナール・バールチ(2)は、「自分がどこに行くかはわからなくても、どこから来たのかはわかる」ということではないかと述べている。「DNA検査をすれば、自分が“本当に”何者なのかがわかると考えるのだろう」

フランス国立科学研究センターの科学技術史・思想史研究部長フィリップ・ユヌマン(3)はこの傾向に、運命論という悲劇の原理の復活を見る。「かつては社会構造が個々のアイデンティティの基盤だった。父親が大工なら、子どもも父親のように大工になっていた」。医師の子は医師、法律家の子は法律家に…。

時代は変わった。DNA検査が可能にした遺伝子探しの旅は、人類という共同体の中に自分を位置づける新たな道を示している。やや安易なところはあるにせよ。

(1)Jean-Louis Beaucarnot、 Nathalie Jovanovic-Floricourt共著『Quoi de neuf dans la famille?』Buchet-Chastel出版刊。(2)(3)『レクスプレス』紙による2018年のインタビューを参照。

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